退職時の中退共の請求手続について

退職金は直接従業員に支払われる

従業員が退職した場合には、次の手続きによって、退職金の支払いを受けることになります。本人の希望があれば分割支給も可能です。

  1. 事業主に対して共済手帳がすでに交付されています(事業主が保管)。
  2. 事業主は、従業員の退職の場合には、共済手帳の中の「被共済者退職届」に必要事項を記入し、中退共本部保全課に郵送します。
  3. 事業主は、2.の「退職届」を除いた共済手帳の共済契約者記入欄(事業主)に記入して、これを被共済者(従業員)に交付します。
  4. 退職金の請求は、この共済手帳の「退職金(解約手当金)請求書」により、被共済者本人のみができます。その権利は、譲渡したり、担保として供出したり、差押えしたりできません。本人死亡の場合には、民法に従って、その相続人が請求することになります。
  5. 退職金は請求書に記載された請求人の預金口座に振り込まれます。
  6. 事業団は、支払の明細及び振込の予定日を「振込通知書」によって請求人に通知します。

倒産による解雇の場合も同じです。

制度上、事業主が退職金を受け取ることは許されません。退職金を支給される権利を譲渡することもできません。


解除しても、解約手当金は従業員に支払われる

中小企業退職金共済制度の退職金は、原則として解除が禁止されており、解除された場合でも、機構は解約手当金を被共済者に支給することとされています。


事業主の詐取は許されない

昨今の不況を反映して、中退金などの特定退職金共済制度や生保会社などが運用する適格年金制度から直接労働者に支給されるべき退職金等を、事業主が請求書類を偽造するなどし、詐取するケースも生じています。

この退職金制度は、事業主が機構との間で共済契約を締結した時点で、従業員は当然にその共済契約の利益を受け、直接、機構に対し退職金の受給権を取得し、機構としても直接従業員(又は遺族)に退職金や解約手当金を支給するものとされています。

中小企業退職金共済法は強行法規であり、事業主が従業員との間で、中小企業退職金共済法に反する内容の契約を結んだとしても、これに反する内容の契約は認められません。

このような場合、共済団体や生保会社は、労働者との関係では免責されないと考えられるでしょう。

湘南精機事件 東京高裁 平成17.5.26 横浜地裁小田原支部 平成16.9.24

中小企業退職金共済法によって受領する金額(305万円)が、会社の退職金による金額(125万円)より多かった。

会社の退職金規程では、自己都合により退職した場合、中退共から支払われる額が退職金を規定した内規を上回る場合は、従業員は超える部分を返還する旨の定めが明記されていた。

第一審 横浜地裁小田原支部

返還についての覚書(退職金額を上回る181万余円は返還すると明記)は、労働者が十分に認識・理解して押印したものである。差額の返還が認められた。

第二審 東京高裁

第一審が破棄され、差額の返還は必要ないとされた。

超過する部分の返還合意は、中小企業退職金共済法に反し、国からの一定の財政援助がある制度の趣旨をも潜脱する。

本件の合意は、受給権の譲渡の約束に等しい。正しい説明もなく成立した合意は、公序良俗にも反して無効である。

新森観光事件 大阪地裁 平成10.2.6

事業主が従業員名義の銀行口座を勝手に開設し、中小企業退職金共済事業団にこの口座へ退職金を振り込ませて、従業員に引き渡さなかったことが、不法行為とされた。

野本商店事件 東京地裁 平成9.3.25

退職金の支給金額について、事業団等で積立てたものと経済事情を考慮した額を合算して支給するという定めがある以上、中小企業退職金共済事業団に積み立てられている金額は、支払義務がある。

甲府商工会議所(株式会社カネコ)事件 甲府地裁 平成10.11.4

特定退職金共済団体が退職金を事業主に支払った後、事業主が倒産して退職金を労働者に交付できなかったケース。被告である商工会議所が実施している特定退職金共済制度は、退職金の原資を保全するものではなく、退職金の支払を確保するためのものであり、退職給付金の請求権は直接退職者に帰属するとして、同団体に労働者に対する支払い義務を認めた。


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