従業員の交通事故と解雇

飲酒運転と解雇

解雇が有効とされた事案として、バス会社の運転手が休日に大量に酒を飲んだうえマイカーを運転して、罰金刑に処せられた場合に、バス会社としては運行の安全確保が至上命令であるとして、日頃から社員に対し厳しく注意していた事情などを考慮した判例(千葉中央バス事件 千葉地裁 昭和51.7.15)や、職場外での数度の飲酒運転およびこれによる逮捕、拘留を理由とするバス運転手に対する通常解雇は、企業の社会的評価へ悪影響を与えたことや企業秩序を乱したこと等を理由に有効であるとした大津地裁の判決(滋賀交通事件 平成1.1.10)などがあります。

一方、解雇が無効とされた事案として、勤務時間外に自己所有車を飲酒運転し、物損事故を引き起こし、酒酔い運転などの罪で罰金5万円の略式命令を受けた者に対する懲戒解雇は、その会社の社会的評価に与えた悪影響および企業秩序に与えた影響の程度が重大とは認められないとして、解雇権の濫用であると判示(地位確認等請求控訴事件 東京高裁 昭和59.6.20)しています。

日頃の会社側からの指導や、初犯か再犯かなどによっても処分内容は違ってくると思います。

いずれにせよ、会社としては交通事故(法令違反を含む)に対する懲戒処分規定を作成しておくことが必要です。

関連事項:
懲戒
降格・減給

フットワークエクスプレス(山口店)事件 山口地裁 平成10.7.15

大型トラックを運行中に民家敷地内の車両に接触させ、修理代11万円余りを要する損傷を与えたトラック運転手に対する諭旨解雇については、被害者側との間で円満に示談が成立していることなどを重視して、諭旨(懲戒)解雇事由には該当せず、当該諭旨解雇は無効である。

京王帝都電鉄事件 東京地裁 昭和61.3.7

バス会社の運転手が、勤務時間外、酒気帯び運転中に死亡事故を起こした。懲戒解雇が有効とされた。

ヤマヨ運輸事件 大阪地裁 平成11.3.12

使用者側に安全衛生に対する配慮義務に違反した点が認められるときは、懲戒解雇事由に妥当性を欠くとされた。

交通事故を引き起こした従業員たる運転手らに対し制裁として不利益を科し、当該従業員または他の従業員に対する戒めとする必要がある場合でも、懲戒処分をなしうるのは、交通事故が専ら従業員の故意、過失によるなど従業員の責めに帰すべき事由に起因する場合に限定され、労働契約関係に伴う信義誠実の原則から要請される労使双方の義務履行状況すなわち、従業員側において自動車運行上誠実義務、注意義務を尽くしたかどうか、使用者側において安全衛生に対する留意義務、配慮義務などを十分尽くしたかかどうかなどを相互に公平に判断し、その結果なお交通事故の真の原因が主として従業員の領域に属する場合であって、企業秩序ないし労務の統制維持の観点からみて必要であると解される場合に懲戒権の行使が許されるべきである。

酒酔い容疑の運転手、懲戒解雇へ JRバス関東

JRバス関東の高速バスが東名高速道路で酒酔い運転した事件で、同社は28日、東海林保社長を減給3分の1(4ヶ月)とするなど役員計4人の処分と再発防止策を発表した。

また、逮捕された運転手(32)が乗車前のアルコール検知器による自主検査をしなかったことを明らかにし、懲戒解雇する方針も決めた。

同社は運転手に出勤時、自分でアルコール検知器を使って検査するよう指導しているが、福田運転手は前夜の飲酒が残っているのを恐れて検査しなかったという。

同社では上司への結果報告も義務づけていなかった。

このため、再発防止策として、乗車前と終業時の点呼時に、上司が立ち会って検知器を使った検査をし、上司が数値を点検。

9月から抜き打ちで上司が添乗し、運転手が酒類を持ち込んでいないかも調べることにした。

さらに、1年ごとに全運転手約700人の「運転記録証明書」を各地の自動車安全運転センターから取り寄せ、違反歴の調査も始めた。

運転手は2年前に自家用車を酒気帯び運転して免許停止になっていたが、ほかにも宇都宮支店で2人、長野原支店(群馬)で1人が酒気帯び運転で免停になっていたことがわかり、3人を当面、乗務から外した。

ほかの役員の処分は、取締役会長 減給3分の1(4ヶ月)▽総務・人事担当常務取締役 同(2ヶ月)▽取締役営業部長 同(1ヶ月)。

(asahi.com 2003.8.28)

事故報告に「荷主記載を」 業者に義務化、国交省方針

運送事業者による事故を減らすため、国土交通省は今年度中に省令を改正し、国に提出する事故報告書に荷主名の記入を義務づける方針を決めた。

トラックによる重大事故や過労運転の背景に、十分な休憩がとれない所要時間や低料金といった荷主側の厳しい要求があるという指摘も出ており、事故と荷主との関係の実態把握をするのが狙いだ。

特定の荷主で事故が頻発していることが確認できれば、荷主に改善を求めることも検討していく。

運送事業者や事故対策の専門家らでつくる安全対策検討委員会でも、荷主の責任を明確にすることの必要性が挙げられた。

事故報告書は重傷以上の人身事故や、横転、車両火災などが対象。

04年はトラックが2,278件とバスやタクシーなどを含めた運送事業者全体の事故の約6割を占め、深刻な死傷事故につながる比率も高かった。

国交省などによると、貨物の運送事業者は90年度の約4万から04年度には約6万1000に増えて過当競争になっている。

一方で荷主側からはより低料金で指定時間通りに到着することなどを要求されることが多い。

大半が中小事業者で継続的に受注するため厳しい条件でも契約せざるを得ず、長時間、過労運転、過積載を招いているとされる。

同省がまとめた05年度の運送事業者による事故の分析報告でも、1件だが実例を取り上げている。

トラックが速度超過で事故処理中の乗用車に追突して3人が死傷した事故の直接の原因は運転手の前方不注意だが、過去に荷主が到着の遅れにクレームをつけたことがあり、この時も1時間の遅れを取り戻そうと急いでいた、と指摘した。

だが、事故報告書は会社の運行管理者名などを書く欄はあるが荷主についてはなかった。

(asahi.com 2006.6.17)


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