派遣社員と労働災害・健康診断

労災保険は派遣元が加入する

労働者を一人でも雇用する事業主は、労災保険への加入が義務付けられています。

派遣労働者の場合も、業務上の傷病であれば、労災保険から療養費や休業補償を受けることができます。通勤災害も適用されます。

関連事項:労災保険の補償・給付の詳細

労災に加入するのは派遣元です。(昭和61.6.30 基発383号)

労災保険への加入は、事業主や労働者の意思にかかわらず、労働者を一人でも雇用するすべての事業主に義務付けられています。

労災保険の保険料は、事業主だけが負担することになっており、労働者は負担する必要はありません。

派遣労働者が労働災害に遭ったときには、労働者本人又は遺族は速やかに派遣元に連絡して、労災保険給付の手続きを行ないます。

派遣元が協力してくれない場合であっても、労災保険給付の請求を行うのは本人・遺族ですから、直接、労働基準監督署へ申し出ることが可能です。

派遣元は、直接派遣労働者を指揮命令しているわけではありませんので、災害の原因および災害の発生等について、具体的な状況は確認することができません。

そこで、この点について通達(昭和61.6.30 基発383号)は、保険給付請求書の事業主の証明は派遣元事業主が行うが、この証明の根拠を明らかにさせるため、災害発生の日時、災害の原因および災害の発生状況に関して派遣先事業主が作成した文書を添付して請求することとしています。

そして、そのような添付文書を得られない場合は、派遣元を管轄する労働基準監督署は、安全衛生関係法令の規定に基づいて、派遣先事業主の所轄する労働基準監督署に私傷病報告書を提出し、また、災害調査も当該労働基準監督署で実施されることから、派遣先を管轄する労働基準監督署へ照会することとしています。

つまり、派遣労働者の労災保険請求手続は、派遣元が証明を、派遣先が報告を行うという役割分担となっているのです。


認定要件

労働災害であると認定されるためには、次の要件を満たしていることが必要です。

業務遂行性

労働者が労働契約に基づいた事業主の支配下にある状態(作業中だけではなく、作業の準備行為・後始末行為、休憩時間中、出張中などの場合にも「業務」とみなします)において発生した負傷・疾病等であること。

業務起因性

業務と傷病等との間に一定の因果関係が存在すること。

業務が原因で発症した疾病であるかどうかの判断が難しいものもあるので、業務上の疾病の範囲は法律で定められています。(労基法施行規則35条

例えば、VDT作業に長期間従事することで、眼精疲労や腰痛、肩こり、腱鞘炎などになることがありますが、これらの疾患が上記の要件を満たす場合には、労働災害の補償を受けることができます。

たとえ、傷病が業務に起因するものでなかったとしても、健康保険から傷病手当を受けることができる場合もあります。


責任は派遣先が負う

安全衛生法で義務づけられている事項については、作業環境の重要な要素である設備などの設置・管理、業務遂行上の具体的指揮命令に関係することから、原則として派遣先の事業主が義務を負います。

実際に派遣労働者が派遣中に労働災害に被災した場合は、派遣元・派遣先の事業者双方がそれぞれ労働者死傷病報告を作成し、所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。(労働安全衛生規則97条)

派遣先では、労働災害の発生原因を調査し、再発防止対策を講じる必要があります。(労働安全衛生法10条1項4号)

派遣元では、被災した労働者が災害保険給付の手続を行うために必要な助力を行うことになります。(労災保険法施行規則23条)

派遣社員の長男の事故死 両親が賠償を求めて提訴

派遣社員の長男が派遣先の工場で作業中に死亡したのは、工場側が安全対策を怠ったためだとして、両親が9日、工場と人材派遣会社に1億4,200万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

派遣社員が事故に遭った場合、派遣元や派遣先はどう責任を負うべきなのか――。派遣社員となる若者が増える中、安全への取り組みが遅れている実態が浮かび上がっている。

訴えたのは山梨県に住む飯窪慎三さん(56)と可代美さん(53)。

長男の修平さんは神奈川県相模原市の人材派遣会社に雇用され、03年7月29日から同市内の製缶工場に派遣された。脚立の上に立ち、ベルトコンベヤーで流れてくる缶をチェックする仕事だった。

4日後の8月2日正午過ぎ、作業中に脚立から落ち、機械に頭を打って倒れた。22歳の誕生日の翌日だった。病院に運ばれたが意識は戻らず、11月8日に亡くなった。

「なぜ息子は死ななければならなかったのか」

両親は工場に、じかに説明を求めた。

だが、話し合いの窓口になったのは雇用関係のある派遣会社。工場の業務に詳しくなく、納得のいく説明は得られなかった。

今年3月、派遣社員の労災自殺をめぐる訴訟で、派遣先の責任を認める判決が東京地裁で出た。両親はこの裁判を知り、原告側代理人だった川人博弁護士に相談。提訴を決断した。

慎三さんは「息子は前日の電話で『落ちそうで怖い』と話していた。同じような事故が起きないよう、派遣先がしっかりと安全管理に取り組むよう訴えたい」と話す。

工場は「訴状を見ていないのでコメントできない」。人材派遣会社は「事故は残念だが、できることはやってきたつもりだ。弁護士と相談して対応する」としている。

◇      ◇

厚生労働省によると、派遣労働者の数は94年からの10年間で約58万人から約236万人と4倍以上に増えている。

安全面などから禁止されていた製造業への派遣も昨春、解禁され、ますます増える見通しだ。

一方で、労働環境の整備は十分とは言えないようだ。

今回の事故について、相模原労働基準監督署は労災と認め、「脚立を使わない」などの安全指導をしたが、指導先は工場ではなく、派遣会社だった。派遣会社は両親に示談を申し入れたが、工場は賠償に応じる構えは見せていない。

川人弁護士によると、派遣社員が労災にあった場合、派遣元が示談で処理してしまうことも多く、「派遣先の責任逃れを許す状況になっている」という。

厚労省の検討会は04年、「就業形態の多様化、雇用の流動化により、安全配慮義務を負うべき範囲があいまいになっている」と指摘する報告書をまとめた。同省労働基準局は、派遣社員の労働環境の実態を調べる準備を進めている。

(asahi,com 2005.11.9)


製造業務専門の派遣元・派遣先責任者の選任

製造業への派遣労働者受け入れも可能となりましたが、労働災害等の発生を予防するため、派遣元、派遣先には、予防措置を講ずる責任が課せられています。

派遣元の責任

製造業務に派遣する派遣元は、当該派遣労働者を専門に担当する派遣元責任者を選任しなければなりません。

原則として、製造業務に派遣する派遣労働者が100人以下の場合は1人以上、100人を超え200人以下の場合は2人以上の者を選任し、以下同様に100人当たり1人以上を追加する必要があります。(労働者派遣法第36条、労働者派遣法施行規則第29条第3号)

派遣先の責任

製造業務に50人を超える派遣労働者を従事させる派遣先は、当該派遣労働者を専門に担当する派遣先責任者を選任しなければなりません。

原則として、製造業務に従事する派遣労働者が50人を超え100人以下の場合は1人以上、100人を超え200人以下の場合は2人以上の者を選任し、以下同様に100人当たり1人以上を追加する必要があります。(労働者派遣法第41条、労働者派遣法施行規則第34条第3号)


派遣労働者の健康診断

派遣労働者の健康診断の必要性

派遣労働者の健康を保持増進するために、派遣元は、派遣労働者を雇い入れるときや継続雇用する場合には健康診断を行うこと、派遣先の業務が危険有害業務である場合は、派遣先が危険有害業務に関する特別な健康診断を行うこと等が定められています。

同時に、派遣労働者は、派遣元・派遣先その他医療機関で実施する健康診断を受診することが義務付けられています。(労働安全衛生法66条1項、2項、5項)

一般健康診断については派遣元、特殊健康診断については派遣先が実施義務を負います。

派遣先が健康診断を実施したときは、規則に基づいた健康診断個人票を作成し、写しを派遣元事業者に送付しなければなりません。


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