派遣社員と超過勤務
あらかじめ残業があることを明示しなくてはならない
派遣労働者実態調査(2012年 厚生労働省)によると、ほとんど毎日残業があるという派遣労働者は、男性の30.5%、女性の10.6%に及びます。
労基法等の定める労働条件に関する労働者保護規定の適用について、派遣法は基本的には派遣労働者と雇用関係を結んだ派遣元が責任を負う(労基法等が適用される)ものとしつつ、派遣先の指揮命令のもと働くという実態から、特例規定を設けて派遣先に責任を負わせる事項も定めています。(派遣法44条)
派遣労働法第44条(労働基準法の適用に関する特例)
・・・
2 派遣中の労働者の事業のみを、派遣中の労働者を使用する事業とみなして、※を適用する。(以下、省略)
※に該当する条文
- 第7条=公民権行使の保障
- 第32条=労働時間
- 第32条の2第1項=1ヶ月単位の変更労働時間制
- 第32条の3=フレックスタイム制
- 第32条の4第1項~第3項=1年単位の変形労働時間制
- 第33条=災害時の時間外労働
- 第34条=休憩
- 第35条=休日
- 第36条第1項=36協定
- 第40条=労働時間及び休憩の特例
- 第41条=労働時間等の適用除外
- 第60条~第63条=年少労働者への労働時間適用
- 第64条の2=坑内労働の禁止
- 第64条の3=妊産婦への危険有害業務の制限
- 第66条=妊産婦の時間外制限
- 第67条=育児時間
- 第68条=生理休暇
時間外労働についてみると、労基法上の労働時間・休憩・休日等の規定の適用については、実際に派遣労働者を指揮命令する派遣先が責任を負うのですが、それらの労働条件(労働枠)自体の設定は、雇用主である派遣元が責任を負うことになります。
時間外労働や休日労働させるためには派遣元で時間外労働・休日労働に関する労使協定(36協定)を結び、労働基準監督署に届けていなければなりません。
ただしそれだけでは派遣労働者に時間外労働や休日労働をさせることはできず、あらかじめ「就業条件明示書」に時間外労働及び休日労働について記載することになっています。
したがって、派遣先が派遣社員を残業させるためには、派遣元の就業規則の中に「1週間について6時間の範囲において時間外勤務を命ずることができる」などと明示されていなくてはなりません。
同様に、就業条件を明示した書面に、時間外労働のあることが記載されていなければなりません。
なお、裁量労働制(労働基準法38条の3、38条の4)については、派遣労働者には適用できません。
「勝手にやった残業だから割増なし」は通じない
派遣先が派遣労働者に残業や休日労働をさせた場合には、派遣元は、割増賃金を支払わなければなりません。(労働基準法37条)
残業をしたときには、派遣元への申告を正しく行うと同時に、派遣労働者自身でも勤務実績を記録しておくとよいでしょう。
派遣労働者の判断で残業した場合であっても、派遣先が業務上必要なものであると判断し、黙認した場合には、時間外労働として認められます。
労働者が自分の判断で残業をした場合について、厚生労働省の通達では、
「使用者の具体的に指示した仕事が、客観的にみて正規の勤務時間内に処理できないと認められる場合の如く、超過勤務の黙示の指示によって法定労働時間を超えて勤務した場合には、時間外労働となる」と示しています。(昭和25.9.14 基収2983号)
つまり、労働者が自分の意思で残業した場合であっても、派遣先がその残業を業務上必要なものであると判断して黙認した場合には、その残業は時間外労働になります。
逆にいえば、派遣先・派遣元事業所は、派遣労働者といえど、その労働時間管理をきちんと行っておく必要がある、ということになります。
派遣元において36協定が必要
また、派遣元において、いわゆる36協定の締結・届出をする必要があります。
派遣会社において、労働者の過半数で組織する労働組合等と36協定が締結されていなければ、残業を断れます。
この場合の「労働者」とは、当該派遣元の事業場のすべての労働者であり、派遣中の労働者とそれ以外の労働者との両者を含みます。
残業を断れる場合は、まず派遣先に対し契約違反である旨を話し、派遣先には派遣元から一度話を通してもらうのが妥当です。
直接、派遣先に文句を言うと実際上、派遣先から不利益な取り扱いを受けるおそれがあります。
なお、残業を断れる場合だったのに、やむなく残業をした場合でも、残業代の割増賃金の支払い業務は雇用主である派遣元にあり、派遣先が命じて時間外労働をさせたとしても、その割増賃金は派遣元に請求できます。
就業時間の端数カットは法律違反
賃金・残業代の計算は、派遣社員が派遣元に提出するタイムシートをもとに行われますが、ここで、「15分未満はカット」といった取り扱いをしている場合は、労基法に抵触します。
法では、労働時間は毎日、分単位でつけ、一賃金支払期にそれを合計することになっています(最終的に積み上げた時間を30分単位で切り上げ・切り捨てすることは可能です)。