自宅待機
懲戒処分としての出勤停止とは異なる
自宅待機命令は、処分が決定するまで出勤を禁止するというもので、懲戒として「出勤停止」を命じるものとは、根本的に違います。
いわゆる業務命令の一種で、勤務場所を「自宅」と指定したものと解されています。
しかし、そう断言するためには、自宅待機期間中の賃金を会社側が負担することが前提となります。
この限りにおいて、自宅待機と他の懲戒処分との併用が、二重処分だと指摘されることが避けられます。
淀川製鋼所事件 大阪地裁 昭和45.4.17
自宅待機が、懲戒処分としての出勤停止処分ではなく、一処分決定までの間、証拠の湮滅、同種行為の再発等を防止するため、就業制限を命ずるものであり、その期間中の賃金を支払う前提のもとになされたものであれば、懲戒処分には該当せず、その準備的な行為として有効。
日通大阪支店事件 大阪地裁 昭和39.5.8
懲戒処分までの間に本人に出社させることを不適当とする合理的な理由があれば、自宅待機させてもよく、その合理的な理由とは、その従業員において、就労することにより、同種の秩序違反を反復する恐れがあること、証拠もみ消しを図る恐れがあること、他の従業員に悪影響を与えて職場秩序を乱す恐れがあること、あるいは会社の取引先に対し悪感情を与え会社の信用が失墜する恐れがあること等、会社が経営を行う妨げとなる場合を指すと解すべきである。
自宅待機中の賃金
社員は会社に対して労務を提供する意思があるにもかかわらず労務の受領を拒否されているともいえます。
このため、会社は自宅待機中の賃金を支払うべきであり、少なくとも会社都合の休職として6割の賃金支払が必要です。
日通名古屋製鉄所事件 名古屋地裁 平成3.7.22
懲戒処分の前置処置としてなされた自宅謹慎処置について、このような場合の自宅謹慎は、それ自体として懲戒的性質を有するものではなく、当面の職場秩序維持の観点からとられる一種の職務命令とみるべきものであるから、使用者は当然にその間の賃金支払義務を免れるものではない。 ただし「当該労働者を就労させないことにつき、不正行為の再発、証拠隠滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由が存するか、又は自宅待機を実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の根拠が存在する」場合には、自宅待機期間中の賃金支払を免れうる。
第一生命雇用関係確認等請求事件 東京地裁 昭和52.9.28
自宅命令は要するに、原告の非違行為の内容が被告にとって明らかになっておらず、従ってこれに対する懲戒処分を決定しえない段階において、その調査を全うする目的で、かつその嫌疑のある原告をそのまま支部長として職務遂行させるのが相当でないとの配慮から、発したものであるが、就業規則その他に根拠を有する不利益処分としてなされたわけではなく、また原告に対し、これによりその間正常に勤務しなかったこととなり給与その他の点で一定の不利益を受けるべきことを告知したものでもない。
原告は事後的にみれば原告の前示非違行為にあったにせよ、右命令が発せられた時点におけるその性質を考えるときは、被告の都合に基づき、自宅勤務(待機)することをもって原告の提供すべき労務とする旨の職務命令たるを出ないと解するのが相当であり、従って原告は右命令に従って自宅勤務している間も、労働契約上は正常に勤務したものとして取扱われるものというべきである。
自宅待機期間中の行動制限
自宅待機を勤務命令の一種と考えるならば、所定の勤務時間の間は、自宅に居ることが求められます。
ただし、それ以上に過酷な制約を課することは問題です。