解雇撤回と就労義務について

解雇撤回後に勤務しない場合

使用者が解雇を撤回して、労働条件を大幅に切り下げるなどした上で、就労を命じることがあります。

そして、労働者が就労命令に応じず就労しない場合に、「無断欠勤」もしくは「業務命令違反」を理由に懲戒解雇することもあるかもしれません。

しかし、過去分の賃金が支払われなかったり、大幅な賃金の切り下げが行われたり、復職後の職務内容がまったく不明であったり、職務それ自体が苦痛で耐え得ないものである場合などで、労働者は就労の意思があることを明らかにしつつ、適正な労働条件が確保されるまでは就労を拒否するという対処をしてくる可能性があります。

最近の判例では、このような観点から就労拒否を理由とする第2次解雇を無効としたものも出ていますので注意が必要です。

アリアス事件 東京地裁 平成12.8.25

解雇を無効とする仮処分決定後、解雇を撤回したものの、部長職を解任し、賃金を従前の約65万円から約35万円に引き下げたうえで就労するよう命じるばかりで、就労開始日、就労場所、職務内容、労働条件を書面で明確化することを求める労働者代理人の要請を無視し、無断欠勤等を理由として懲戒解雇した事案で、懲戒解雇は無効であるとされた。

日経団総合コンサルティング事件 東京地裁 平成12.4.11

第1次解雇の撤回、後新たな勤務場所での職務命令に従わなかったことを理由とする第2次解雇につき、同配転はその必要性等の説明もなく、不当な不利益を負わせるもので、配転命令権を濫用する無効なものだとし、第2次解雇も無効とした。

ブルームバーグ第二次解雇事件 東京地裁 平成27.5.28

(1)東京地方裁判所民事11部(鷹野旭裁判官)は、2015年5月28日、ブルームバーグ第二次解雇事件の裁判において、労働者側勝訴の判決を出した。本件は、通信社ブルームバーグの記者がPIP(業績改善プラン)の末に能力不足を口実に解雇された第一次解雇訴訟において、一審、二審ともに労働者が完全勝訴したにもかかわらず、会社側が当該労働者を復職させることなく再び解雇を強行した事件である。会社側は、第一次解雇訴訟の高裁判決前の和解協議の中で、労働者に対し記者職ではなく給与が半減する倉庫業務での復職を提案し、労働者側がこれを拒否するや、拒否したこと自体をもって第二次解雇を強行した。そして、第一次解雇訴訟について労働者側勝訴判決が確定した後に、その判決の効力を失わせるための「請求異議訴訟」を労働者に対して起こしてきたのが本裁判である。

(2)本訴訟において会社側は、労働者が倉庫業務への復職提案を拒否し、復職に関する会社との協議に応じないことをもって、「記者職以外の職種で勤務する意思のないことを明らかにし、記者以外の職で労務を提供することを明確に拒否した」として本件第二次解雇の理由とした。このことについて、地裁判決は、「被告(労働者)において、本件提案を応諾し、本件提案に係る復職条件を前提とする協議に応じる法律上の義務を負うとか、そうでなくても、協議に応じてしかるべきであったなどと解すべき根拠は乏しい」として、復職提案に応じる義務を否定した。そして、「本件提案に応じるか否かは、基本的には、被告(労働者)の自由な判断に委ねられるべきものであり、被告(労働者)がこれに応じない旨の意思を明らかにしたからといって、そのこと自体に何ら責められるべき点はない」などとした。その結論として、本件第二次解雇について、会社の主張する解雇理由に客観的合理性はなく無効であると断じた。


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