出向受け入れのポイント

出向先の会社名・会社概要は?

会社概要、業績、社風などについてデータを要求します。


出向先と出向元の関係は?

子会社(出向元が50%を超えて出資している企業)への出向か、関連会社(出向元が20%~50%の出資)への出向か、それ以外の会社への出向かによって、その正当性の判断は変わってきます。

出向先が子会社の場合、人事異動上まったく別の会社に異動する場合とは違った取り扱いになります。

形式的には法人が別だから「別会社への完全な企業間人事異動であり、本人の同意を要する」と単純に判断されることにはなりません。

原則的には、企業内の人事異動(配転・転勤)と同じように考えられることが多いようです。

新日本窒素肥料事件 熊本地裁 昭和38.12.26

親会社・子会社・労働組合の三者間において相互の人事異動に関する協定ないし協約を結んでいる場合には、社内異動である「転勤」または「配転」と同視されるので、会社は原則として一方的に命令できる。

光洋自動機事件 大阪地裁 昭和50.4.25

親会社と労働組合との間に子会社の出向について協約または就業規則があり、かつ労働者はこれに異議がなく過去においてしばしば出向が行われているような場合には、労働契約上の根拠があるので、業務上の必要にもとづく出向ならば企業内配転と同様に労働者はその命令に応じなければならない。

日本電気事件 京都地裁 昭和47.6.23 ほか

親子会社間の人事異動について労働協約や就業規則が明白に定められていなくとも、企業の一部門を分離独立させたような場合であって、労働条件上においてほとんど不利益がなく、身分関係上においても不安のないものであれば、企業の業務上の高度の必要性にもとづく配転であるならば、労働者はこれに応ずる必要があり、正当な理由なく拒否することは権利の濫用として許されない。

日立精機事件 千葉地裁 昭和56.5.25

製造会社技術者を輸出会社に転属させることにつき、右転属には同意が欠け無効であるとして、従前の使用者における従業員としての地位の確認を求めた仮処分事件。

入社の際、系列会社への出向(転属)のあることについて説明し本人は異議のない旨応答している場合には、会社の人事体制下に組み込まれている系列会社への出向について予め包括的な同意があったといえるので、これを根拠とする出向命令は有効である。

日本ステンレス事件 新潟地裁高田支部 昭和61.10.31

本店所在地も親会社と同一であり、役員構成も6名中5名が親会社と兼務で、業務についての指揮監督、人事に関する事項は親会社で決定され、賃金その他の労働条件等も親会社と同一である子会社への出向命令につき、出向によって生ずる労働者の給付すべき業務の内容の変更は、実質上配転の場合と特段の差異を生じないと認められるから、使用者は労働者の個別的同意を要することなく出向を命ずることができます。


出向先での仕事の中身は?

役職がある場合は、出向先での役職はどうなるのか確かめましょう。


出向先での労働条件は?

出向社員の就業規則の適用については、出向元と出向先との間で協議して決定すべきものであって、通常は、両者の出向契約の内容に基づくことになります。

このことは、あらかじめ出向社員に示しておくべきでもあります。

労基法上の使用者の各種責任の所在は、当該事項について実質的権限を有しているものが、「元」・「先」のいずれか、ということに帰着します。

出向後の労務遂行の指揮命令権は出向「先」が持ちますが、労働契約自体は、基本的に出向「元」と継続し、出向先との関係では、部分的に労働契約関係が成立しているといえるだけです。

出向元への復帰や、退職解雇といった労働者としての地位の得失に関する規定は、出向元の規定が適用されると解されます。

できれば事前に出向先の会社の就業規則を入手しておき、どの部分が適用されるか確認しておく方がいいでしょう。

最低でも、始業・終業時刻および休憩時間休日や年次有給休暇賃金賞与等の支給日と計算方法、昇給などについて、はっきりさせておきます。その他、社内融資制度などの福利厚生についても要チェックです。

労働時間・休日

出向社員は、出向先の指揮命令に従って労働することになりますから、労働時間・休日については出向先の規定が適用されます。

出向先での所定労働時間が長くなる場合については、以下のような方法で対処します。

  1. 特別の措置は講じない
  2. 代償措置として一定の出向手当を支給
  3. 労働時間が長くなった分だけ給与を多く支払う
  4. 長くなった労働時間を時間外労働とみなし25%増しの割増賃金を支払う
  5. 出向終了後、勤務復帰前に長期休暇を与える

年次有給休暇

年次有給休暇について出向先の規定をそのまま適用すると、勤続年数=ゼロの扱いとなり、日数が大幅に減少することが考えられます。

このため、出向元の規定を適用するのが適切です。

あるいは、出向元と出向先の間の出向協定の中に、年次有給休暇の通算の取り扱いを盛り込んでおくという方法もあります。

在籍出向の場合、出向者と出向元との労働契約の権利義務については変化しませんから、出向者は出向元で有していた有給休暇の残日数を、出向先においても労働基準法39条4項により消化できると考えられます。

なお、法定休暇を超える所定休暇日数は、出向元と出向先とでは一致しません。

明確な合意がない場合には、休暇に関しては出向先の就業規則に基づき出向先の基準が適用されるとし、不利益部分については、買い上げ等の何らかの手段で出向元が代替案を提示することも、ありえるところです。

法定有給休暇日数を上回る所定有給休暇を買い上げることは、労基法違反にならない。

(平成23.10.15 基収第3650号)

賃金

出向先の賃金規程を適用した場合、賃金・賞与が減少するとしたら、出向命令に応じる社員はいなくなります。

このため、賃金・賞与については出向元の規定を適用し、その全部または相当部分を出向先に負担させることになります。

実際の扱いにおいては、

  1. 賃金は出向元が支払う
  2. 賃金は出向先が支払い、出向元は出向元と出向先との賃金格差を保障する

という場合など、さまざまです。

一概にどちらが正当かといえるものではありません。

ただし、出向元は、業務上の必要性に基づいて労働者に出向先への労務提供をさせるのですから、出向先での賃金支払義務を保証しているとも考えることができます。

状況(単一回答) N=2,416
出向元企業が全額負担する 30.6%
出向元企業が一部負担する 21.4%
出向先企業が全額負担する 40.3%
無回答 7.7%

(労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査 労働政策研究・研修機構 平成25.10)

※出向元の賃金水準が出向先よりも高い場合。出向者の賃金の水準について、主に「出向元の賃金水準」で出向を行っていると回答した企業を対象に集計

マルマン事件 東京地裁 昭和43.12.14

アメリカでの営業活動と現地法人設立のために派遣社員が、滞米中の給料および海外派遣手当の支払いを本国法人に請求したことにつき、右請求が認容された事例。

出向先の銀行口座から給与が支払われていたとしても、出向先は資本・人的関係等出向元の完全子会社であることから、その未払賃金は出向元に支払い義務がある。

日本製麻事件 大阪高裁 昭和55.3.28

出向先会社における賃金の未払につき、雇用契約関係は出向元会社との間に存在するとして、右賃金の支払を求めた事例。

出向先に賃金支払い義務があるが、支払不能の場合には支払不能の状態に陥って給料・賞与の支払義務を履行することができなくなったときは、出向社員の労働条件保障の趣旨から出向元にも義務がある。

高度の必要性があれば、賃金の減額もあり得るとされた例もあります。

日本貨物鉄道(定年時差別)事件 名古屋地裁 平成11.12.27

55歳定年を逐次60歳に移行していたが、就業規則の変更により、就業規則では60歳定年制と規定されていたが、厳しい経営状況から当面は55歳定年制として逐次60歳に移行する旨が附則によって定められ、延長された5年間の労働条件について

  1. 満55歳に到達時に原則として出向する
  2. 基本給は55歳到達月の65%(退職手当受給者は55%)とする(注:その後各5%引き上げられた)
  3. 定期昇給及び昇進を行わない

等が規定された。

この就業規則の変更に対し、賃金減額分の支払いが求められた。

裁判所は、経営の破綻した国鉄から貨物鉄道事業を引き継いでわずか3年を経過したばかりで、なお厳しい経営環境の下にあった被告においては、経営の安定化を図りつつ、60歳定年制の円滑な導入を行うには、55歳以上の労働者の賃金の引下げ等を行うについて、やむを得ない事情があったものであり、右のような55歳以上の労働者への不利益を法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであったと認めるのが相当である。

割増賃金

出向先の割増率が出向元の割増率より低い場合があります。

入社時の、「出向することがありえる」という包括的同意を根拠として、その全額を補填しなくてもよいと、解釈することもできないわけではありません。

しかし、実務的には、この割増賃金(時間外手当)も出向元の基準とすべきです。

月々の賃金の支払いが出向先から行われている場合は、出向元の基準にそって後日清算するという方法もあります。

もちろん、出向元と出向先との契約で、その率の差額をどちらが負担するか事前に協定しておかなければ、トラブルの原因となります。

賞与

賞与を出向先・出向元いずれの基準で支払うかについては、出向元の基準によるべきと考えるのが適当です。

直接労務提供を受けている出向先の基準にしたいならば、会社間の出向契約に盛り込んだうえで、本人にも出向時に、その旨の特約を結んでおくべきです。

なお、親会社からの出向者の賃金・賞与が、子会社の水準からみて高いという不満が訴えられることがしばしばありますが、これは、採用されることが容易ではない親会社に就職した者が、採用条件のゆるやかな子会社に派遣されたことによるという事情を汲み取ることによって、ある程度理解できることです。

社会保険

社会保険の保険料は、主たる賃金の支給者が事業主負担と合わせて日本年金機構に納付することとなっています。

このため、出向元が出向社員に賃金を支給する場合は、出向元が保険料を源泉徴収して納付し、事業主負担分については、出向先に負担させることになります。

日本ステンレス事件 新潟地裁高田支部 昭和61.10.31

原則としてその者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受けるひとつの雇用関係についてのみ、その被保険資格を認める。

(平成2.9.21 職発第509号)

出向元と出向先が賃金を折半しているような場合は、算定基礎となる賃金日額が低くなるので、本人不利にならないようにするためには、出向元と出向先が協議して賃金の支払いや保険料納付等をいずれか一方で行うなどの調整を行う必要があります。

関連事項:労災保険

服務規律・懲戒権

出向先の就業規則が適用されることが多いようです。

懲戒については、出向元、出向先それぞれが懲戒規定に基づき懲戒権を有していると解されています。(勧業不動産販売・勧業不動産事件 東京地裁 平成4.12.25)

福利厚生

社宅の貸与や労災の法定外補償、私傷病扶助等といった福利厚生関係については、出向元と出向先との取り決めによります。


出向の期間は?

出向の期間はいつからいつまでなのかを確認し、文書にしておくことが必要です。

3年の口約束で出向したが、期限がきても元の会社に戻してもらえないという片道切符の例もあります。

なお、「期間の延長もあり得る」といった出向規定を設けているケースもあるようですが、こうした項目は削除するよう交渉しましょう。

逆に出向期間が定められていなければ、出向元はいつでもその労働者を復帰させることができます。

古河電気工業・原子燃料工業事件 最高裁 昭和60.4.5

その後出向元が、出向先の同意を得た上、右出向関係を解消して労働者に復帰を命ずるについては、特段の事情がない限り、当該労働者の同意を得る必要はないものと解すべきである。

上記判例において、特段の事由とは、出向元へ復帰させないことを予定して出向が命じられ、労働者がこれに同意した結果、将来労働者が再び出向元の指揮監督の下に労務を提供することはない旨の合意が成立したとみられる、とされています。

期間の定めがないとしても、出向そのものが出向元企業の利益だと考えたとき、会社はその利益をいつでも放棄する=すなわち、出向を解消する=ことができるとも、解釈することが可能です。

この場合、労働者側が使用者の復帰命令に違反すると、懲戒の対象になる可能性があります。


出向元が破産した場合

出向契約の基礎となっている出向元と出向者との労働契約が消滅するので、出向先と労働者との労働契約も消滅すると考えられます。

逆に、出向先が破産した場合は、出向契約は解約され、出向元は出向者の復帰を受け入れなければならなくなります。


出向先が営業譲渡した場合

出向先が解散するのであれば、出向者は出向元に復帰することになります。

出向先が存続するのであれば、出向元の地位は変更されないことになります。ただし、営業譲渡によって出向の業務そのものが消滅した場合は、出向契約の目的が消滅することになるので、出向者は出向元に復帰することになります。


復帰した場合の身分、労働条件は?

出向期間が過ぎ、元の会社に復帰した場合の身分・条件等についても、前もって確認しておきます。

期限がきたにもかかわらず、「復帰させようにも受け皿がない」などといって戻してくれなかったり、戻ったものの仕事を与えられず、嫌がらせを受けて退職に追い込まれることもあり得るのです。

出向条件について合意したら、必ず文書にして残しておきましょう。


採用後ただちに出向を命じられるか

いかなる使用者の指揮命令下で労務を提供するかは労働契約の重要な要素だといえます。

したがって、親会社の名前で従業員を採用し、その者をただちに別会社に出向させるのは、詐欺に等しい行為であって、こうした出向命令は無効だといえます。

もし、「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」を明示していないなら、労働基準法15条違反となる可能性もあり、労働基準法120条の処罰を受けることになります。

「見せしめ出向」の日本IBM社員が職場復帰へ

日本IBMが総務部門などを子会社化した際に55歳以上の社員に給与カットを伴う転籍を求め、応じなかった者を別の孫請け会社に出向させたのは人事権の濫用だとして、社員4人と組合が同社を相手に出向命令の無効確認を求めた訴訟の和解が29日、東京地裁(多見谷寿郎裁判官)で成立した。

4人のうち3人は、元の総務部門に復帰する(残る1人はすでに定年退職)。組合側は「分社化を利用したリストラに対する歯止めになる」と話している。

和解後の記者会見で、原告の社員の1人は「やっと元の職場に戻れる」と喜びを語った。

日本IBMは99年4月に、総務、経理・財務、人事の3部門を子会社化した。総務部門では、55歳未満の社員を子会社に出向させ、55歳以上は転籍させることを決めた。

転籍者の賃金はそれまでの55%に減額された。

応じなかった社員に対し、同社は別の孫請け会社に出向させ、郵便物の集配や地下室での納品書のデータ打ち込みといった単純作業に従事させたという。(20:09)

asahi.com 2001.5.29


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