出向先での非行により解雇できるか

在籍出向なら、出向先での勤務態度は出向元と同視できる

出向者の雇用関係は出向元と結ばれていますから、出向者に懲戒解雇事由がある場合は、出向先は出向元との契約を戻してもらい、出向元で解雇してもらうしかありません。

ただし、懲戒解雇を除く懲戒処分については、出向先も行うことができます。

判例では、在籍出向の場合、出向先での勤務怠慢等、必ずしも出向元の企業秩序を乱す(あるいはそのおそれがある)ことのない行為であっても、出向元の懲戒規定の適用を認めています。

松下電器産業事件 大阪地裁 平成2.5.28

子会社に出向中、工場長の地位を利用し取引先会社にバックリベートを支払わせていたことを理由として、出向元に復帰した事業部次長が出向元から懲戒解雇された。

裁判所はこれを有効とした。

岳南鉄道事件 静岡地裁沼津支部 昭和59.2.29

原告の怠慢な勤務態度及び上司の指示命令に従わなかった行為は、出向先である表富士観光におけるものであって、出向元の被告が出向先である表富士観光に在職中の原告の右勤務態度に対し、被告の就業規則あるいは懲戒規程を適用して懲戒解雇を行いうるかどうかの点が一応問題となりうるので検討するに、・・・原告の表富士観光への出向は、いわゆる在籍出向であって、出向後も原告と被告との雇用関係は引き続き存続していることが認められ、こうした出向の場合、出向先での勤務態度は実質的には出向元である被告における勤務態度と同視して評価することが可能であると考えられるから、・・・被告の懲戒規程を適用し、出向命令を解除したうえで懲戒解雇を行うことは許されるべきである。

懲戒事案のうち、労務提供の場面における職場規律違反については、出向先の就業規則に従い、それ以外は出向元が処分すると取り決めることもできます。

理論的には問題が残るので、出向元としては出向の際、労働者と出向先の間で懲戒解雇事由が発生する際には、特約を締結した上で、出向元で懲戒事由および基準に照らして判断することとし、懲戒解雇に相当する場合であれば出向を解いて出向元で行い、それ以外については出向先で行う、といった取り決めをしておくこともできます。


出向先・元の二重処分は原則できない

出向先企業が出向先企業の就業規則に照らして懲戒処分に付するとともに、出向元企業は独自に出向元企業の就業規則に基づいて懲戒処分を科すとすれば、二重処分となります。

二重処分は原則として認められません。

ただし、出向社員の非違行為によって出向先企業の企業秩序が害されるとともに、出向元の信用や名誉が害されたと評価しうるようなケースにおいては、出向元企業には独自の損害が発生したと解され、出向先企業とは別に懲戒処分を科すことが可能です。(勧業不動産販売・勧業不動産事件 東京地裁 平成4.12.25)


ページの先頭へ