希望退職の実施手順について
希望退職の条件の明確化が必要
希望退職者を募集する場合は、年齢、勤続年数、職級などによって条件を付けるのが普通です。
退職予定日も明確にしておきます。
どの会社にも「辞められると困る」社員はいます。
このため「業務上、特に必要と認められる者は除く」といった除外規定が設けられます。
募集期間は、一般的に2週間~1ヶ月程度が妥当だといわれています。
また、募集に先立って、次の点を決めておくべきでしょう。
(1) | 募集期間の途中で応募者が予定人員に達したらどうするか。 その時点で募集を打ち切るか、それとも引き続いて希望を受け付け、希望者全員を退職させるか。 |
(2) | 退職希望者が予定人員に達しなかったときは、2次募集、3次募集を行うか(その際の退職金の優遇策は、1次の場合と一致させるか、異なったものとするか)。 |
(3) | 1次募集終了後、直ちに指名解雇を行うか。 |
希望退職の条件提示
希望退職の場合、次のような条件を設定しておくことがあります。
- 同業他社をみて、水準と決める
- 年齢ごとに割増率を高くする
- 1次募集→2次募集→3次募集とするにつれて、割増率を低くする
- 有給休暇を買い上げる
- 再就職のあっせんをする
しかし、一方で、辞めてほしくない優秀な社員から、優遇措置を利用した退職の申し出がなされる可能性もあります。
そのため、辞めてほしくない社員に対しては、「キミは社になくてはならない人材だから・・・」などと、いわゆる“逆たたき”をするケースもみられます。
希望退職募集の段階では、申込みに過ぎませんから、希望者の選別を会社が行ったとしても、恣意的な選定にわたらない限り、法律上は問題ないということになります。
希望退職を拒否する場合
業務上の都合によって希望退職を拒否する場合には、あらかじめ次の事項を明確にしておく必要があります。
(1) | 優遇制度の申し出は認めない場合もあること |
(2) | 承諾か却下かの判断は会社が各種事項を総合的に勘案して決定すること |
(3) | 優遇制度の申し出の却下は通常に退職することを拒否するものではないこと(却下された者は自己都合退職となること) |
(4) | 申し出を却下された者は退職の意思表示を撤回することができること |
(5) | 申し出を却下した者に対して、会社は何ら不利益な取り扱いをしないこと |
実施手順(例)
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販売の現状と見通しの分析
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過剰雇用の合理的算定
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希望退職者の募集人員と募集範囲の決定
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募集期間、募集条件の検討、決定
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労働者および労働組合に説明
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募集期間の設定
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労働者との面談
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希望退職者の受付(1次募集、2次募集、3次募集)
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希望退職者に対して退職辞令を発令
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退職者に対して退職金の支給
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退職者の社会保険の喪失手続
希望退職規程(例)
希望退職規程
(総則)
第1条
この規程は、経営不振に伴って実施する希望退職の取り扱いについて決める。
(募集人員)
第2条
希望退職の募集人員は、次のとおりとする。
募集人員――○○名
(募集対象者)
第3条
希望退職の募集対象者は、次のとおりとする。
募集対象者――○○○○年1月1日現在満45歳以上の者
(募集期間)
第4条
希望退職の募集期間は、次のとおりとする。
募集期間――○○○○年○月○日から○月○日まで(2週間)
2 募集期間の途中で応募者が募集人員に達したときは、その時点で募集を打ち切る。
(退職届)
第5条
希望退職者は、退職届を会社に提出するものとする。
2 会社が業務上特に必要とする者については、本規程に基づく退職を承認しないことがある。
3 前項に該当する者が退職する場合は、本規程第7条は適用しないものとする。
(退職日)
第6条
希望退職者の退職日は、次のとおりとする。
退職日――○○○○年○月末日
(退職金の特別加算)
第7条
希望退職者に対し、退職金の特別加算を行う。特別加算の額は、本年1月1日現在の年齢の区分に応じて次のとおりとする。
45~50歳――退職金の40%相当額
51~55歳――退職金の30%相当額
56~58歳――退職金の20%相当額
59歳――――退職金の10%相当額
(年次有給休暇の買い上げ)
第8条
退職日において年次有給休暇を保有している者については、その年次有給休暇を買い上げる。買上単価は、次のとおりとする。
買上単価――本人の基準内給与÷1か月平均所定労働日数
(退職金の返還)
第9条
希望退職者が退職後において次のいずれかに該当するときは、会社は、退職金の返還を求める。
- 会社の重要な情報を洩らしたとき
- 会社を非難・中傷・誹謗する発言をし、会社の信用・名誉を傷つけたとき
- その他、会社に損害を与える言動のあったとき
(付則)
この規程は、○○○○年○月○日から○○○○年○月○日までの期間施行する。
希望退職に関する判例
希望退職に応じるか否かは、個人の自由です。
鳥取県教員事件 鳥取地裁 昭和61.12.4
被勧奨者は何ら拘束なしに意思決定をなしうるのであり、いかなる場合も勧奨行為に応じる義務はない。
希望退職の募集範囲については、次の判例があります。
東洋酸素事件 東京高裁 昭和54.10.29
特定事業部門の閉鎖に際し、従業員の配転先確保のために他部門の従業員につき希望退職者を募集する義務があるか否かは、当時の諸般の事情を考慮して判断されるべきだとして、当時は求人難の時期で全従業員を対象に希望退職を募ると他社から熟練労働者等が引き抜かれる等の事情を勘案し、希望退職の募集をせず整理したこともやむを得ないとされた。