懲戒権の行使

職場の秩序違反行為

職場の秩序違反行為は、大きく次の4つに分類されます。

(1) 労務の提供に関すること
  1. 無断で職場を離脱すること
  2. 上司の業務上の指示命令に従わないこと
  3. 勤務態度が不良であること など
(2) 施設の管理に関すること
  1. 無許可で会社施設の利用
  2. 会社の施設・機械の破壊
  3. 所定の場所以外での喫煙、火気の使用 など
(3) 秩序維持に関すること
  1. 届出のない遅刻、欠勤
  2. 会社の秘密を他に漏らすこと
  3. 業務上の地位を利用しての個人的な利益の追求
  4. 会社の秩序、風紀を乱す行為
  5. 採用条件に関係のある事項(学歴・職歴・資格等)の詐称 など
(4) 会社外・時間外に関すること
  1. 会社の許可なく他に雇われたり、自ら事業を営むこと
  2. 会社を誹謗・中傷すること
  3. 会社の信用と名誉を傷つけること など

懲戒権行使の留意点

事実を確認する

懲戒処分を行うときは、まず事実を確かめることが必要です。

たとえば、会社に無断でアフターファイブに飲食店でアルバイトしている社員を処分するのであれば、具体的にどの店で何時から何時までアルバイトをしているのか確かめるべきです。

弁明の機会をあたえる

弁明の機会を与えることなく、会社の方で一方的に処分を決定すれば不公正だと批判されかねません。

「信義則」上は、処分の事由の告知と弁明の機会の提供が要請されることになるでしょう。

たとえば、会社の転勤命令に従わない者を処分するときは、「どうして転勤命令に応じられないのか」をよく聞く必要があります。

ただし、就業規則上、処分理由を告知すべき旨の定めがない場合には、「事実を告げなかったからといって、直ちに懲戒処分の手続に反し、無効であるということはできない」(総友会事件 東京高裁 平成4.5.28)という判例もあります。

懲戒処分は公平でなければならない

同じ行為をし、しかもその程度がほぼ同じである場合には、懲戒処分も同じ内容にすることが適当です。

一人の社員には特に厳しい処分を行い、別の社員には甘い処分で済ませるということがあっては不公平だといえます。

懲戒委員会への付議

懲戒処分の発動やその内容を懲戒委員会で決めることにしているときは、必ずその手続きを踏まなければいけません。

もっとも、懲戒委員会への付議が必要的なものでない場合は、当該委員会の議を経ずなされた懲戒も無効となるわけではないとされています。

エス・バイ・エル事件 東京地裁 平成4.9.18

「懲戒委員会を設けることがある」旨の懲戒規定について、「懲戒規定の文言によれば委員会は必ず開かれなければならないものではなく、これまで開かれた例もないのであるから、懲戒委員会が開かれなかったからといって、本件処分が無効となるというようなものではない」

労働組合との協議

労働組合との協議約款がある場合でも、組合が協議に応じなかったり、組合側委員が懲戒委員会に出席しないような場合には、使用者側委員の決定となっても、手続違反とはなりません。


出向先は出向者の企業外での非行についても懲戒できるか

労働者の企業外での非行によって、使用者の名誉、信用が害される場合には、懲戒を行うことができるとされています。

中国電力事件 最高裁 平成4.3.3

労働者が就業時間外に職場外でしたビラ配布行為であっても、ビラの内容が企業の経営政策や業務等に関し事実に反する記載をし又は事実を誇張、わい曲して記載したものであり、その配布によって企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなどの場合には、使用者は、企業秩序の維持確保のために、右ビラの配布行為を理由として労働者に懲戒を課することが許されるものと解するのが相当である。


賞罰委員会の規定

就業規則の例

賞罰委員会の規定を就業規則に定める場合の例

(制裁の手続き)

第○条 従業員の制裁は賞罰委員会で行います。

(2) 賞罰委員会は社長を委員長として、委員は会社代表2名、従業員代表2名で構成します。

会社代表は会社から任命する者とし、従業員代表は、従業員自身が選出します。

各委員の任期は1年間とします。

(3) 制裁は、事実を調べ、本人から事情を聞いた上で、賞罰委員会で慎重に検討の上、決定します。

ただし、本人が事情聴取に応じないなど特別なときは、この限りではありません。


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