腰痛の労災認定基準

業務上腰痛の認定基準(基発第750号 昭和51.10.16)

腰痛については「医学上療養を必要とするものについては、労基則別表第1の2第1号に該当する疾病として取り扱う」とされていますが、言い換えるならば、療養の必要のないような軽い腰痛は業務上の疾病としては扱われないということになります。

災害性(=突発的な出来事)の原因による腰痛

次の2つの要件をいずれも満たし、かつ、医学上療養を必要なときは災害性のものだと考えられます。

(1) 腰部の負傷または腰部の負傷を生ぜしめたと考えられる通常の動作と異なる動作による腰部に対する急激な力の作用が業務遂行中に突発的なできごととして生じたと明らかに認められるものであること。(※業務中の「ぎっくり腰」などが該当)
(2) 腰部に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症若しくは基礎疾患を著しく増悪させたと医学的に認められるものであること。

災害性の原因によらない腰痛

重量物を取り扱う業務等腰部に過度の負担のかかる業務に従事する労働者に腰痛が発症した場合で、当該労働者の作業態様、従事期間および身体的条件からみて当該腰痛が業務に起因して発症したと認められ、かつ、医学上療養を必要とするもので、次の(1)(2)に類別できます。

(1)

腰部に過度の負担のかかる業務に比較的短期間(おおむね3か月から数年以内をいう。)従事する労働者に発症した腰痛

イ ここでいう腰部に負担のかかる業務とは次のような業務をいう

(イ)おおむね20kg程度以上の重量物又は軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務
(※例:港湾荷役)

(ロ)腰部にとって極めて不自然ないし非生理的な姿勢で毎日数時間程度行う業務
(※例:配電工による柱上作業、イロの複合例:重症心身障害児施設の保母、大工、左官)

(ハ)長時間にわたって腰部の伸展を行うことのできない同一作業姿勢を持続して行う業務
(※例:長距離トラックの運転)

(ニ)腰部に著しく粗大な振動を受ける作業を継続して行う業務
   (※例:車両系建設機械の運転)

ロ 腰部に過重に負担のかかる業務に比較的短期間従事する労働者に発症した腰痛の発症の機序は、主として、筋、筋膜、靱帯等の軟部組織の労作の不均衡による疲労作業から起こるものと考えられる。

したがって、疲労の段階で早期に適切な措置(体操、スポーツ、休養等)を行えば容易に回復するが、労作の不均衡の改善が妨げられる要因があれば療養を必要とする状態となることもあるので、これらの腰痛を業務上の疾病として取り扱うこととした。

なお、このような腰痛は、腰部に負担のかかる業務に数年以上従事した後に発症することもある。

(2)

重量物を取り扱う業務又は腰部に過度の負担のかかる作業態様の業務に相当長期間(おおむね10年以上をいう。)にわたって継続して従事する労働者に発症した慢性的な腰痛

イ ここでいう「重量物を取り扱う業務」とは、おおむね30kg以上の重量物を労働時間の3分の1程度以上取り扱う業務及びおおむね20kg以上の重量物を労働時間の半分程度以上取り扱う業務をいう。

ロ ここでいう「腰部に過度の負担のかかる作業態様の業務」とは、前記イに示した業務と同程度以上腰部に負担のかかる業務をいう。

ハ 前記イ又はロに該当する業務に長年にわたって従事した労働者に発症した腰痛については、胸腰椎に著しく病的な変成(高度の椎間板変性や椎体の辺縁隆起等)が認められ、かつ、その程度が通常の加齢による骨変化の程度を明らかに超えるものについて業務上の疾病として取り扱うこととしたものである。

エックス線上の骨変化が認められるものとしては、変形性脊椎症、骨粗鬆症、腰椎分離症、すべり症等ある。この場合、変形性脊椎症は一般的な加齢による退行性変性としてみられるものが多く、骨粗鬆症は骨の代謝障害によるものであるので腰痛の業務上外の認定にあたってはその腰椎の変化と年齢の関連を特に考慮する必要がある。腰椎分離症、すべり症及び椎間板ヘルニアについては労働の積み重ねによって発症する可能性は極めて少ない。

業務上外の認定に当たっての一般的な留意事項

腰痛を起こす負傷または疾病は、多種多様であるので腰痛の業務上外の認定に当たっては疾病名にとらわれることなく、症状の内容および経過、負傷または作用した力の程度、作業状態(取り扱い重量物の形状、重量、作業姿勢、持続時間、回数等)、当該労働者の身体的条件(性別、年齢、体格等)、素因または基礎疾患、作業従事歴、従事期間等認定上の客観的な条件の把握に努めるとともに必要な場合は専門医の意見を聴く等の方法により認定の適正を図ってください。

地公災補償基金大阪府支部長(山三保育園)事件
大阪高裁 平成17.8.19 大阪地裁 平成15.12.24

保育園のもちつき大会で、保育士(43歳)がぎっくり腰を発症させた。

もちを丸める作業中に、身体をひねって後方の渡し口に手渡すという動作を10回以上繰り返したが、この際、腰部に捻挫を発症。

一審の判断

身体をひねる行為は「日常生活の動作の範囲内」として、労働者側の請求を棄却。

二審の判断

裁判所はこの腰部捻挫について、保育士としての公務に内在・随伴する危険(保育士の腰痛発生率が高い)が現実化したことによるとし、相当因果関係を認めた。

地公災基金千葉県支部長(船橋市職金)事件
最高裁 平成12.7.7 東京高裁 平成10.1.28 千葉地裁 平成8.8.30

ゴミ収集車の作業員が、ゴミを投げ入れる際に腰部捻挫(=ぎっくり腰)を負った。

一審・二審・最高裁ともに、業務起因性を肯定。

ETC普及アダ、徴収員4人死亡 増える労災事故

高速道路の料金所の自動料金収受システム(ETC)レーンで、機器の調整などで車道に出た徴収員が車にはねられる労災事故が相次いでいることから、厚生労働省は、全国の労働局を通じて各高速道路会社に対策を講じるよう指導した。

停車する必要がない「ドライブスルー」なので、徴収員にドライバーが事故直前まで気づかないことがあるため。同省は、ドライバーにも、注意を呼びかけている。

厚労省のまとめでは、02年から今年11月末までで20件の労災死傷事故が起こり、うち4件は徴収員が亡くなっている。

今年の労災事故は過去最多の7件に上っている。

ETCの一般運用開始は01年3月。国の助成金などもあり急速に普及しており、今年9月には、高速道路の料金所を通過した車の5割を超えた。

一方、これまでなら車は料金所で停止するので徴収員がはねられる事故は考えられなかった。ETCの導入によって、機器の故障やブース間の移動で車道に出た徴収員がはねられるようになった。

厚労省は、ETCの普及がさらに進むと予想されることから、放置できないと判断した。

道路会社への指導では、地下通路などを確保するか、機器の故障対応をブースから遠隔操作できるようにするなどの対策や、外部委託が多い徴収員への安全教育を要請。すぐにできない場合は、年次計画をたてるよう求めている。

ETCを通過する際には、徐行しなければ罰金を科せられることがある。また、人身事故を起こした場合、ドライバーの注意の度合いなどによって刑事処分されるのは、普通の交通事故と同じだ。

【ETCの労災死亡事故】

・03年9月 阪和自動車道和歌山インター
ブースの鍵を忘れ、ほかのブースの同僚に鍵を借りて戻るとき、ETC専用レーンを横切り、大型トラックにはねられる

・同12月 東北自動車道浦和本線料金所
ETCを搭載していない車がETCレーンに進入したためブースを出て料金を受け取り、戻る途中、トラックにはねられる

・04年5月 阪神高速大阪空港本線料金所
有人レーンがETCレーンに切り替えられ、隣のブースに移動する際、タンクローリーにはねられる

・05年9月 首都高速4号線初台料金所
隣のETC専用レーンのバーが故障し、確認で車道に出て大型トラックにはねられる

(asahi.com 2004.12.24)


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