退職金の支払方法と支払時期
退職金の支払方法
退職金が賃金とされるときは、その支払方法についても、労働基準法第24条1項が適用されますが、退職金については、その額が高額となり、現金の保管、持ち運びに伴う危険回避のため確実な支払方法として銀行振出小切手、銀行支払保障小切手、郵便為替による支払が認められています。(労基則7条の2、2項)
退職金の支払先
退職金規程に死亡退職金の受領者を「遺族」とのみ定めた規定について、遺族の範囲が問題となった事案で次のような判断が下されています。
福岡工業大学事件 最高裁 昭和60.1.31
受領者を「遺族」とのみ定めた退職金規程の取扱いについて、この規定は、専ら職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的として、民法上の相続とは別の立場で死亡退職金の受給者を定めたものと解すべきである。
このため、死亡者の収入により生活を維持していた内縁の妻が第一順位の受給権者である。
退職金の支払時期等
労働協約、就業規則などによって、あらかじめ支給条件の明確な退職金は、労基法上の賃金であり、労働基準法第23条の適用があります。
「退職金は退職後6ヶ月以内に支払う」と就業規則に規定がある場合、これは労基法第23条に違反しないかが、問題になります。
判例は、労基法第23条1項は、使用者の負担する賃金債務で既に履行期の到来したものについて、権利者から請求があったときに7日以内に支払いをしなければならないことを規定したものであり、上記の就業規則は退職金の支払期日自体について定めたものであるから、労基法23条1項には違反しないとしています。(久我山病院事件 東京地判昭35.6.1)
すなわち、退職後6ヶ月以内に支払うという特約があれば、履行期がその期間だけ延長されることになりますが、労基法23条はこのような延期そのものを禁止してはいないことがその理由です。
退職金は、通常の賃金の場合と異なり、予め就業規則等で定められた支払い時期に支払えば足りる
(昭和26.12.27 基収第5483号)
ただし、この支払い時期を過ぎても、なお支払われない場合や、支払期日が定められていない場合(=労基法第23条が適用される)、遅延損害金が生じることになります。
また、「社宅の明け渡しと引換えでないと退職金を支払わない」との就業規則、「損害金の賠償と引換えでないと退職金を支払わない」との就業規則の規定は、退職金が労働者の退職後の生活確保のための賃金であり、賃金については相殺が禁止され確実に労働者に対し全額が支払われねばならないとされている労働基準法第24条の趣旨からも、無効であると考えられます。
従業員兼務役員の退職金
日本の株式会社において、役員としての取締役は内部からの従業員の昇進という形態をとることが多いため、従業員としての地位を継続したまま取締役に就任し、代表者の指揮命令にしたがい業務に従事していることが少なくありません(従業員兼務役員)。
労働者が昇進して取締役に就任した場合であっても、労働契約上の労務の提供を行っているのであれば、少なくともその面に対応する退職金は、一般の労働者を対象とする退職金支給規程にしたがって支給されます。(シー・エー・ビジョン事件 東京地判 平成5.6.8)
退職金は、労働契約の趣旨にしたがって支給されるものであり、商法上の「取締役」という地位に当該労働者があるか否かは差し当たり直接影響しないと考えられます。
シー・エー・ビジョン事件 東京地裁 平成5.6.8
従業員兼務取締役の職務が一般従業員としての実態を有していたか否かによって、実際に取締役としての実態はなかったという場合には従業員としての退職金請求権を認め(日本情報企画事件 東京地判 平成5.9.10)、双方の職務を兼務していたという場合にも従業員としての退職金請求権を認めた。