配転の勤務地の限定

原則として変更には労働者の同意が必要

労働契約上勤務場所が限定されている場合には、その変更には労働者の同意が必要です。

採用の際、「○○支店勤務に限る」等の地域限定の特約があれば、それに反して転勤を命じるには労働者の同意が必要とされます。

現地採用で慣行上転勤がなかった工員、主婦パートなど生活の本拠が固定し、それを前提に労働契約がなされた場合など、裁判で勤務場所の特定が認められています。

これに対して、本社採用の大卒幹部要員の場合には、勤務場所の特定がないのが一般的でしょう。

判例において、共働き夫婦の別居、単身赴任、重病の家族の介護等による労働者の生活上の不利益が、会社のとる代償措置との比較のなかで受容できる範囲かどうかが判断されています。


採用時の勤務場所は、最初の配属先を明示しただけ

問題になりやすいのは、採用時の雇用契約の勤務場所の記載ですが、これは、最初の配属先を明示したにすぎず、そこが永続的な勤務地だという約束をしたわけではありません。


配転の勤務地に関しては、ここを確認

  • 勤務地に関する採用時の特約や就業規則、労働協約上の規制があるかを確認する。
  • 不利益を軽減する代償措置を確認する。

まず、労働契約に特約があるか、就業規則、労働協約に転勤除外の特例や事前協議の手続等の規制があるかどうかを確認します。

次に、会社における今までの扱い(慣行)がどうであったかも、転勤命令の有効性の判断基準になるので確認します。

そして、転勤により不利益を受ける場合、どのような代償措置があるのか確認します。その内容で労働者が通常受容すべき不利益の範囲かどうかが判断されます。


勤務地限定を認めた判例

シンガポール・デベロップメント銀行事件 大阪地裁 平成12.6.23

小規模な人数しかいない職場において希望退職を募ることは、これによって原告らを就労させることができる適当な部署が生じるとは必ずしもいえないうえ、代替不可能な従業員や有能な従業員が退職することになったりして、業務に混乱を生じる可能性を否定できず・・・これらの不都合を考慮すれば、被告が東京支店において希望退職を募集しなかったことをもって、不当ということはできない。

新日本通信事件 大阪地裁 平成9.3.24

採用面接でのやりとり、採用担当者が本社に採用の稟議をあげる際、本社が何の留保も付さずに採用許可を出している等の事情から、勤務地限定の合意を認めた。

西村書店事件 新潟地裁 昭和63.1.11

求人広告の内容をはじめ、収入の大幅な減少を甘受してあえて労働契約を締結したなどの経過から、労働契約上の勤務場所の特定があったとされるので、労働契約上、就業場所が新潟市の本社に限定され、東京営業所への配転命令は無効とした。

蔵田金属工業事件 松江地裁 昭和51.3.16

半農半工の労働者や主婦のパートタイマーなど生活の本拠が固定しており、それを前提に労働契約の締結がなされた場合にも、勤務地の限定が認められ易い(島根県の工場に製造工として勤務する現地採用の従業員らに対し、広島県に所在する開発営業部において販売部門のセールス等に従事すべき旨の配置転換命令につき、その従業員らが配転先で働く義務がないことが確認された)。

新日本製鉄事件 福岡地裁小倉支部 昭和45.10.26

現地採用で慣行上転勤がなかった工員に対する新設の他工場への転勤命令を無効とした。

労働契約上で、明示または暗黙に「八幡製作所」とされているとの主張が行われた。


勤務地限定を認めなかった判例

キノ・メレスグリオ事件 東京高裁 平成12.11.29

東京都渋谷区の営業本部から通勤時間2時間の埼玉県比企郡の本社工場への転勤命令は、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとまではいうことができないとして有効とされた。

日本電信電話木更津局事件 千葉地裁木更津支部 平成3.12.12

NTTの既婚の女子職員が、木更津電報電話局から千葉電報電話局に配転命令を受けたのに対して、右命令は通勤時間の長時間化等著しい不利益を与えるもので無効であるとして元の職場の従業員たる地位保全の仮処分を申請した事例。

長年にわたり木更津局において手動運用部門の業務に従事してきたことは明らかであるが、この事実から直ちに勤務場所を木更津局と限定する雇用契約が締結されたということはできず、また強制配転をしない慣行が存在したと認めることもできないとされた。

チェース・マンハッタン銀行事件 大阪地裁 平成3.4.12

東京と大阪に支店を置く米国銀行の大阪支店で採用手続きがとられた従業員について、経営合理化の一環として行われた東京支店への配転命令の効力が争われた事例。

大阪支店に「現地採用」されたとはいっても、その内容は、その採用手続が大阪支店の担当者によりとられたというにすぎず、 労働者らと会社との労働契約は、いずれもその勤務場所を大阪支店に限定する趣旨の合意が含まれているものではない、として、勤務場所の特定を否定した。

ブックローン事件 神戸地裁 平成2.5.25

神戸本社業務部業務課督促係から同部名古屋業務への配転命令を拒否して懲戒解雇された者がその効力を争った事例。

求人票は公共職業安定所の所定のもので、それに記載しているのは原告の概括的な労働条件であり、求人票の作業所の記載はさしあたっての就業場所を示すにすぎず、被告と原告との間の労働契約には勤務地限定の約束は存在せず、就業規則により勤務地については原告の一方的変更に従う旨の包括的合意がなされているというべきである。


現地採用者への転勤要請は退職強要ではないとされた判例

エフピコ事件 東京高裁 平成12.5.24

経営合理化方策の一環として生産分門の分社化を計画した会社は、新会社への採用にもれた従業員に対する本社工場への転勤を要請した。控訴人らは、家庭の事情等から転勤を拒否した。

裁判所は、当事者が勤務先限定で採用されたという事実は裏付けられていないし、就業規則上の規定(業務上の必要から転勤・長期出張がある)もあった。

被控訴人らは、転勤対象者として選定した理由や本社工場への転勤期間を明らかにしなかったことを非難するが、転勤を命じる場合の人選については、会社の責任と権限に基づいて決定すべきものである。

会社が転勤の同意を取るために発令を延期していることや、本社工場への出張などにより実情把握を促している点などから、最大限の努力をしている。

部長が「懲戒解雇」に言及して転勤を強要したという指摘には、就業規則の規定を説明したにすぎず、辞職を強要したとまでは認めがたい。

こうしたことから、転勤要請を拒否し、各人の意思に基づき退職したものであって、自己都合による退職であり、会社の人事権の違法や不当行為はあったと認められないとした。

一審では現地採用者は「転勤はない」と見るべきだとしたが、二審は、勤務地限定を認めるに足りないとして、これを否定した。

その後、最高裁で和解が成立している。


ページの先頭へ