外国人の不法就労と労働契約
いわゆる不法就労と労働契約
外国人がいわゆる不法就労をしている場合でも、労働契約は原則として有効であると考えられます。
入管法の規定による在留資格に違反して就労しても、それは公法的な取締規定に違反したにすぎず、公序良俗に違反する行為として無効(民法第90条)となるものではありません。
逆に、労基法など労働法規の適用によって保護されるべきものであるということができます。
均等待遇の原則(労働基準法第3条)
国籍を理由に労働条件等の処遇を差別することは禁止されています(6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金)。
ただし、以下の最高裁判例もあります。
東京都(管理職選考受験資格)事件 最高裁 平成17.1.26
日本国籍がないことを理由に、東京都が職員の在日韓国人保健婦について、「管理職になるためには日本国籍が必要」とし、管理職選考の受験を拒否した(一般の職員であれば外国人の採用は可能)。
この措置を、違憲・違法だとして、受験資格の確認と慰謝料200万円が求められた。
一審(東京地裁 平成8.5.16)は請求を退けたが、二審(東京高裁 平成9.11.26)は、都に40万円の支払を命じた。
最高裁は、この取り扱いを合憲とした。
公権力を行使する職員については、国民主権の原理に基づき、原則として日本国籍を有するものが就任することが想定されており、管理職の認容にあたり日本国民に限ることは、憲法に反するものではないとの判断であった。当事者は特別永住者であったが、この考え方は同じであるとされた。
強制労働の禁止(労働基準法第5条)
1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金。
特に、使用者が入国の際に費用を負担した場合、投資回収のために転職を禁じることがありますが、これは違法です。
中間搾取の禁止(労働基準法第6条)
1年以下の懲役又は50万円以下の罰金
損害賠償の予定、違約金の禁止(労働基準法第16条)
6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金。
早期退職の場合の罰金が、この規定により禁じられています。
前借金相殺の禁止(労働基準法第17条)
6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金。
その他、法律によって保護される内容は、日本人の場合と変わりません。
なお、不法就労であっても、その労働者が直面している労働問題が重大悪質な法令違反等でない限りにおいて、労働基準監督署は不法就労であることを入管に通報しないことになっています。
国の見解
入管法上不法就労である外国人労働者の入管当局への情報提供について
外国人の不法就労等に係る対応については、昭和63年1月26日付け基発第50号及び基発第4号において通達、指示しているところであるが、本通達の運用に関連して、最近、労働基準監督機関に対する申告・相談に係る出入国管理行政機関への情報提供について一部において疑義が生じている面があることから、外国人労働者相談コーナーが設置されたことに伴い、これを明確にするため、本省においては、報道機関等への対応について別紙の方針で対応することとしたので、貴職におかれても、業務の運営、報道機関等からの問い合わせに対してこれを踏まえて対応されたい。
別紙
問 入管法上不法就労である外国人労働者が労働基準監督機関に対し申告、相談を行った場合、入管当局に対する通報を行うのか。
答1 労働基準法等労働関係法令は外国人労働者に対しても適用されるものであり、申告、相談を通じて外国人労働者について、賃金不払、最低賃金違反等法違反の事実を承知した場合には、労働基準監督機関として当然その是正に努めることとなる。
2 ところで、申告に対応する過程において、申告等に係る外国人労働者が不法就労者であることが判明することがあり得るが、労働基準監督機関としては、まず、法違反の是正を図ることにより本人の労働基準関係法令上の権利の救済に努めることとし、原則として入管当局に対し通報は行わないこととしている。
今回、都道府県労働基準局に設置することとしている「外国人労働者相談コーナー」における取扱いも同様である。
3 なお、不法就労者を放置することが労働基準行政としても問題がある場合、すなわち、①不法就労者に関し重大悪質な労働基準関連法令違反が認められた場合、②不法就労者に関し労働基準関係法令違反が認められ、司法処分又は使用停止等命令を行った場合、③多数の不法就労者が雇用されている事業場があり、当該不法就労者について労働基準関係法令違反が行われるおそれがある場合等については、入管当局に対し通報を行うこととしている。
(平成元年10月31日 基監発第41号 ※なお、本通達は部内限扱いであるため、以下の著書から転載しました。出典:「外国人労働者と労働災害 天明佳臣編著 海風書房 1991.8.1)
労働契約に付随する問題
労働契約の不締結、労働契約の内容の不明確性
外国人労働者の就職に際して、労働契約が締結されなかったり、その内容が明確でない場合が大多数を占めているという問題があります。
これ自体、労働契約の締結に際しての労働条件の明示義務(労働基準法第15条)違反を構成することになります。
この違反の効果として、労働者の即時解除権や帰郷旅費請求権を認め、労働者の保護を図っています。
偽装派遣
外国人は、自ら就労先を探すのが容易ではないため、友人やブローカーの紹介で就職するのが一般的であり、通常、手数料など金銭の授受を伴っています。
これらブローカーの行為はそのほとんどが中間搾取の禁止(労働基準法第6条)に違反します。
また、南米日系人は、請負業者に雇用され請負先で就労していることが多いのですが、その実態は労働者派遣であることがほとんどであり、この場合は職安法や労働者派遣法に違反することになります。
関連事項:違法な派遣形態→
都の管理職試験制限、「国籍条項」は合憲・最高裁
東京都が日本国籍がない職員の管理職試験の受験を拒否したのは違法だとして、都保健師の在日韓国人、鄭香均(チョン・ヒャンギュン)さん(54)が都に慰謝料などを求めた訴訟の上告審判決が26日、最高裁大法廷であった。大法廷は「受験拒否は合憲」との初判断を示した。
大法廷は、都の賠償責任を認めた2審・東京高裁判決を破棄し、鄭さん側の請求を棄却した1審・東京地裁判決が確定した。
1、2審判決によると、鄭さんは1994年3月、94年度の管理職試験の申込書を提出しようとしたが、都は日本国籍がないことを理由に受け取りを拒否。95年度には都人事委員会は日本国籍を受験資格とする国籍条項を設けた。
1審・東京地裁は96年5月、「外国人は、都の管理職への任用は保障されていない」などとして請求を棄却。2審・東京高裁判決は97年11月、「都の管理職には外国人が昇任しても問題ないものがあり、昇任の道を閉ざすのは違憲」とし、都に40万円の支払いを命じる逆転判決を言い渡した。
(NIKKEI-NET 2005.1.26)