従業員の交通事故の民事責任

示談が成立し支払いが完了すれば、民事責任は果たされる

例えば、従業員が、前方不注意という過失により、第三者の車と接触し、第三者に怪我を負わせてしまった場合、第三者が被った損害を賠償する責任を負います。(民法第709条

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人損~休業補償・逸失利益と慰謝料

「人損」としてまず考えられるのは、怪我を治すための治療に要する費用(治療費や入院費、通院交通費、雑費等)です。

次に、被害者が怪我のために会社を休んだり、自営の仕事ができなかった場合の現実の収入減(休業損害)も損害となります。

さらに、怪我を負わされたことによる精神的苦痛も損害ですから、それを慰謝するための慰謝料も損害賠償に含まれます。

なお、被害者に後遺症があれば、そのことにより将来にわたって労働能力が低下し、収入が減り、失業等のおそれが増し、日常生活の不便等を被ることになるので、そのことによる「得べかりし利益」(逸失利益)と精神的苦痛(慰謝料)も損害賠償に含まれます。

物損

次に「物損」としては、壊れた車の修理費が損害となります。

もっとも、物理的に修理ができないか(物理的修理不能)、修理費が事故時の車の時価よりも高い場合(経済的修理不能)には、事故時の車の時価から売却代金を引いた差額が損害となります。

過失相殺

従業員が全面的に悪いわけではなく、被害者にも前方を注意せずに赤信号になる直前に交差点に入り込んだという過失があった場合、従業員と被害者がどの程度の責任をお互いに負うかという過失割合を決めなければなりません。

例えば、被害者の過失割合が3割だとすれば、従業員は被害者の損害の7割を賠償する義務を負うことになります(過失相殺)。

示談

以上は損害の例示であって、賠償すべき損害はそれに限りませんが、具体的にいくらをどのように支払うかは、被害者と話し合いをして決めることになります。

従業員が任意保険をつけていれば、保険会社の担当者が従業員に代わって、被害者と示談交渉をしてくれます(示談代行特約)。

とはいっても、従業員が何もしなくてもよいわけではありません。

加害者が誠意を見せないと言って、被害者が感情的になり、示談ができないケースはかなりあります。

従業員としては、被害者に対して、何らかの形で誠意を示しておく必要はあるでしょう。

示談が成立し、その支払いがなされれば、民事上の責任は果たされたことになります。

保険料の負担増

社用車で人身事故が生じた場合、会社で保険に加入していればその保険より人身事故の被害者に保険金が支払われますが、その場合、人身事故以後、会社が保険会社に支払うべき保険料は上昇するのが通常です。

この上昇分を当該社員に請求できるかですが、諸判例を見ると、この保険料の値上がりは、会社が事業を展開する場合に社会通念上負うべき責任と解される可能性が高いといえます。

したがって、少なくとも損害保険の値上がり分全額を当該社員に請求することは困難と思われます。

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