労働者性の裁判例

労働者とされた例

取締役等役員

会社取締役について、労基法、労災保険法においては、その法の目的に適合する如く労働者の意義を定むるのが妥当であり、取締と雖も、一労働者として実際労務に服する場合、各種の危機にさらされ災害を蒙ることがあるのは自己の会社であると否とを問わず、全く同一であり、ただそのものが自己の会社に勤務するの故をもってこれに対し労働者として労災保険法の保護を拒否するの理由はない。

(奈良地裁 昭和27.1.30)

副社長の肩書で採用された者もその使用関係の実態から本条の労働者と認められる。

(札幌地裁 昭和42.2.22)

従業員たる工場長が取締役に就任した場合、従業員たる地位と取締役の地位は併存する。

(名古屋地裁 昭和55.10.8)

会社の監査役であっても代表者に指揮命令に従って庶務会計の事務に従事し右労務の対価として報酬を支給されていた者は労働者として就業規則所定の退職金請求権を有する。

(京都地裁 昭和50.8.22)

芸能員

放送芸能員は、会社の企画及び指示に従って放送番組等に出演し、出演に際しては会社の定めた指揮者の指揮に従うことが義務付けられており、賃金の保障もあること等からみて本条の労働者と認めるべきである。

(広島地裁 昭和42.2.21)

テレビ会社と同社に派遣されている下請労働者の間には黙示の労働契約が成立している。

(佐賀地裁 昭和55.9.5)

キャバレーと優先出演契約を結んでいる楽団員は、キャバレーに使用される労働者。

(大阪高裁 昭和55.8.26)

キャバレーと優先出演契約をした楽団員との間に労働契約関係あり。

(神戸地裁尼崎支部 昭和53.7.27)

クラブ店内でクラブ指定の時間、ピアノ演奏の義務を負い、演奏業務の遂行にあってはクラブの一般的指揮監督下にあり、その演奏報酬が演奏という労働自体の対価としての性質を有する場合のクラブ専属ピアノ奏者の演奏契約は労働契約である。

(大阪地裁 昭和59.9.12)

集金員、検針員

ガス料金の集金業務を委託されたガス会社の集金員は労働者であって労基法の適用がある。

(鹿児島地裁 昭和48.8.8)

電力会社と委託検針員との間の契約が、形式的には準委託ないしは請負契約に類似のものであるとしても、実質的には右両者間には支配従属の関係があるから、右検針員は労基法上の労働者の地位を有する。

(福岡地裁小倉支部 昭和50.2.25)

嘱託員

技術の指導研究に従事することを職務内容とするいわゆる嘱託であって、直接上司の指揮命令に服することなく、むしろ相談役という立場にあたり、また遅刻、早退等によって賃金が減額されることはない等一般従業員と異なる待遇を受けている者であっても、週6日間朝9時から夕方4時まで勤務し、毎月一定の本給のほか時給の2割5分増の割合で計算した残業手当の支払を受けていた場合は労働者。

(最高裁 昭和37.5.18)

教員等

小学校教員が労働者に該当するか否かについて、小学校教員も従属的労働者であって労基法を適用すべき必要性において他の工場労働者と異なるところはない。

(京都地裁 昭和25.11.9)

大学の助手は労基法上の労働者。

(神戸地裁尼崎支部 昭和49.7.19)

接客婦

特殊飲食店の接客婦について、婦女の行う売淫行為は業者の監督の下に為される関係にあり、しかもそれが婦女の自分自身のために独立の営業主体として行うものでなくむしろ業者の営業目的に奉仕する労働と見られる部分をより多くもっていること、婦女の取得する稼高の一部は実質的には婦女の売淫行為に対する対価として業者から支払われる賃金であることにより、接客婦は労基法の労働者。

(松江地裁 昭和26.12.24、同旨東京高裁 昭和25.11.28)

その他

契約期間を3ヶ月とし、ビデオディスクの制作等の業務に従事する契約は、委託契約でなく雇用契約。

(東京地裁 昭和53.2.3)

韓国からの技術研修生も一般労働者と同じ作業に従事し、その対価として生活費の支払いを受けていたのであるから労基法上の労働者であり、会社は使用者である。

(大阪地裁 昭和47.12.18)

自己所有の馬および荷馬車を使用して他の運送業者の業務に従事して以来、月給、給料の名目で毎月1万円の支給を受けていた者は、右運送業者に使用される労働者。

(広島高裁 昭和37.4.16)

少年が受託者の施設外の一般民間事業上で就労する場合には、本法9条の要件を満たす限り、本法上の労働者である。労務提供の形態等を実質的に考慮して、使用従属関係が認められる場合には、たとえ契約の形式が請負委任等であっても、労基法上の労働契約と解す。

(福岡地裁小倉支部 昭和50.2.25)

実兄である養親の経営する製材工場で働く実弟である養子は労働者。

(宇都宮地裁 昭和54.7.19)


労働者でないとされた例

外務員

外務員は会社の顧客から株式その他の有価証券の売買又はその委託の媒介、取次又はその代理の注文を受けた場合、これを会社に通じて売買その他の証券取引を成立させるいわゆる外務行為に従事すべき義務を負担し、会社はこれに対する報酬として出来高に応じて賃金を支払う義務があると同時に、外務員がなした有価証券の売買委託を受理すべき義務を負担している場合は、この契約内容上雇傭契約ではなく、委任若しくは委任類似の契約であり、少なくとも労基法が適用されるべき性質のものではない。

(最高裁 昭和36.5.25)

商品取引契約の成立を勧誘し、一定割合の委託手数料を受ける外務員契約は雇用契約でない。

(大阪地裁 昭和53.12.25)

業務委託

謄写印刷・タイプ印刷を業とする会社の筆耕。当社の業務に従事していた者の会社との筆耕に関する契約の法的性格は雇用契約ではない。

(東京地裁 昭和48.2.6)

自己所有のトラックを使用し、自己の雇用し給料を支払っている従業員を使い、独自の商号も使用し、経費等を自己負担のうえ、会社従業員の給料よりかなり高額の出来高制による支給金のみを受けている者の会社に対する関係は請負契約。

(大阪地裁 昭和59.6.29)

傭船者と船長との間に黙示的にも雇用契約関係があるとは認められない。

(大阪地裁 昭和51.12.9)

派遣

労働者供給企業から派遣された労働者と派遣先との間に単なる指揮命令関係があるのみでは、雇用関係は成立しない。

(大阪地裁 昭和51.6.17)

取締等役員

取締役就任とともに退職金を受領したことにより労働契約は合意解約されたものと解すべきであり、取締役就任後も職務内容が同一であっても、人事考課、勤怠管理を受けなくなって、使用従属関係はなくなった。

(東京地裁 昭和62.4.17)

取締役が被告会社の退職金規程・退職年金規程に言う従業員に該当しないとして従業員としての退職金支払い請求が否定された。

(東京地裁 平成8.3.26)

ホステス

ホステスとナイトクラブとの間の契約は、ホステスがナイトクラブ内で、ナイトクラブと共同し、又は独自の立場で遊興飲食業を営むという色彩が濃く、通常の雇用契約とは著しく異なる。

(東京地裁 平成3.6.3)

その他

修道会聖心布教会と修道者との間に雇用契約ないしこれに準ずる契約はない。

(名古屋地裁 昭和53.5.19)


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