解雇と損害賠償

損害賠償の範囲

使用者側に問題のある契約中断などによって、賃金収入を失った場合に請求する損害額は、通常、その賃金相当額となります。

例えば、1年契約で勤務していたのに、半年で契約打ち切りとなった場合、最大請求額は雇用期間満了までの賃金総額となります。

また、失われた賃金額から、労務を免れたことにより得た利益(中間収入)を控除した額が請求額となる、と考えられています。


手続がずさんな場合、損害賠償も求められる

契約違反により、財産的侵害や精神的損害を生じた場合は、その部分も請求可能と考えられます。

アサヒコーポレーション事件 大阪地裁 平成11.3.31

懲戒解雇の事実を得意先等へ通知したことと併せて不法行為の成立を認め、150万円ないし100万円の限度で慰謝料請求を認めた。

前記のとおり本件懲戒解雇は無効であるところ、被告は、現物在庫の不足が約4,000万円存在するとの調査に基づき、これらが原告らの横領によるものであるとして、本件懲戒解雇に及んだものである。

しかしながら、被告のそのような判断が、綿密な調査に基づいて行われたものではないことは、本件訴訟における被告の損害額の主張が、当初の4,000万円から、口頭弁論終結時においては、586万円余りに減少していることからも明らかであって、懲戒解雇が労働者の賃金収入の途を奪うのみならず、再就職等にも少なからず影響を与える重大な処分であることに鑑みると、このように軽率にされた懲戒解雇は、不法行為をも構成するというべきである。

ディオス事件 大阪地裁 平成11.3.12

無効な懲戒解雇とその旨を取引先等に配布したことに対し、30万円の慰謝料支払を命じた。

被告は、原告らに対し、無効な懲戒解雇を行ったものであるが、(人証略)によれば、被告は、本件懲戒解雇をするに際し、他の被告社員の報告のみに基づき、原告らに事情聴取することもなく、多分に憶測に基づいて安易に懲戒解雇という重大な処分を行ったといわざるを得ないのであって、かかる経緯に鑑みれば、本件懲戒解雇は、原告らに対する不法行為も構成するというべきである。

東京ゼネラル事件 東京地裁 平成8.12.20

会社が退職に関する手続きを遅れて行ったため、労働者が転職に支障をきたした。

裁判所は転職先で支払われるはずの給与など193万円余の損害賠償支払を認めた。

ケイエム観光事件 東京高裁 平成7.2.28

解雇事由とされたバスガイドとの情交関係は認められないとして、700万円の慰謝料請求を認めた。

被控訴人の担当者は杜撰な調査により解雇事由を認定したが、仮にもう少し慎重に調査すれば、解雇事由が容易には肯定できないことを知り得たものといえる。

控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は8年以上の長きにわたり、本件解雇の無効を訴えて被控訴人の抗争することを余儀なくされ、この間、バスガイドとの情交関係という不名誉な事由により解雇された者として、就職もままならず、右のような社会的評価に甘んずるほかなかったこと、本件解雇により、唯一の生活の糧を失い、家族の養育、住宅ローンの返済のため、知人から借金をして凌いで来ざるを得なかったことが認められ、右二に認定の本件解雇に至る経緯その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、控訴人は右不法行為により、精神的苦痛を受けたことは明らかであるところ、これを慰謝するためには700万円をもって相当と認める。


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