整理解雇の人選基準について

整理解雇の人選基準には、合理的理由が必要

大勢の労働者の中からその一部の者を選定して整理解雇する場合には、なぜその労働者が整理の対象者となったかについて合理的な理由が必要です。

通常、「整理解雇基準」等の選考基準が作成されます。

一般的には、以下のようなこと等が挙げられます。

  1. 解雇しても生活への影響の少ない者
  2. 企業再建、維持のために貢献することの少ない者
  3. 雇用契約において企業への帰属性の薄い者

タチカワ事件 津地裁 昭和46.12.21

解雇基準を定立し、これに基づき被解雇者を選定するという配慮をしなかったことは、著しく信義に欠けるものであって、右解雇権の行使は権利の濫用として無効である。

山崎技研事件 高知地裁 昭和54.5.31

長期欠勤の続く者、技術の劣る者、上司に反抗的な者、協調性のない者、いなくても作業に支障がない者、本人が働かなくても生活に支障が少ないと思われる者など、合計13項にわたる整理基準について合理的であり、解雇が有効。


整理基準として認められたケース

  • 出勤率が年間を通じて90%以下の場合
  • 再就職の可能性が大きく、家庭経済に与える影響が比較的少ないとみなされる独身者
  • 30歳未満などの若い人で、会社への貢献度が低いこと、再就職の可能性が大きいことから人員整理の目的に沿う場合
  • 人件費コストが高い高年齢者(世界的には差別として禁じる方向にある)

整理基準としては認められないケース

  • 夫がある女性、30歳以下の女性など→男女差別は法違反
  • 客観性を欠く「総合評価」によるもの、誠実・勤勉など抽象的基準
  • 職場によって勤怠の基準に著しく差がつけられている場合
  • 勤務考課の具体的内容が明らかでない場合
  • 希望退職者を募集した際、応募者の一部に対して退職を認めなかったにもかかわらず、別の人を解雇した場合
  • 会社が移籍先を準備して勧めたにもかかわらず、移籍を拒否した者

エヴェレット・スティームシップ・コーポレーション・エス・エイ事件
東京地裁 昭和63.8.4

リストラ対象者の選定基準はある程度抽象的・概括的でもやむをえないとした事案。

解雇基準の適用において重要なのは、その結果であって、それが不合理で客観性を欠くものであってならないことは勿論であるが、適用の過程で解雇権者の主観が入り込む余地がない程度までに評価項目が細分化され基準化されていなければならないものでもないと解される。

また、解雇基準を予め組合又は従業員に提示して、その了解を得なければ解雇そのものが許されないというものでもない。

ジャレコ事件 東京地裁 平成7.10.20

リストラ対象者の選定基準はある程度抽象的・概括的でもやむをえないとした事案。

リストラ基準ははっきりしているが、適用がそれに沿ったものでないと指摘された事案。

債務者においては平成5年以降急激に経営が悪化し、人員削減の必要が生じたこと、勧奨退職者が予定人員に達せずやむなく4名の解雇に踏み切らざるを得なかったことが認められる。

しかしながら、4名の人選については能力と勤務態度を基準として行われたことが認められるものの、人員削減の対象を開発四部に限定したことや、同部所属の者の中で被解雇者4名を選定するに当たり、他の従業員と比較してどのようにその能力や勤務態度が劣ると判断されたかについて具体的な検討の結果が窺がわれず、人選の過程が合理的であったとの疎明は十分とはいいがたい。


海外の整理解雇の状況

労働経済学者の中には、「日本の労働組合は解雇反対の声は高いが、その人選については会社まかせだ」と主張する人がいます。

アメリカには年齢差別禁止法があり、先任権制度が確立して、通常解雇は年齢の若い者から行われます。

このため、実際の解雇者の年齢構成が高いと、裁判所に提訴され、企業側が高齢者を意図的に選定しているわけではないことを立証しなければ、その解雇が無効になります。

解雇が本当に人事考課によるものであると立証するために、人事考課は本人に開示され、本人確認のサインをします。

ドイツには、労働者代表委員会(ベトリプス・ラート)があり、解雇について人選基準を定めています。

この場合、社会的観点が重視され、(1)再就職の容易さ、(2)家族責任が配慮されます。

よって、中高年や障害児や小さい子を育てる者は、できるだけ解雇されないように考慮されます。

こうした背景から、人員整理の深刻度合いも日本とは大きく異なります。


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