早期退職優遇制度をめぐる問題

制度実施によって起こる裁判

企業が大幅な人員削減をする場合は、希望退職を募るのが通例であり、この場合、退職金の増額を応募の条件とすることが少なくありません。

この場合、希望退職を申し出た個別の労働者に対して、優遇制度を適用するか否かが会社側の恣意によって異なることができるのか、また、制度の導入について事前に労働者に周知しておくことが必要なのか、が争いとなります。


制度実施によって起こる裁判

以下の判例においては、優遇制度が採用されることを知らずに退職願を提出し退職した従業員との関係で、会社は発表前に特定の従業員に早期退職優遇制度を採用することを告知しなければならない信義則上の義務はないとされています。

  • 日本テキサス・インスツルメント事件 東京地裁 平成11.11.12
  • イーストマン・コダック・アジア・パシフィック事件 東京地裁 平成8.12.20

阪和銀行事件 和歌山地裁 平成13.3.6

銀行の業務停止命令によって見切りをつけて退職した従業員が、後になって労使協定により退職金が増額になったことを知り、この部分を請求した。

判決:労働者側敗訴

裁判所は、労働協約は、原則として、その協約締結時ないし協約有効期間における労働組合の組合員を対象とするもので、特段の事情がない限り、退職し組合員たる資格を失った者が、退職後に締結された労働協約による利益を享受しえなくなることは当然のことである、とした。


退職後さらに有利な優遇制度を作った場合

以下の判例においては、早期退職優遇制度の適用を受けた直後に、より有利な新たな優遇制度を設置したとしても、すでに退職した労働者の期待権を侵害することもないとして、不法行為に基づく差額分の損害賠償請求を否定しました。

  • 長崎屋事件 前橋地裁桐生支部 平成8.5.29

退職勧奨の必要性の度合いで支給額は変わる

以下の判例においては、早期退職優遇制度における退職加算金は、労働者が勧奨退職に応じる対価であるから、退職勧奨の必要性の度合いにより、その時期や所属部署によって支給額が変わることがあっても、そもそもその退職勧奨に応じるかどうかは労働者の自由な意思によるものでもあるので、憲法や労働基準法の平等原則に違反しないとしています。

  • 住友金属工業事件 大阪地裁 平成12.4.19

年齢によって異なる制度の適用も可能

次の事案は、45歳以上の従業員にはキャリア選択制度を一律に適用し退職金の加算があったのですが、45歳未満には個別に退職条件が定められる制度であったというケースで、45歳未満である原告には個別合意がなかったため、加算金請求が否定されました。

  • ホーヤ事件 大阪地裁 平成9.10.31

早期退職制度の適用と会社側の承諾

次の事案は、早期退職優遇制度の募集通達に「諸事情等を勘案して本制度の利用を承諾するか否か決定する」という規定があったケースで、銀行側の承諾なしに退職した行員が退職金割増を請求し、否定されたものです。

裁判所は、(1)本件募集通達は適用申込みの誘因に過ぎない、(2)銀行の承諾を必要としたのは、退職により銀行の業務の円滑な遂行に支障がでるような人材の流出を回避しようとする趣旨であって、それ自体不合理な目的とは言えないし、不承諾の場合も行員は従前の雇用条件の維持は可能であるから、著しい不利益を課すものとは言えないとし、会社側の承諾を要件としても公序良俗に反しないとしました。

  • 大和銀行事件 大阪地裁 平成12.5.12

早期退職制度の税金

退職金が早期退職制度等によって特別に加算されたとしても、その金額は退職に起因して支払われるものですから、「退職しなければ払われなかった」と認められれば、退職所得となり、税金上有利になります。


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