横領・着服による懲戒解雇について

横領・着服の場合は、解雇は有効とされる場合が多い

バスとかタクシーの運転手による料金の横領・着服については、その金額の多寡を問わず、懲戒解雇が有効とされています。(西鉄自動車事件 福岡地裁 昭和60.4.30、土佐電気鉄道事件 高知地裁 昭和60.6.27)

また、着服事件については次の判例があります。


横領・着服で、解雇は有効とされた判例

ジェーティービー事件 札幌地裁 平成17.2.9

労働者が関連会社に出張中、出張旅費の不正受給を繰り返して合計23万8500円を流用・着服したとして懲戒解雇されたのに対し、解雇の無効確認と本判決確定に至るまでの賃金の支払を求めた。

裁判所は、少なくとも15回にわたって合計22万6500円の出張旅費を不正受給したことは、その使途が仮に会社の他の経費に流用する目的であったとしても、懲戒解雇事由に該当し、また、本件懲戒解雇が、処分の相当性・謙抑性、平等処遇の原則、懲戒手続の適正に違反し、解雇権の濫用に当たるということはできない、とした。

自由ヶ丘学園事件 東京地裁 平成15.4.48

懲戒解雇事由とされている原告の、修学旅行の下見旅費等の詐取等の不正行為は、長年の功労を抹消するに足りる行為というべきであり、退職金請求権は認められない。

バイエル薬品(本訴)事件 大阪地裁 平成11.9.27

製薬会社研究員に対する懲戒解雇。

社内の許可を得ずに総額約1,500万円に及ぶ高級機器を私用のために購入。

納入業者から不正納品書及び請求書を提出させ、同社から過払いとして返金を受けた10万円も勝手に使用。

JR東日本事件 東京地裁 平成13.10.26

現金着服行為を理由とする懲戒解雇が有効だとされた。

大阪フェルトファブリック事件 大阪地裁 平成10.3.23

営業所長ないし所長代理として、経理担当者の横領行為を容易に知り得る状況にあったにもかかわらず、経理内容のチェックを著しく怠ったため、横領行為の発見が遅れ、その結果、被害額を著しく増大させた。

日本国際酪農連盟事件 東京地裁 平成10.4.22

移転経費、家賃補助、共済会補助金、受益証券購入、共済会補助などの名目で合計1,600万円余の根拠のない出金をさせた社団法人事務局長に対する懲戒解雇

ダイエー(朝日セキュリティシステムズ)(本訴)事件 大阪地裁 平成10.1.28

夕食代の領収証を改ざんし10万円余りを不正に取得した社員に対する懲戒解雇

上田株式会社事件 東京地裁 平成9.9.11

会社名義のクレジットカードの利用明細書添付のクーポン券を集め応募用紙に会社名義を盗用して、カード会社より総額約14万円相当の商品券を取得していた経理課職員に対し、解雇は有効とされた。

日本土地建物事件 大阪地裁 平成8.9.6

登記印紙の売渡証明書185枚を偽造して登記印紙代296,000円を会社に請求した不動産鑑定業務を行う従業員の懲戒解雇

川中島バス事件 長野地裁 平成7.3.23

定年退職を間近に控えたワンマンバス運転手によるバス料金3,800円の着服を理由とする懲戒解雇が有効とされた。

日本旅行事件 大阪地裁 平成6.2.23

旅行代理店社員が顧客から集金した旅行代金を費消し領得したことを理由とする懲戒解雇が有効とされた。

大同生命保険事件 大阪地裁 平成5.11.25

生命保険会社の営業社員が顧客から返済を受けた金員を着服したことを理由とする懲戒解雇が有効とされた。

函館北郵便局事件 札幌地裁 平成5.11.25

郵便局員の多数回にわたる切手販売代金の横領(計約25万円)を理由とする懲戒免職を有効とした。

前橋信用金庫事件 東京高裁 平成1.3.16

信用金庫の業務推進部にいる調査役が、顧客から集金した金銭のうち1万円を着服した事案。懲戒解雇は有効とされた。

ナショナルシューズ事件 東京地裁 平成2.3.23

会社と同業を経営し、取引先からリベートを受け取ったり、要求していた靴販売会社の商品部長に対する懲戒解雇

崇徳学園事件 最高裁 平成14.1.12

学校法人の事務局次長による不正な経理処理に対した懲戒解雇が有効であるとされた。


横領・着服で、解雇は無効とされた判例

アオキインターナショナル事件 奈良地裁 平成15.10.23

商品の一部を横領したとしてなされた店長の懲戒解雇は、その事実を認めることができないので無効。

やまなみ信用組合事件 甲府地裁 平成15.10.20

大型金庫から3500万円が紛失した事件の真相が明らかになっていない段階で、出納担当職員を内規違反だけで諭旨退職処分にしたことは、客観的理由を欠き、権利の濫用に当たるため、無効である。

三貴時間 東京地裁 平成15.5.29

会社が懲戒解雇事由として挙げる横領の事実を認めることはできず、懲戒解雇の意思表示は無効であり、退職金支給の欠格事由はないから、退職金等請求は認容できる。

茨城急行自動車事件 東京地裁 昭和58.7.19

保険会社から会社が受領する事務手数料の一部を領得していたことを理由としてなされた懲戒解雇につき、前任者も同様の領得行為を行い、同時期に懲戒処分に付されているが、その処分は出勤停止5日間に留まっており、領得金額に差があるものの、その前任者の行為が先例となって被解雇者の領得行為につながったとみることを考えれば、前任者の責任は後任者のそれに劣るものではなく、後任者を懲戒解雇に処することは不均衡に失し、懲戒解雇は無効である。

被害弁償がなされているケースであっても、懲戒解雇処分の相当性が肯定される場合があります。(日本旅行事件 大阪地裁 平成6.2.23、日本交通公社事件 東京地裁 平成12.6.23)

部下の横領を見過ごしたとして、懲戒解雇された案件もあります。

関西フェルトファブリック(本訴)事件 大阪地裁 平成10.3.23

部下の横領行為について、「日計表と現金預金残高を確認照合するなどしさえすればAの横領行為をたやすく発見しえた」として、それを看過した営業所長に対する懲戒解雇が有効とされた。


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