服務規律とは

会社人として守るべきルール

服務規律とは、企業秩序に関して、企業と雇用関係を結んだ労働者が守らなければならないルールのことです。

その内容は次のようなものです。

  • 労務提供そのものや提供のあり方に関するルール
    無断職場離脱の禁止や、上司の指示に従うこと等
  • 企業施設の管理方法についてのルール
    無許可施設利用の禁止、喫煙の禁止等
  • 労働契約に伴うが労務提供そのものとは直接関係しない秩序維持に関するルール
    会社の秘密保持、遅刻・欠勤等の手続等
  • 労働者の会社施設外や就業時間外活動についてのルール
    兼業の禁止、会社に対する誹謗・中傷の禁止等

職務専念義務

労働者は、就業時間中はその職務のみに従事し、他のことを行ってはならないとされています。

これを職務専念義務といいます。

多賀城市教育委員会(多賀城小学校)事件 仙台地裁 平成15.2.17

授業の欠課(約1年間に124回)を繰り返した教員が、指導力不足として2年間の研修命令を受け、さらに1年間研修延長が命じられたことに対し、研修命令の取消を求めた。

原告は、校長等に対し住民訴訟を提起したことに対する報復であると主張したが、研修意欲が希薄であることなどを理由に、延長命令は相当であり、裁量権の逸脱、濫用ではない、とされた。

済生会中央病院事件 最高裁 平成1.12.11

就業時間内に「要求貫徹」等と記したリボンを、(以前からの慣行的事実もあって)、着用した事案。

一般的に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。

したがって、労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない。

大正製薬事件 東京地裁 昭和54.3.27

医薬品の製造、販売会社の外商員が、営業成績を向上させるため緊要の制度であるルートセールス制度にしばしば違反し、上司から再三叱責、説諭を受けていたこと、またしばしば得意先訪問開始前に喫茶店に入り、他の外商員と話し込んで職務を放棄し、会社の人事係にこれを発見され、始末書を提出させられたにもかかわらず、反省せず再度同様のことを繰り返したことなどを理由とする懲戒解雇は有効。

乗務中に撮った写真をHPに・新幹線車掌を懲戒解雇

JR東日本新潟支社の新潟新幹線運輸区の男性車掌が、上越新幹線乗務中に、運転台から撮影した風景写真を自ら開設したホームページ(HP)に掲載し、昨年3月に懲戒解雇されていたことが15日、分かった。

同支社によると、車掌=解雇当時(28)=は2001年1月~04年1月、乗務中に最後部車両の運転台から、車窓風景を私物のデジタルカメラで撮影。写真を自身のHPに掲載していた。HPにはこのほか、接客で感じたことを日記風につづっていたという。

04年1月、このHPを見たJR東日本の社員が社に通報。

同社の調査で元車掌が撮影したことを認めたため「職務専念義務を果たさなかった」として、同年3月5日付で懲戒解雇とした。

同支社の関森多市郎総務部長は「勤務時間中の行為で残念であり申し訳ない」とコメントした。

(NIKKEI-NET 2005.11.15)

ただし、業務命令だからいかなる場合も従うべきとは言い切れません。

通常の危険を超える生命身体に対する危険がある場合は、業務命令を拒否することも許されます。

電電公社千代田丸事件 最高裁 昭和43.12.24

海底線の工事業者。昭和31年日韓両国に緊張状態が存した当時に、在日米軍から日韓間の海底線の障害修復を請け負った。労働組合は、この工事に関する労働条件等について団交中だったため、25時間出航延期の指示を千代田丸に出し、これに応じた一等航海士が職務を拒否した。このため会社は、航海士を解雇した。

最高裁は労働契約上の義務を求めた二審判決を破棄し、実弾射撃演習との遭遇可能性もある場所での危険な作業は、本来予想される海上作業に伴う危険を超えるものであり、従事義務を余儀なくされるものとは言い難く、解雇は裁量権の範囲を逸脱していると判断した。


企業秩序遵守義務

労働者は就業時間の内外や企業施設の内外を問わず、企業の(正当な)利益を侵害してはなりません。

これを企業秩序遵守義務といいます。

規律違反に対する懲戒が認められた例

新阪神タクシー事件 大阪地裁 平成17.3.18

1台のタクシーに複数の乗務員が交代で乗務する。運転者証を運転者に保管させ、乗務の際に表示するよう指示していた。また、点呼簿への捺印、ネクタイの着用、黒の短靴の着用が義務付けられていた。

原告はこれを無視した。

関連団体がタクシーの乗り入れ禁止区域の指導を行っているとき、ネクタイを着用しないで乗務していたことを現認されたため制裁金1万円の処分が行われた。

さらに、会社の指示に従うという誓約書への署名を求めたが、これも拒否した。

会社が求める規則の履行を本人は拒否し続けたため、乗車業務から外された。

原告は会社の労働組合からも除名されたため、合同労組に加入。賃金の支払を求めた(合同労組及び労基署に対しては、会社の指示に同意したのにもかかわらず、乗務から外されたと説明していた)。

裁判所は、労働者が出勤したことだけでは債務の本旨に従った履行の提供が行われたとはいえいない。また、会社側の責に帰すべき事由による休業とは言えず、休業手当の請求の理由はない、と判断した。

神奈川中央交通事件 東京高裁 平成7.7.27

バス運転士に対して制服制帽の着用を義務付けた就業規則の規定は、道路運送法24条の規定に基づくものであり、それ自体は合理性が認められるとして、夏期において制帽着用義務に違反したことを理由とするバス運転士に対する減給処分が有効とされた。

富士重工事件 最高裁 昭和52.12.13

労働者が他の労働者に対する指導、監督ないし企業秩序の維持などを職責とする者であって、右調査に協力することがその職務の内容となっている場合には、右調査に協力することは労働契約上の基本義務である労務提供義務の履行そのものであるから、右調査に協力すべき義務を負うものといわなければならないが、右以外の場合には、調査対象である違反行為の性質、内容、当該労働者の右違反行為検分の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無等諸般の事情から総合的に判断して、右調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められない限り、右調査協力義務を負うことはないものと解するのが、相当である。

このことから、労働者は、「職場外」においても、さらにまた、職務遂行に関係のない行為であっても、企業秩序を乱すような行為は許されず、逆に、使用者はそのような行為を禁止する服務規律を定めることや、規律違反に対する懲戒が認められることになります。

規律違反に対する懲戒が認められなかった例

安全興業江東営業所事件 東京地裁 昭和62.8.28

賃金の一部を歩合給などの変動給で支払われていたタクシー運転手が、営業所長と口論し「解雇する」旨告げられ、その後同通告は一定期間の自宅待機命令であると告げられたが、出勤日に出勤し配車を求めたところ始末書不提出を理由にこれを拒否され続けた。

裁判所は「始末書を提出するまで当分の間内勤を命ずる」旨の処分は存在しなかったとして、同就業拒否日の平均賃金により算出した賃金請求権が認められ、同不就業期間中の賃金支払いが命じられた。


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