退職勧奨と退職強要

退職勧奨と退職強要の違い

いわゆる肩たたきや希望退職募集など、会社が労働者に対し、退職を勧めることを「退職勧奨」と呼びます。

一定数の退職希望者を募る希望退職募集は、合意解約の申し込みの誘因であるとされています。

退職勧奨に応じれば、退職金の上積みや再就職の斡旋など、一時的に有利な条件を示す場合もあります。

その際に、これに応じるかどうかは、あくまでも労働者の自由意思に基づきますが、自由意思で退職届を出す限り、法的には「退職」の効果が発生します。

これに対し、退職強要とは社会通念上の限度を超えた勧奨をいいます。

度を超した退職の強要がなされたり、意思に反して退職させられたような場合には、その退職の取消を主張することができる。(民法第96条

また、退職条件などの内容について、重大な誤解をしたまま、意思に反して退職させられた時も、その退職の取消及び無効を主張することができる(民法第95条)とされています。

エフピコ事件 水戸地裁下妻支部 平成11.6.15

労働契約関係において、使用者は労働者に対し、労働者がその意に反して退職することがないように職場環境を整備する義務があると判示した。

※なお、本事案について、東京高裁は一審判決を取り消している。


退職勧奨に応じるかどうかは労働者の自由

退職勧奨に応じるかどうかは労働者の自由意思であり、労働者は勧奨退職に応ずる義務はありません。

退職勧奨は単なる合意解約の申し込みまたは申し込みの誘因に過ぎませんから、被勧奨者には応ずる義務はないわけです。

鳥取県教員事件 鳥取地裁 昭和61.12.4

退職勧奨そのものは雇用関係にある者に対し、自発的な退職意思の形成を慫慂するためになす事実行為であり、場合によっては雇用契約の合意解約の申入れ或いはその誘因という法律行為の性格を併せもつ場合もあるが、いずれの場合も被勧奨者は何らの拘束なしに自由に意思決定をなしうるのであり、いかなる場合にも勧奨行為に応じる義務はない。


退職強要に対する損害賠償の請求

勧奨目的が公序良俗に違反する場合(例えば、合理的な理由もなく女子、特定の思想・信条をもつ者のみを対象とする場合)や、退職勧奨の手段・方法が社会通念上の相当性を欠く場合は、違法な退職勧奨(退職強要)となり、退職勧奨(退職強要)自体が不法行為となり、損害賠償の請求の対象となります。

全日本空輸(退職強要・上告)事件 最高裁 昭和63.9.25

労災休業に引き続き長らく療養した後に、職場復帰した客室乗務員に対する退職勧奨が、その面談の時間の長さ、上司の言動から、社会通念上許容しうる範囲を超え、違法な退職強要に当たるとして、慰謝料80万円の支払を命じた。

エール・フランス事件 東京高裁 平成8.3.27

労働者を退職に追い込むために職場の上司らが行った暴力行為や嫌がらせ行為や、実質上の有用性がかなり低い統計作業を行わせたことが、不法行為を構成するとして、会社と職場の上司らの双方に損害賠償責任を課した。

下関商業高校事件 最高裁 昭和55.7.10

被勧奨者が退職を拒否しているのにもかかわらず何回も呼び出し、数人で取り囲んで退職を勧奨するなどして、被勧奨者の自由な意思決定を妨げた。

そのような職務命令が繰返しなされるときには、かかる職務命令を発すること自体、職務関係を利用した不当な退職勧奨として違法性を帯びるものと言うべきである。

そして、被勧奨者の意思が二義を許さぬ程にはっきりと退職する意思のないことを表明した場合には、新たな退職条件を呈示するなどの特段の事情でもない限り、一旦勧奨を中断して時期をあらためるべきであろう。

よって本件は、被勧奨者に心理的圧力を加えて退職を強要したものと認められる。

※慰謝料の支払いが命じられた。


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