コース別人事管理

業務内容と異動範囲で区分

コース別人事管理とは、複線的なキャリア形成を図るために行われる異動・処遇のシステムで、通常、以下の分類に従業員を区分して行われます。

  • 総合職
    企業の基幹的業務または企画立案・対外折衝等総合的な判断を要する業務に従事し、転居を伴う転勤がある。
  • 一般職
    主として定型的補助的な業務を行い、転居を伴う転勤がない。
    この他、両者の中間的な「中間職」コースなど、複数のコースを設定する場合もあります。

望ましいコース別管理のあり方

国は「コース別雇用管理の望ましいあり方(平成3.10.8 労働省婦人局発表)」を示し、次のような運用を求めています。

  1. コース別の定義と運用方法を明確にすること
  2. 各コースにおいて男女公平な採用・選考を実施すること
  3. 各コースが男女共に開かれていること
  4. コース間の転換を認める制度を柔軟に設定すること
  5. 各コースにおいて男女公平な雇用管理を実施すること

この「コース別雇用管理の望ましいあり方」に基づき、改正後の男女雇用機会均等法等の規定内容に照らして事業主が留意すべき事項について、「コース等で区分した雇用管理についての留意事項」として示されました。


留意すべき事項等の内容の概要

均等法に違反しないために留意すべき事項

次に掲げる事項については、それを行うと明らかに均等法に違反することとなる。

  • 一方の性の労働者のみを一定のコース等に分けるといった制度運営を行うこと。
  • 形式的には男女双方に開かれた制度となっているが、実際の運用において男女異なる取扱いを行うこと。
  • コース等の各区分における募集、採用について、男女別で選考基準や採用基準に差を設けた上で行うこと。
  • コース等の各区分における配置、昇進、教育訓練等の雇用管理について、男女別で運用基準に差を設けた上で行うこと。
  • コース等で区分した雇用管理の導入、変更又は廃止に当たって既存の労働者をコース等の各区分に分ける際に、性別を理由に一律に分けたり、一定のコース等に分ける場合に女性に対してのみ特別な要件を課す等、男女で異なる取扱いをすること。

コース等で区分した雇用管理が実質的な男女別の雇用管理とならず適正かつ円滑に行われるようにするために留意すべき事項

(1) コース等で区分した雇用管理による人事制度の適正化、明確化のために留意すべき事項

実際の運用において、コース等で区分した雇用管理が実質的に性別による雇用管理とならないよう、あらかじめコース等で区分して雇用管理を行う必要性や処遇の違いの合理性等について十分に検討するなどして、労働者の意欲、能力、適性や成果等に基づいて処遇するという本来の趣旨に沿った雇用管理とすることが必要であること。

(2) コース等の区分の新設、変更又は廃止に当たって留意すべき事項

コース等で区分した雇用管理の導入、変更又は廃止に当たっては、男女ともに労働者の能力や成果等を十分評価し、それに見合った賃金等の処遇をすることが必要であり、例えば、処遇を変更する場合においては、その変更内容や必要性を十分に検討するとともに、労働組合及び対象となる労働者本人に対しても十分に説明した上で慎重に行うといったこと等が考えられること。

均等法等に照らし女性の能力発揮のために行うことが望ましい事項

(1) コース等で区分した雇用管理による人事制度の適正化、明確化のために行うことが望ましい事項

  1. コース等により区分する基準において、例えば全国転勤を必要とする等、家事・育児の負担等を考慮すると女性が事実上満たしにくいものについては、その必要性等について十分検討することが望ましいこと。
  2. 制度の運用に際しては、例えば、一般職についても相応の経験や能力等を要する業務に従事させる場合には、適切に職業訓練等を行うことにより円滑に業務が遂行されるよう努めることや、労働者の意欲、能力、適性等に応じ総合職への転換を積極的に進める等により経験、能力を十分に評価した処遇が行われるよう配慮することなど、各コース等の区分について、労働者の就業意欲を失わせず適正な処遇を維持するよう努めることが望ましいこと。

(2) 労働者をコース等に分ける際に行うことが望ましい事項

コース等で区分した雇用管理を導入、変更又は廃止する際に既存の労働者をコース等の区分に分けるに当たっては、従来の職種のみにとらわれることなく、その時点での労働者の能力を再度評価し、その意思を確認した上で行うことが望ましいこと。

(3) 女性の積極的な活用のための取組を行うこと

例えば、「総合職」の女性が相当程度少ない状況である場合に、「総合職」の採用に当たって女性を積極的に選考すること等により女性の活用を図ることや、研修等を通じて採用担当者に性別にとらわれず意欲、能力や適性等に応じた採用を行うという方針の徹底を図る等の対策を講ずることが望ましいこと。

(4) コース等の区分間の転換を認める制度を柔軟に設定すること

転換制度を設けるなど、適当な時点で労働者が自らの所属するコース等の区分の見直しをすることができるようにすることも一つの選択肢であること。

(5) 女性の能力発揮に向けての環境の整備を図ること

育児・介護休業法に基づいた職業生活と家庭生活の両立支援制度を充実させることなど、女性の能力発揮に向けての環境の整備を図ることが望ましいこと。


コース別人事管理の導入

就業規則の変更

コース別人事管理を新たに導入する場合には、就業規則の変更手続が必要となります。

また、労働組合との間に締結した労働協約中に組合員の給与等が定められている場合には、労働協約の改訂も必要となります。

関連事項:労働条件の不利益変更

労働者の各コースへの振分け

コース別人事管理制度の導入にあたっては、既存の労働者を各コースに振り分けることが必要となります。

この振分けにあたっては、原則として各労働者の個別の同意は必要ないと考えられています。

ただし、コース別人事制度そのものに男女差別の実態があれば、制度自体の合理性が疑われることになりますし、従来から勤務地限定を約束されてきた労働者を転勤可能なコースに振り分けるなど、明らかな不利益変更が生じる場合は、同意が必要です。

兼松事件 東京地裁 平成15.11.5

コース別人事制度による男女差別の訴え。賃金格差分約3億2,000万円を請求。

会社は、賃金格差が、男子が基幹業務を担当し、女性は勤務地限定で採用され補助業務を担当していた当時(原告の採用は、昭和32年ないし昭和57年)適法だった採用手続きの結果だと反論した。

裁判所は、合理的な内容の職掌転換制度(昭和60年導入、平成9年改正)が設けられており、法改正の経過などと比較しながら男女別の処遇が公序に反したとはいいきれないとして、原告らの請求を棄却した。

先に野村證券事件において男女差別が認容されたが、本判決においては、新転換制度により、本人の希望と一定の資格要件(一般職実務検定全教科合格、日商簿記3級、TOEIC600点以上)を満たせば転換が可能とされていることから、制度の合理性が認められた。


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