起訴休職

出勤できる場合は休職を命じる理由が必要

起訴休職は、従業員が刑事事件において起訴された場合に会社が休職を命じる制度です。

勤務可能な場合は、単に起訴されたという理由だけでなく、出勤することが企業の信用失墜につながるという判断があってはじめて、休職を命ずることができます。

一般的には次の3要件の少なくともひとつが必要です。

(1) 企業の対外的信用の維持
(2) 企業の対内的な職場秩序の維持
(3) 不安定な労務提供に対処して業務に支障が生じるのを防止する
 

日本冶金工業事件 東京地裁 昭和61.9.29

昭和46年7月に成田新空港建設反対闘争に参加し凶器準備集合罪および公務執行妨害罪の容疑で逮捕、勾留された従業員に対し、11月に保釈された後、会社は休職を命じた。

判決:労働者側勝訴

裁判所は、起訴休職制度について「刑事裁判が確定するまで従業員としての身分を保有させながら一時的に業務から排除して、企業の対外的信用の確保と職場秩序の維持をはかり、労務提供の不安定に対処して業務の円滑な遂行を確保する」ことにあるとし、従業員の起訴事実は、

(1)会社の業務にも労働者担当職務にも関連がない

(2)約1,900名の従業員が従事する製造所のいわば末端一従業員に過ぎず、引き続き就労させたからといって使用者の対外的信用確保にそれ程影響はない

(3)単純労務に従事する一従業員にすぎず、その抱懐する思想信条によって仕事の遂行が左右されるようなものではなく、引き続き業務に従事するとしても、これにより職場秩序の維持に悪影響を及ぼさない

(4) 休職処分発令当時既に保釈されていた

などの理由から、休職処分にすることはできないとした。

R.K.B.毎日放送起訴休職事件 福岡高裁 昭和51.4.12

起訴されても身柄が拘束されない限り従業員として労務を提供することが不可能になるわけではないが、なお、休職を命ずることができるとする理由は、起訴された事件の内容や種類、その従業員の地位・担当職務等によって会社の信用が失墜したり、職場の秩序の妨げとなるおそれがある場合や、拘留されたり公判期日出頭等のため労務の提供が不可能となることを想定している制度である。

したがって、従業員を起訴休職に付することができるかどうかについては、たんに刑事事件として起訴されたというだけでは足りず、企業の信用失墜や職場の秩序障害が生ずるおそれがある場合、もしくは当該従業員の労務の提供が不可能なおそれがある場合に限定されることになる。

多くの裁判例は、被告人が勾留を受けている場合のみ休職を認めており、在宅起訴や保釈されていて、単に公判出頭の際のみ労務提供上の支障を生ずるに過ぎない被告人については、認めていません。

また、無罪判決の宣告後は、上訴審において有罪判決の可能性が相当少なくなったものと考えられるので、職場の秩序の乱れ、会社の信用の失墜のおそれは少ないとして、起訴休職が無効とされることもあります。(前掲R.K.B.事件)

全日本空輸事件 東京地裁 平成9.5.28

11ヶ月を超えて無給の起訴休職に付していたことが合理的根拠を欠くとして、賃金支払が認められた。

裁判所は、起訴休職が当初は有効であったとしても、休職期間の途中において保釈や一審での無罪判決等によってその要件を満たさなくなった場合には、休職事由が終了したものとして使用者は復職措置をとらなければならないと判断した。


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