健康診断

健康診断の基本

(1) 健康診断の実施は事業者の責任である
(2) 健康診断は判定を含め医師が行う
(3) 健康診断の実施方法(健診項目等)は厚生労働省の定めるところによる
(4) 健康診断は事後措置等が行われることに意義がある

健康診断の種類

一般健康診断 労働安全衛生法第66条第1項に定められた健康診断で、労働者の一般的な健康状態を調べる。
特殊健康診断 労働安全衛生法第66条第2、3項で定められた健康診断(じん肺法第3条に定められている健康診断を含む)。
労働衛生対策上、特に有害であるといわれている業務に従事する労働者等を対象として実施する。
じん肺健康診断、鉛健康診断、特定化学物質等健康診断、電離放射線健康診断、有機溶剤健康診断、石綿健康診断、高気圧業務健康診断、四アルキル鉛健康診断、歯科健康診断

一般健康診断の種類

雇入時の健康診断 常時使用する労働者を雇い入れる際に実施(安衛則第43条)
定期健康診断 常時使用する労働者に1年以内ごとに1回実施(安衛則第44条)
特定業務従事者の健康診断 常時深夜業に従事する者等、安衛則第13条第1項第2号の業務に従事する労働者について配置換えの際及びその後6ヶ月以内ごとに実施(安衛則第45条)
海外派遣労働者の健康診断 労働者を6ヶ月以上海外に派遣する際及び6ヶ月以上海外に派遣した労働者を帰国させ国内の業務に就かせる際に実施(安衛則第45条の2)
結核健康診断 上記の健康診断の際、結核の発病のおそれがあると診断された労働者に対し、おおむね6ヶ月後に実施(安衛則第46条)
給食従事員の検便 給食従業員を雇い入れの際、当該業務への配置換えの際に実施(安衛則第47条)

雇入時の健康診断

常時雇用しようとする労働者を雇い入れるときは、次の項目について健康診断を実施する必要があります。原則として検査項目の省略は認められませんが、医師による健康診断を受けてから3ヶ月以内の者が、その結果を証明する書類を提出した場合には、その項目は省略することができます。

(1) 一般問診 既往症および業務歴の調査
(2) 自覚症状および他覚症状の有無の検査
(3) 一般計測 身長・体重・肥満度・BMI・腹囲、視力および聴力(オージオ)
(4) 循環器系 血圧の測定
(5) 心電図検査(安静時標準12誘導)
(6) 呼吸器系 胸部エックス線検査
(7) 血液検査 血中脂質検査
(血清総コレステロール、高比重リポ蛋白コレステロール(HDLコレステロール)および血清トリグリセライドの量)
(8) 肝機能検査(GOT,GPT,γ-GTP)
(9) 貧血検査(赤血球数、ヘモグロビン)
(10) 血糖検査
(11) 尿検査 糖、蛋白

労働省は、平成4年に、健康診断の実施規定は採用が決定した者に対する適性配置・入職後の健康管理の基礎資料に資するためのものであり、義務付けたものではないとの見解を出しました。

ただし、健康診断によって本人の素因や体質等を調査することなく有害な業務に配置し、症状を増悪させて重篤な結果を招いたときは会社の安全配慮義務違反であるとの見方もあります。(日本ポリティック事件 東京地裁 昭和58.11.10)

また、健康診断結果を速やかに告知しなかった場合は、「右義務の懈怠により生じた損害を賠償すべき義務がある」(京和タクシー事件 京都地裁 昭和57.10.7)とされる可能性があります。

京和タクシー事件 京都地裁 昭和57.10.7

採用時の健康診断で、「上肺に影」で要精密と判断された運転手に対し、会社は、健康診断結果を教えないで運転業務に従事させていた。

運転手は、定期健康診断で要精密と指摘され、休職し自宅療養していたが、会社から解雇予告通知が来た。

原告は、会社側の義務違反を指摘し、損害賠償を求めた。

裁判所は、会社は早期に就労を禁止し軽作業に就かせるなどで、健康状態を悪化させないよう注意義務があったが、それを怠ったとして、損害額324万円を認めた。


一人でも常時雇用する労働者がいれば定期健康診断を実施

常時使用する労働者については、毎年定期的に健康診断を実施しなければなりません。(労働安全衛生法第66条)

50人以上の従業員を使用する事業所で定期健康診断を実施した場合、労働基準監督署への結果報告が義務付けられています。

50人以下なら報告義務は免除されますが、定期健康診断の実施が免除されたわけではありません。

健康診断を行わなかった場合は、50万円以下の罰金となります。(労働安全衛生法第120条)

なお、健康診断の結果は健康診断個人票として記録し、5年間保存する義務があります。

診断項目

(1) 一般問診 既往症および業務歴の調査
(2) 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
(3) 一般計測 身長・体重・肥満度・BMI・腹囲、視力・色覚および聴力(オージオ)
(4) 循環器系 血圧の検査
(5) 心電図検査 ※
(6) 呼吸器系 胸部エックス線検査
(7) 血液検査 血中脂質検査(中性脂肪、HDL-C、LDL-C) ※
(8) 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP) ※
(9) 貧血検査(赤血球数、ヘモグロビン) ※
(10) 血糖検査
(11) 尿検査 糖、蛋白

※次の者については、以下の項目を省略することができます。
20歳以上の者:身長
40歳未満の者(35歳の者を除く):腹囲
40歳未満の者(20歳、25歳、30歳、35歳の者を除く):胸部エックス線検査
胸部エックス線検査を医師が必要でないと認める者:かくたん検査
40歳未満の者(35歳の者を除く):(5)、(7)、(8)、(9)、(10)


健康診断を実施しない場合の是正

まず、会社に穏便に話をしてみて、労働組合があれば、そこに相談します。それでもダメな場合は、労働基準監督署等に相談することになります(※必ず動いてくれるとは限りません)。

場合によっては、労働安全衛生法97条1項の規定による申告を行うことになります。

最終手段としては、刑事訴訟法に基づく告訴・告発があります。

株式会社甲野(安衛法違反、労基法違反被告)事件 大阪地裁 平成12.8.9

行政広報誌の編集等を行う会社。

会社は、退職1週間後にクモ膜下出血を発症して死亡した女性デザイナー(23歳)に対して年1回の定期健康診断を行わず、並びに同人の同僚デザイナーに対して入社時の健康診断及び年1回の定期健康診断を行わなかった。

また、3ヶ月間に時間外労働を158時間させ(最も長かった時間外は8時間を超えた)、独自の経営理念に基づき労働基準法に定める手続きを履行しないまま、就業時間についてはフレックスタイム制度を、給与については年俸制度をとっているとして、割増賃金34万余円を支払わなかった。このことが、労働安全衛生法・労働基準法違反行為とされた。

国は、広告会社及びその経営者を、それぞれ罰金40万円に処した。

裁判所は、定期健康診断については、時期は固定しないものの毎年行っていたことを認めたが、それ以外の点で刑事責任があるとして、検察官求刑どおり罰金40万円を認めた。

「未熟な者は時間を多く使うことからそのような者が残業をしても割増賃金を支払わなくても良いかのように主張するに至っては労働関係法規を守らなかったことに対する真の反省があるのかどうかに疑問を感じざるを得ない面がある」との厳しい判断が下された。


診断結果の利用

健康診断を実施した場合には、事業主はその結果を次のような場面で活用しなければなりません。

  1. 健康診断個人票の作成(労働安全衛生法第66条の3)
  2. 異常所見者について医師等からの意見聴取(同第66条の4)
  3. 2.の意見を勘案し、適切な措置の実施(同第66条の5)
  4. 一般健康診断については、受診者への結果通知(同第66条の6)
  5. 一般健康診断については常時50人以上使用の事業場(有害業務の健康診断は人数に無関係)は、労基署長へ健康診断の結果報告書を提出(同第100条1項)

労働安全衛生法66条の3第1項は、罰則こそありませんが、事業主は、健康診断の結果、労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更・作業の転換・労働時間の短縮等の措置を講ずるほか、作業環境の測定の実施・施設または設備の設置または整備その他の適切な措置を講じなければならないと規定しています。

また、会社は従業員の健康康診断個人票を5年間保存し、これに基づいて従業員の健康管理や適切な配置転換などの措置を講じなければならないものとされています。

東京海上火災保険・海上ビル診療所事件 最高裁 平成15.7.18 東京高裁 平成10.2.26 東京地裁 平成7.11.30

定期健康診断において、担当読影医師が肺ガンの存在を見落とした。

遺族ら2名は、死亡に至らせたとして注意義務・安全配慮義務違反を理由として、会社、診療所および医師に損害賠償を求めた。

第一審の判断

定期健康診断に対する医者の注意義務については、一定の限度がある。

医師の判断そのもの誤りは認められたが、安全配慮義務違反があるとまでは認められない、とした。

最高裁の判断

請求を棄却した二審判決を支持し、上告が棄却された。

死の四重奏と突然死

過労死・突然死の原因の約95%は脳・心臓疾患であること、その根底にある動脈硬化の主要なリスクファクターは、"死の四重奏"といわれる高血圧、高脂血症、肥満、高血糖などであること、それぞれ単独でのリスクは軽度でも、複数重複することによって累積的に増大していくことが明らかになってきました(メタボリックシンドローム(代謝症候群))


非正規従業員の健康診断

健康診断の対象は「常時使用される労働者」に限られるか

事業主は、パートタイム等の労働者についても次の(1)~(3)までのいずれかに該当し、1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であるときは、健康診断を実施する必要があります。

また、概ね2分の1以上であるときは、実施することが望ましいとされています。

(1) 期間の定めのない労働契約により使用される者
(2) 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上使用される予定の者(特定業務「労働安全衛生規則第13条第1項第2号に掲げる業務」従事者にあっては6ヶ月)
(3) 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上引き続き使用されている者(特定業務「労働安全衛生規則第13条第1項第2号に掲げる業務」従事者にあっては6ヶ月)

以上の要件を満たす場合(「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について」 平成5.12.1 基発第663号ほか)、労働安全衛生法第66条の定めるところにより、以下の健康診断を実施しなければなりません。

(1) 雇入れの際の健康診断
(2) 1年以内ごとの定期健康診断
(3) 特定業務に常時従事する者に対する配置替えの際の健康診断及び6ヶ月以内ごとの定期健康診断
(4) 一定の有害業務に常時従事する者に対する雇入れ、配置替え、その後定期に行う特別の項目についての健康診断
(5) その他必要な健康診断

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