パートと正社員の労働条件格差

長期間反復更新を続けると、法律に抵触する可能性がある

しかしながら、裁判例には、次のように、「女性臨時社員の賃金は女性正社員の8割を下回ってはならない」とした例もあります(丸子警報機事件 長野地裁上田支部 平成8.3.15、なお、このケースでは、75%までの賃金是正で和解が成立)。

パートが契約更新を繰り返し、ほとんど正社員同様な状況に至った場合には、均等待遇の理念に違反する可能性も出てきます。

次の判決は、臨時社員と正社員との賃金格差が2割を超える場合、この可能性が生じると判断したものです。

丸子警報機事件 長野地裁上田支部 平成.8.3.15

警報機の製造販売会社に勤める女性臨時社員らが、勤務時間も勤務日数も仕事内容も正社員と変わりなく、短い者でも数年、長い者では25年以上働いているにもかかわらず、正社員とは異なる低い賃金体系に固定され賃金差別を受けたとして、会社に損害賠償を求めた。

地裁は、臨時社員の労働の内容は女性正社員と同一であると判断し、会社が正社員との顕著な賃金格差を維持拡大しつつ長期間の雇用を継続したことは、同一(価値)労働同一賃金の原則に反し、公序良俗として違法であるとした。

同等であるとの根拠としては、次のものがあげられている。

(1)臨時社員と同じライン作業に従事する女性正社員の業務は、従事する職種、作業の内容、勤務時間及び日数並びにいわゆるQCサークル活動への関与などすべてが同様であること。

(2)臨時社員の勤続年数は長い者では25年を超えており、長年働き続けるつもりで勤務している点でも、女性正社員と変わりない。

(3)女性臨時社員の採用の際にも、その契約更新においても、少なくとも採用される原告らの側においては、自己の身分について明確な認識を持ち難い状況にあった。

(4)原告ら臨時社員の提供する労働内容は、その外形面においても、被告への帰属意識という内面においても、被告会社の女性正社員と全く同一であるといえる。

このことから、臨時社員の賃金が正社員の8割以下になるときは裁量の範囲を超えるという判決となった。

8割という基準には明確な根拠が示されていないが、正社員と非正社員の仕事の内容がほとんど同じである場合に、正社員でないというだけで賃金に極端な差を設けることに歯止めをかけたものといえる。

パート格差是正に助成金…厚労省、4月実施方針

厚生労働省は20日、パート労働者と正社員の格差を是正するための制度を創設した企業に、助成金を支給する方針を固めた。4月から実施の予定だ。

(1)パート労働者に対して、正社員と対等の条件で、能力などに応じて昇格させる人事評価システムを設けた場合に、50万円を支給

(2)正社員並みでなくても、パート労働者独自の人事評価システムを設定すれば、30万円を支給

(3)パート労働者を正社員に転換したり、「短時間正社員制度」を新たに設けた場合に、それぞれ30万円を支給――などが柱

いずれも、新制度の適用を受けた社員が1人以上いる場合に支給される。研修・試験など正社員並みの教育訓練制度を定めて、実際に30人以上のパート労働者に対して実施した企業に対しても、30万円が支給される。

企業が、厚労省の指定法人に申請して、認められれば、助成金が支給される。

(Yomiuri-on-line 2006.3.20)

社員と仕事同じでもパート賃金格差 「7割以下」28%

正社員と同じように働くパート労働者に対し、正社員の賃金水準と比べ7割以下しか支払っていない企業が28%に達していることが、21世紀職業財団の実態調査(05年9月実施)で分かった。

同水準だった企業は、7分の1程度に過ぎなかった。

パート労働者は全国で約1,200万人に達し、年々増加。

責任ある仕事を任される傾向が進む一方で、待遇面に格差が残る現状が浮き彫りになった。

厚生労働省は03年に改正したパートタイム労働指針で、仕事や責任に差がなければ正社員と同等に処遇するよう企業に求めている。

また、同じ仕事をしている臨時社員などの賃金が、8割に達しない場合は公序良俗に反するという判例もあり、同省では「賃金を7割以下にしている企業は悪質。指導を強化したい」としている。

調査は指針改正後の実情を見るため、同省の要請で実施。

昨年の9月から10月に従業員5人以上の1万3,000事業所を対象にし、2,821事業所から回答を得た。

仕事内容が正社員とほぼ同じで、人事異動の頻度や責任の重さも同じような「正社員的パート」がいる事業所は35.7%。

管理職やグループリーダーなどに登用している事業所は10.5%あり、サービスや販売の職種で多かった。

「正社員的パート」がいるとした事業所のうち、賃金(基本給)が正社員と同水準としたのは14.5%で、賃金の決め方も同じとしたのは11.6%にとどまった。

賃金は「正社員の7割程度」が19.9%、「6割程度以下」が8.5%。

差をつける理由は「勤務時間の自由度が違う」「もともとの契約で労働者も納得している」などが目立った。

また、改正指針で同様に盛り込まれたパートから正社員への転換制度についても、導入企業は47.3%と半数に届かなかった。

(asahi.com 2006.2.20)


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