社宅の明渡しについて

社宅とは

いわゆる社宅には種々のものがありますが、主として次の3つの類型が考えられます。

(1) 従業員であるために「社宅」の賃借関係を続けているのではない場合。これは、世間相場に近い対価の支払いがあり、その支払いがあるため賃借がなされるとの合意がある場合は、通常の賃貸借というべきであって、通常の旧借家法または借地借家法が適用されます。
(2) 勤務のためにはそこに居住することが必要であり、居住が勤務の内容の一部ともいえるほどに居住と勤務とが密接に関連している場合で、社宅使用関係が、雇用契約の内容になるか、あるいはそれに付随するものであり、社宅貸与契約の終了について、雇用契約の終了と独立のものではない場合。
この場合は、雇用契約終了と同時に当該社宅の使用関係も終了します。
(3) 上2つの中間にあたるもので、従業員であるために賃借関係を続ける場合であり、これは賃貸借または使用貸借と解する必要がなく、特殊契約というべきであった、終了原因に関しては、旧借家法の適用がなく、したがって同法所定の正当事由も考える必要がありません。

なお、社宅の入居資格に「男性のみ」と規定した場合は、雇用機会均等法第7条、同法施行規則1条に違反することになります。


社内規程を確認する

社員としての身分を失った場合の社宅の明け渡しについては、社内の規程に明記されているものと思われますので、まずは、それを確認してください。

会社側は、その社員に対し規程を示し、期限までに社宅を明け渡すよう文書により通知することになろうかと思います。

もし、期限を過ぎても社員が社宅を明け渡さない場合には、会社は再度、「いつまでに社宅を明け渡してください。さもなくば法的措置を講じます」という旨の文書(相手方への到達を確認するための内容証明郵便、配達証明付きが適切)を送付することになります。

にもかかわらず社宅が明け渡されない場合には、会社としては、家屋明け渡しと不法占拠期間の賃料相当額の損害賠償を求める訴訟を提起するか、あるいは、緊急を要する例外的場合には家屋明け渡し断行の仮処分の申し立てを行うこととなります。


使用料が定額の場合は、雇用関係に連動する

裁判例では、使用料の金額が一般の借地権における賃料に比べてどうかという点を検討し、使用料が低額な場合は、社宅の利用関係は賃貸借ではなく、雇用関係にともなう特殊な契約関係であって、借地借家法の適用はないとする考え方をとるのが主流です。

どの程度の金額を徴収すれば賃貸借として認定されているかですが、判例では概ね世間相場の7割以上の支払いが行われていれば、借地借家法の適用ありとしているといえます。

下級審の裁判例は圧倒的に社宅の明け渡し請求を容認しています。

借地借家法が適用される場合

解約するには6ヶ月前に解約申し入れをし(同法27条1項)、しかも正当な事由が必要(同法28条)。


社宅に関する判例

興国ゴム事件 東京地裁 昭和46.7.19

使用料が会社の負担している地代の半額程度で、実質的には家屋の維持管理費用の一部に充てられる程度は借家法の適用なし

JR東日本建物明渡事件 千葉地裁 平成3.12.19

同一の立地条件の建物の賃料に比較すると、使用料が数分の一である場合、この使用料は賃料ではない

JR東日本杉並寮事件 東京地裁 平成.9.6.23

寮の経費+地代・建物設備の償却費が6万4千円余りであり、近辺の貸室の賃貸料が月額5万円を超える場合に、寮生の負担が8,460円の場合、借地借家法の適用なし

借地借家法の適用がない場合、明け渡し期間をおく必要はありません。

ただし、無用のトラブルを避けるためには、ある程度の猶予期間をおくことが望ましいでしょう。

「6ヶ月の猶予期間は十分に合理的」とした判決があります。(道路公団職員宿舎明渡事件 昭和49.4.22)

また、管理人室の使用契約が管理業務の遂行上必要として認められていたケースで、管理人がその地位を失えば、管理人室の使用契約は当然に終了するとして会社の明け渡し請求を認めたものもあります。(財団法人雇用振興協会事件 東京地裁 平成8.6.24)

会社の家主から賃借していた社宅についた建物につき、家主から契約期間終了後の明け渡しを求められたことを理由に従業員に社宅から立ち退きを要求したことは、不当労働行為にあたらないとした例もあります。(エッソ石油事件 神奈川県地労委命令 平成9.9.1)


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