労災休業中の解雇・不利益取扱

労災休業中の解雇の原則

  • 労災休業中には原則として解雇はできない。
  • 労災申請は本人または遺族が行い、監督署が認定する。

解雇の時期に関する労基法上の制限

労働基準法第19条は、業務上の負傷・疾病により療養のために休業する期間およびその後30日間並びに産前産後休業中の期間およびその後30日間は、解雇してはならないとしています。

解雇制限は、労働者が業務上の負傷・疾病の場合の療養および産前・産後の休業を安心して行えるようにしたものです。

治療後の通院期間等は含まれない

業務上の負傷・疾病の場合の「療養」とは、労基法および労災保険法上の療養補償・休業補償の対象となる療養と同義であり、治癒後の通院等は含まれないとされています。(光洋運輸事件 名古屋地裁 平成1.7.28)

ただし、「療養のために休業する」の「休業」には、全部休業のみならず、一部休業も含まれるとされています。(大阪築港運輸事件 大阪地裁 平成2.8.31)

平和産業事件 神戸地裁 昭和47.8.21

休業とは、労働者の業務上の傷病を理由にそれが回復しない間に解雇されると新たな職場を見つけることが極めて困難であって労働者の生活を脅かすことを考えると、必ずしも傷病後解雇にいたるまで全部休業する必要ではなく、一部休業でも足りるというべきである。

解雇制限の例外

1. 業務上災害による療養の場合の解雇禁止につき、使用者が打切補償を行った場合 (労働基準法第81条、労災保険法第19条)
労基法第81条は、療養開始後3年を経過しても傷病が治癒しない場合に限り、平均賃金の1200日分の打切補償を支払うことを条件に、解雇制限を解くとしています。
その労働者が療養開始後3年経過時点で、傷病補償年金を受けている場合には、この打切補償は支払う必要がなく、解雇制限も解かれることになります。
ただし、打切補償を支払えば自動的に解雇の効力が発生するというのではありません。
別の業務に就かせるなどの方法により、解雇が回避できる場合は、解雇が認められないということもあります。
2. 「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合」
この場合は、労働基準監督署の認定が必要です。(労基法第19条)
会社がその労働者にどれだけ配慮を行っていたかなどが、判断のポイントとなっています。

大阪築港運輸事件 大阪地裁 平成2.8.31

業務災害により労働能力が低下した部下についての解雇問題。

(1)治療の便宜を図っていたこと、
(2)従業員数3人の零細企業であり、
(3)軽作業のみ従事させるなどの便宜は困難である、

と判断し、解雇は有効と判断した。

光洋運輸事件 名古屋地裁 平成1.7.28

業務上災害による負傷の症状固定後に職場復帰した者に対して、本来の業務に耐え得ないとして解雇された。

裁判所は、

(1)労働者の雇用継続のため軽作業に配転したこと、
(2)治療・リハビリのための欠勤、早退を許していた、
(3)労働者のためにそれなりの配慮を示してきたこと

などを理由に、解雇を有効と判断した。

懲戒解雇の場合も適用される

本条の制限は、労働者の責めに帰すべき事由による懲戒解雇の場合にも適用されます。

他方、労働者による任意退職、期間満了による退職、定年制による退職であって解雇にあたらないような実質的要件を備えたものには、制限は及ばないとされています。

解雇制限中に、解雇予告できるか

解雇制限期間直後に労働者を解雇するために、解雇制限期間中に解雇予告ができるか否かに関し、学説上は解雇制限をより手厚くする観点から、使用者は解雇制限期間内は解雇予告を含めて解雇の意思表示をなすことを一切禁じられているとする説が多いようです。

行政解釈・裁判例は、使用者は制限期間内に効力が生ずる解雇だけを禁じているだけだと解し、治療期間内になされた治癒後30日の経過をもって解雇する旨の予告解雇を解雇制限の違反でないとしています。(栄大事件 大阪地裁 平成4.6.1、小倉炭坑事件 福岡地裁小倉支判 昭和31.9.13、東洋特殊土木事件 水戸地竜ヶ崎支判 昭和55.1.18)

解雇予告後の労災

解雇予告を通告した後、解雇制限事由が発生した場合には、予告期間が満了しても解雇はできません。

この場合には、解雇制限期間の経過とともに解雇の効力が発生することになります。


労災申請との関係

労災手続きがとられていない場合であっても、業務上の負傷が原因で療養のために休業していることが明らかであれば、解雇は無効となります。

ただ、職業性疾病などで業務上か業務外かが明らかでない場合には、労災申請とともに労使での交渉に入ることになるでしょう。

この場合、労災が認定されれば、解雇はさかのぼって無効となります。


制限期間後の解雇

制限期間後の解雇への対応は、交渉が基本になります。

「障害者雇用」を法が義務付けている今日、労災を原因とする後遺症などによる労働能力不足による解雇の主張は、基本的に許されないと考えられます。

復職にあたっては配置転換や就業条件整備などの、企業の努力による解雇の回避が求められます。

「労働災害により障害を受けた労働者が就業を再開する場合、使用者はいわゆる訓練的・段階的な就労の機会を付与し、労働者の労働能力の回復・向上のための措置を講ずることが望ましい」とする裁判例もあります。(大阪築港運輸事件 大阪地裁 平成2.8.31)


権利行使を阻む規定は否定される

権利行使を抑制するような規定を作ることは、公序に反するとされます。

日本シェーリング事件 最高裁 平成1.12.14、大阪高裁 昭和58.8.31、大阪地裁 昭和56.3.30

賃上げ対象者の選定に際し、前年度の稼働率80%以上が条件であったところ、会社は、頸肩腕障害などで労災による休業・治療通院のための時間を「欠勤」として扱った。

第一審の判断

本件80%条項は、労基法及び公序良俗に反し、無効とした。

第二審の判断

一審を維持。

本件処分による経済的不利益は、将来的なものも含めるとかなり大きくなるため、権利行使をなるべく差し控えようとする機運を生じさせると考えられる。

使用者は、労働災害による労働者の損害の補償に努めるべきであり、賃金引下げ等により不利益な取扱いをしてはならないという義務を負う。

最高裁の判断

出勤率の低い者が経済的利益を得られないことは、違法ではない。ただし、労働者の権利行使を躊躇させるような場合は、これも公序良俗に反するものとして無効である。

80%の出勤率を求める条項は、従業員の産休、労災による休業などの不就労により、当事者が賃金引き上げの対象から除外されることになるので、権利行使に対する抑制力は強いといえる。したがって、公序に反し無効である。

ただし、賃金引き上げの根拠は別ものであるので、本件80%条項の一部無効は、賃上げの根拠条項には影響を及ぼさない。

原審差し戻し。


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