退職後に不正行為が発覚したとき

退職後に不正行為が発覚しても、遡って懲戒できない

すでに雇用関係が無くなってしまった状況では、退職者に対して懲戒解雇の意思表示をしても何の意味もないことになります。

山口観光事件 最高裁 平成8.9.26

マッサージ師とし勤務していた従業員が、年次有給休暇を取得しようとして解雇されたが、その者が裁判所に地位保全仮処分を申請したところ、会社は、採用時に履歴書に虚偽の生年月日を記載し、57歳3ヶ月を45歳3ヶ月と詐称したので、これを理由として解雇した、と主張した。

最高裁は、「使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として一種の秩序罰を科するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである。したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情がない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠づけることはできないものというべきである。これを本件についてみるに、・・・本件懲戒解雇当時、上告人において、被上告人の年齢詐称の事実を認識していなかったというのであるから、右年齢詐称をもって本件懲戒解雇の有効性を根拠づけることはできない」として、懲戒解雇を主張する会社側の訴えを退けた。

宝塚エンタープライズ事件 大阪地裁 昭和58.6.14

被告は、右退職届は単に一時預かっただけで、正式に受理した訳ではないから、その提出による退職は効力が生じておらず、原告らはその後の懲戒解雇により、被告を退職したものである、との旨主張するが、右のとおり、原告らの右退職届の提出は、被告の退職勧告に基づくものであり、それを受け取るときに被告は何ら留保をしていないのであり、原告らはその後被告に出社していない等右届提出後は退職となったことを前提とする行動をとっている、等の事情に照らせば、右退職届を被告が受け取った時に、原告らが即時被告を退職する旨の合意が成立した、というのが相当であり、従って、その後に被告が原告らに対し懲戒解雇の意思表示をしたとしても、既に、本件雇用契約が右合意により消滅している以上、右懲戒解雇は効力を有しないというべきである。

ジャパン・タンカーズ事件 東京地裁 昭和57.11.22

本訴原告の前記退職は、就業規則に則ったものと認められる。 そして、右のとおり、本訴原告は昭和55年3月末日限り本訴被告を自己都合により退職したものと認められる以上、本訴被告と本訴原告との間の雇用関係は右事由によって終了したものであり、たとえその後になって本訴被告が本訴原告に対して懲戒解雇の手続を踏んだとしても、これによって右自己都合退職による雇用関係の終了の法的効力に影響を及ぼすものではない。


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