解雇権の濫用による解雇の無効

解雇権濫用の法理

解雇とは、会社と労働者の結んだ労働契約を、会社側の意思で一方的に終了させることです。しかし、解雇権の濫用に当たるような解雇は無効となります。

この原則は、平成16年1月1日に改正・施行された労働基準法に次のように明記されました。

現在この規定は、平成20年3月1日に施行された労働契約法にて規定されています。

労働契約法第16条(解雇)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

ただし、労働契約法に罰則は用意されていないので、合理性なき解雇は無効となるものの、使用者が刑罰を受けたり行政処分を受けることはないと解されます。

条文上、客観的とは、外部の第三者から見ても確認できる事実が、その解雇理由にあるか、ということです。

合理的とは、理由の事実が真実で、解雇の正当な事由であるということを証明できるか、ということです。

社会通念上相当とは、社会一般からみても確かにそうだと思われる理由があるということですが、これは時代や文化などによって微妙に異なってきます。


解雇の合理的な理由

解雇権の濫用であるかどうかの立証責任は、使用者側にあるというのが、現在の考え方です。

本条項の成立にあたって、衆議院・参議院の厚生労働委員会において、次のような附帯決議が付けられています。

附帯決議

本法における解雇ルールは、解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち、圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判実務を何ら変更することなく最高裁判所判決で確立した解雇権濫用法理を法律上明定したもの。

本法における解雇ルールの策定については、最高裁判所判決で確立した解雇権濫用法理とこれに基づく民事裁判実務の通例に則して作成されたものであることを踏まえ、解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判上の実務を変更するものではない。


有効な解雇の図式

有効な解雇の図式

平成15年の法改正により、就業規則への「解雇事由」が絶対的必要記載事項となりました。

この規定が未整備の場合でも、解雇権濫用に当たらないかぎり、社会通念上相当と認められる解雇はできると考えられていますが、紛争回避のため、早急に規定整備することが望まれます。

解雇権濫用の判断ポイント

会社の解雇権の行使が権利の濫用に当たらないためには、次の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 解雇理由に客観的合理性があること
  2. その行使に社会的相当性があること

まず第1には、解雇に値する合理的な理由の存在が必要です。

第2に必要なのは、解雇予告等の手続きです。

会社は、労働者を解雇するとき、少なくとも30日以上前に労働者に予告しなければなりません。また、予告しないで解雇する会社は、少なくとも30日分以上の平均賃金を労働者に支払う義務があります。(労働基準法第20条)

裁判例では、民法第1条第3項の「権利の濫用は、これを許さない。」などのいわゆる一般条項を適用して、正当な理由(合理的な理由、相当な理由等)のない解雇は、解雇権の濫用として無効とされています。

高知放送事件 最高裁 昭和52.1.31

普通解雇事由がある場合にも、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効となる。

いずれにしても、使用者の示す解雇理由が抽象的なものとならないよう、解雇の詳細な理由とその裏付けとなる事実を確実に準備しておくことが肝要です。


労働組合の態度と解雇権の濫用

労働協約において、解雇を含め、人事について組合との事前協議や組合の事前の同意を要すると定められることがあります。

これに違反する解雇は権利の濫用として無効とされる可能性があります。

日立製作所事件 東京地裁 昭和27.7.7

解雇の場合の協議とは、たんなる付議では足りず、十分な審議を要する。

池貝鉄工所事件 最高裁 昭和29.1.21

組合が解雇絶対反対の態度をとり協議に応じない場合、使用者が協議を断念して解雇を行っても協議義務違反とはならない。


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