出向の理由

業務命令による出向か、解雇回避のための出向か

前提条件のとらえ方によって、是非の判断が異なる

企業は、業務上の必要から労働者を出向させることもあるし、経営不振から解雇を回避する策として出向を行うこともあります。

したがって、その出向の原因がどちらによるかによって、出向の是非の判断が代わってきます。

業務命令による出向

  • 就業規則に出向規定が必要
  • 整理解雇の要件は無くてもよい

整理解雇回避のための出向

  • 就業規則に出向規定がなくてもよい
  • 整理解雇のための要件が必要

業務命令による出向を拒否すると懲戒解雇の可能性が出てきますし、退職金の没収も発生する恐れがあります。

整理解雇回避の一環としての出向を拒否すると、その後会社都合の整理解雇の対象とされる恐れが生じます。

以下の条件があれば、その出向は業務命令だと判断してもいいでしょう。

  1. 出向期間が明示されている、
  2. 出向先での労働条件が著しく不利益にならない、

復帰が前提で、出向中の労働条件が合理的な範囲で補償されている出向であれば、労働者はその出向によって退職を余儀なくされることはなく、従来の会社での雇用が確保されているとみなすことができるからです。

佐世保重工業事件 長崎地裁佐世保支部 平成1.7.17

不況下の出向であるが、出向協定によって出向期間は原則2年と定められ、その期間は勤続年数に通算する、出向期間中の賃金は出向元の定めによる、出向のための社宅や宿舎の用意、出向中の出向手当・別居手当の支給等が定められた事案。

業務命令による出向であることを前提として、それを拒否した労働者の解雇を有効とした。

大阪造船所事件 大阪地裁 平成1.6.27

大阪から長崎の大島への勤務地の変更を伴い、かつ、大阪に復帰できる可能性がほとんどない出向命令で、その命令を受けた95名の労働者中93名が退職した事案。

整理解雇の法理が適用されるべきであるとして、その出向命令を拒否した労働者に対しての解雇の手続違反として無効としている。

なお、このケースでは、当初予定された148名の人員削減のうち148名の削減がすでに達成されていて、さらに1、2名の増減も許されないとは考えられないとされている。

関連事項:整理解雇の4要件

また、出向ないし転籍を拒否したときに解雇となる可能性があるかどうか、事前に説明していたかどうかも、重要です。

千代田化工建設事件 東京高裁 平成3.5.28

解雇の重大性に鑑みると、交渉の過程において自由な選択を建前とし、解雇に触れることがなかったのに、被控訴人の処遇について手詰まりになった結果とはいえ、解雇に及んだことは信義に反するとのそしりを免れることができない。

業務命令としての出向拒否者に対する懲戒処分は配転の場合と同様ですが、整理解雇回避努力としての出向命令は、厳密にいえば、使用者の権利の行使ではなく義務の履行であって、業務命令というよりも、労働者に対する出向の提案であると考えられます。

このため、出向命令違反→懲戒解雇というのは、望ましくありません。

ただし、出向命令に応じない=整理解雇の対象、という可能性は十分あり得ることです。


雇用確保のための出向が労働条件低下を招く場合

こうした出向の場合、一定の範囲内で労働条件の低下が可能であるとも解せます。

川崎製鉄(出向)事件 神戸地裁 平成12.1.28

雇用確保の一環の出向で、出向後の月収が5~6万円減収になった事案。

本件出向においては、基本給・一時金については被告の基準が適用されていること、収入の減少は、三交代制勤務から常昼勤務への移行に伴い交代手当がなくなるとともに、時間外勤務がほとんどなくなり時間外勤務手当が減少したためであること、被告川崎製鉄所においては、年間数十名が常勤勤務と交代勤務の間で勤務態様を変更していること、被告から本件出向直後に四直三交代制勤務への配置換えについて打診があったにもかかわらず原告がこれに応じていないことを考慮すると、本件出向により、原告の労働条件が大幅に低下し、著しい不利益を受けているとまでは認められない。


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