解雇予告手当について

解雇と同時に支払うのが原則

解雇予告手当は、労働基準法第11条のいう「労働の対価」たる「賃金」ではありませんから、基本的には、直接払い、通貨払いの原則は適用されません。

しかしながら、そう指導すべきであるという行政解釈が出されています。(昭和23.8.18 基収第2520号)

解雇予告手当の支払時期については、労働基準法第20条で規定する解雇予告ないし解雇予告手当の支払が行われていない解雇は、少なくとも解雇の通知後30日の期間を経過するか所定の解雇予告手当の支払がなされるまでは無効と解されることから、解雇と同時であるべきとされています(昭和23.3.17 基発第464号)。


労使とも解雇予告制度を知らずに休業した場合

使用者が法に無関心のために予告することなく労働者を解雇し、労働者もこれを有効であると思い、離職後相当日数を経過して他の事業所に勤務し、相当日数経過後その事実が判明するという場合があります。

この場合、その解雇の意思表示が「解雇予告」として有効と認められ、かつ、その意思表示があっために解雇予告期間中に労働者が休業した場合は、解雇が有効に成立するまでの期間に対して、休業手当を支払わなければならない、とされています。(昭和24.7.27 基収第1701号)


解雇予告手当の支払いを次の給料日まで延ばした場合

解雇予告手当は解雇予告と同時に払うことが原則です。

しかし、解雇予告手当の支払いを「来月の給料日」とするケースは少なくありません。

この場合、即日解雇とは認められないため、解雇予告手当に加えて休業手当などが生じます。


解雇予告手当と給料日の関係

30日の解雇予告期間満了前に給料日がある場合

この場合は給料日をもって解雇となるため、その間の各種保険を継続させ、また、当該従業員を出勤させないなら、使用者の責に帰すべき休業につき平均賃金の6割の休業手当(民法により全額請求も可能)を支払うことが必要となります。

30日の解雇予告期間満了後に給料日がある場合

この場合は、30日経過日に解雇となります。
解雇日まで出勤させないなら、やはりその日までの休業手当の支払いは必要です。


解雇を争う場合

解雇予告手当の受領を労働者が拒否した場合には、郵送などの手段により労働者あてに発送する方法、法務局に供託する方法も認められています。(昭和63.3.14 基発第150号)

返送されてきたときには、後日受け取りに来たときにはいつでも支払える状況にしておき、その旨を文書で通知する方法もあります。


解雇予告手当なしの場合の解雇効力発生

予告手当を支払わなかった場合の解雇の有効性については、複数の見解がありますが、判例では、「即時解雇としての効力は生じないが、使用者が即時解雇の固執するのでない限り、解雇通知から30日が経過したとき、または、通知後に予告手当を支払ったときから、解雇の効力が生じる」という見解をとっています。

行政解釈(昭和24.5.13 基収1483号)も同じ見解を採用しています。

細谷服装事件 最高裁 昭和35.3.11

(普通解雇の例)

原告側労働者Xは、洋服の製造・修理を行う被告側使用者Yに雇用されていた。

昭和24年8月、YはXに解雇を通知したが、労基法20条で義務づけられている予告期間もおかず予告手当も支払わなかった。

Xは翌年3月、未払い賃金と退職金の支払いを求めて提訴したが、同訴訟の口頭弁論終結日にYは未払い賃金と解雇予告手当を支払った。

第1審はXの請求を棄却したため、Xは控訴し、解雇の効力はYによる予告手当支払日まで生じていないと主張してその間の賃金の支払いも請求した。

第2審もXの請求を棄却した。

判決:労働者敗訴

使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の30日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払いをしたときは、そのいずれのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきである。


解雇予告後、労働者が怒ってその後欠勤した場合

上記により解雇は予告の30日後に成立するとされますが、労働者がその後会社を欠勤し、会社は予告手当を支払わなかった、という状況はしばしば起こります。

この間の給料については、会社は休業手当を払えば足りるとする行政解釈(昭和24.7.27 基収1701号)がある一方、賃金全額を支払う義務を負うとした判例(プラス資材賃金請求事件 東京地裁 昭和51.12.24)もあります。


労災休業中の解雇予告

労災休業期間中とその後30日間、産前産後休業期間中とその後30日間などについては、解雇ができないこととなっていますが、解雇予告については行うことができる(=制限期間終了直後の解雇となる)とされています。

参考:労災休業中の解雇や不利益取扱

なお、労働契約法第16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とあるように、解雇予告手当を出せば当然に解雇できるということはありませんので、注意が必要です。


ページの先頭へ