業務上の前提条件

業務上の必要があること

業務上の必要がないのに配転を行うのは、労働契約上の法的根拠を欠くといえますので、無効となります。

例えば、社員の単なる私生活上の問題などが理由で配転を行うケースです。

公営社事件 東京地裁 平成11.11.5

配転命令は、業務上の必要性を欠いており、権利の濫用に当たり無効であるとされた事例。

会社の組織改正に反対していた営業部次長に対する新設の営業管理部次長への配転命令について、後に組織改正に反対しなくなったこと、業務上の必要性がなかったこと等から、そもそも業務上の必要性を欠いており、被告に裁量権を付与した目的を逸脱した配転命令権の行使と言わざるを得ず、したがって、権利の濫用に当たり無効とした。

マリンクロットメディカル事件 東京地裁 平成7.3.31

本件配転命令につきどの程度業務上の必要性があったかが不明確であるうえ、債務者がそのような配転命令をしたのは、債務者が社長の経営に批判的なグループを代表する立場にあったなどの理由から債権者を快く思わず、債権者を東京本社から排除し、あるいは、右配転命令に応じられない債権者が退職することを期待するなどの不当な動機・目的を有していたことが一応認められ、結局本件配転命令は配転命令権の濫用として無効である。


労働条件の著しい低下にならないこと

賃金の相当な減収となるものなどは、配転命令権の濫用とされる場合があります。

配転と賃金は、それぞれ独立して検討してみることが求められます。

日本ガイダント仙台営業所事件 仙台地裁 平成14.11.14

営業職係長から営業事務職への配転命令を受けて、配転後の賃金が約半額になった。

労働者の営業成績の数値が低迷している原因は、労働者の営業能力に起因する部分があるとしても、売上目標達成率との関係では売上目標の設定自体に問題なしとしない上、売上実績との関係では担当症例数が少ないことや担当病院数の多さ及び広大な担当地域も影響しているといわざるを得ず、労働者の営業成績をもって従前の賃金と比較して約半分とする営業職から営業事務職への配転命令の根拠とするには足りない。

西東社事件 東京地裁 平成14.6.21

債権者は、本件配転命令後の倉庫管理業務は軽作業であり、配転後の職種の他の従業員と同等の賃金額に減額した者である旨を主張する。

しかし、配転命令により業務が軽減されたとしても、配転と賃金とは別個の問題であって、法的には相互に関連していないから、配転命令により担当職務がかわったとしても、使用者及び労働者の双方は、依然として従前の賃金に関する合意等の契約の拘束力によって相互に拘束されているというべきである。

渡島信用金庫懲戒解雇事件 函館地裁 平成13.2.15

管理職が一般職員として他店に配転命令された。

配転と賃金とは別個の問題であって、法的には相互に関連しておらず、労働者が使用者からの配転命令に従わなくてはならないことが直ちに賃金減額措置に服さなければならないことを意味するものではない。

使用者は、資格に照応しない低額な賃金が相当であるような職種への配転を命じた場合であっても・・・特段の事情がない限り、賃金については従前のままとすべき契約上の義務を負っているというべきである。

デイエフアイ西友賃金仮払仮処分申立事件 東京地裁 平成9.1.24

労働契約上の賃金が年額をもって定められている場合であっても、その契約が期間の定めのない雇用契約に該当するときは、当該労働者の同意がない限り、使用者の裁量により一方的に賃金の減額をすることは許されない。

配転命令によって当該労働者が低額の賃金を相当とするような労務に従事することになったとしても、その賃金額は労働契約の拘束力によって従前のままである。


技術・技能等を著しく低下させないこと

特に技術系の社員については、技術、技能等は人格財産を形成するので、その能力の維持ないし発展を著しく阻害するような職種の変更等は配転権の濫用とされる可能性があります。(三井東圧化学事件 名古屋地裁 昭和47.10.23)

しかし、最近ではセールスエンジニア等については本人の技術、技能の発展にむしろプラスであるということなどで正当な配転と認められることもあり(新潟鉄工所事件 前橋地裁 昭和46.7.27)、ケース・バイ・ケースで判断されています。

東京サレジオ学園事件 東京高裁 平成15.9.24 東京地裁八王子支部 平成15.3.24

児童福祉施設に18年間児童指導員として勤務してきたXに対して、調理員に配置転換する旨命令したところ、自らの雇用契約は、児童指導員に職種を限定したものだとし、また、仮にそうでなくても、本件配転命令は業務上の必要性を欠き、権利の濫用であるとして無効だと主張し、その無効確認を求めた。これを権利濫用とした一審判決が取り消された。

Xは本件雇用契約締結当時、児童相談員の資格も職歴も有していなかったのであるから、Xが職種を児童指導員に限定して雇用されたと認めることはできない。その後、Xは児童指導員の資格を取得しているが、その際、Xの職種を児童指導員に限定する合意が成立したことを認めることのできる証拠はなく、そのような事実だけで、職種を限定するという新たな合意が成立したと評価することもできない。

Xは、採用されて以来、長期間一貫して児童指導員として勤務しているが、児童養護施設における児童指導員には、ある程度の専門的知識と技術を必要とすることは否定できないが、その専門性の程度は、医師や看護師等のような高度の専門性を有する職種であると認めることはできないことに鑑みれば、長期間同一職種勤務の事実からXを他の職種につかせることを排除する合意が成立していると評価することはできない。

一方、Xに、児童や同僚への威圧的態度、学園の指導方針への反抗等の事実が存在し、配転は学園の運営を円滑に行っていくためのやむを得ない措置だとした。

北海道厚生農協連合会・帯広厚生病院事件 釧路地裁 平成9.3.24

副総婦長に対する病院中央材料室の副看護部長待遇への配転命令につき、同人の経歴、能力、従前の地位に照らし、業務上の必要が大きいとはいえないにもかかわらず、看護婦の能力発揮も、自己の能力開発の機会も剥奪されるとともに、社会的評価も低下させられ、その名誉を著しく毀損されるという重大な不利益を被ったといえるとして配転命令を無効とした。

川口グリーンゴルフ事件 浦和地裁 平成8.8.31

雇用契約を更新しないとの会社の通告を拒んだパートタイマーに対する転勤命令(川口から通勤に1時間以上もかかる蓮田への転勤命令)を業務上の必要性なしとした。

日産村山工場事件 横浜地裁 昭和61.3.20

職歴の維持・発展を阻害する配転命令。

経験20年以上の熟練工を単純作業へ配転することは、職歴・技能を考慮しないものとして配転命令権の濫用にあたるとした。


専門部門で採用した社員が能力不足でも簡単に配転できない

採用した社員が、会社の求める技術を有しないにもかかわらず、ウソをついていた場合、あるいは、意図的に会社の要求する技術の活用を拒んだ場合、その社員の同意が得られなかったとしても配置転換は可能ですし、場合によっては解雇することもあり得ます。

しかし、専門職としての資格を持った社員を、会社の一存で他部門へ配転することは、自由にできるものではないという判例(東北公済病院事件)もあります。

会社がその従業員の能力育成に対し、どのような働きかけをしたかも、判断のポイントとなります。


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