合意解約について

退職願

労働者の一方的解約としての退職の意思表示は、使用者に到達した時点で効力が発生しますので、原則として使用者の同意がない限り、撤回することはできないとされています。

しかし、使用者による精神的、肉体的な強要、強迫などがあれば、民法第96条第1項(詐欺、強迫による意思表示の場合)により取り消すことができるとされています。

具体例としては、以下のようなものがあります。

(1) 懲戒解雇に該当しないにもかかわらず、その可能性を告げ、退職願いを提出させた。
(2) 病気回復後出社した者を、長時間にわたり自主退職を強要し、提出させた。
(3) 会社が親等に依頼し、親族に迷惑をかけるとして提出させた。

損保保険リサーチ事件 旭川地裁 平成6.5.10

権利濫用にあたる配転に従わなければ、懲戒解雇になる旨を告げられた労働者が、いったん退職し嘱託になることを承諾した意思表示を行ったが、これが強迫によるものであったとした。

労働者による取り消しの意思表示により、当初の退職の意思表示が無効であるとされた。


合意解約の承認前

退職届などに対する使用者からの承諾が手続き上必要な場合、その承諾前は撤回できるとされています。

承諾については、その権限のある者が退職願を受領していることが必要です。(大隅鉄工所事件 最高裁 昭和62.9.18)

さらに内部手続きを要する場合は、その手続きにより本人に通知されることが必要です。(東邦大学事件 東京地裁 昭和44.11.11)

承諾の意志表示をするのに辞令の交付等を要することが就業規則等に規定されている場合は、その交付が行われるまでは、承諾があったと認められません。


合意解約の申し込みの場合

労働者が提出した退職願が合意解約の申し込みの場合、会社がこれを承認し、これを労働者に通知したとき(例えば、人事部長の承認の連絡があったとき)に、退職の効力が発生すると考えられます。

したがって、会社から承認の意思表示である通知(口頭通知でもよいが、辞令等を交付することが就業規則に規定されている場合はその交付)を受けるまで、原則として退職願の撤回ができることになります。


使用者からの合意解約の申し込みに対する承諾

使用者が合意解約を申し込み、これに対して労働者が退職届を提出して承諾の意思表示をした場合には合意解約が成立しますので、退職届(承諾の意思表示)の撤回はできません。

これらの場合も、意思表示の瑕疵(心裡留保、通謀虚偽表示、錯誤、詐欺、強迫)による無効または取り消しの主張を行うことは可能とされています。

ただしこの場合には、意思表示の瑕疵を裏付ける証拠の収集が必要となります。


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