「雇止め法理」の法定化


平成24年8月10日に「労働契約法の一部を改正する法律」が施行され、有期労働契約の労働者に対する雇止めのルールが定められました。

本来、有期労働契約は契約期間の満了により雇用が終了するのですが、労働者保護の観点から、過去の最高裁判例により、一定の場合にこれを無効とするルール(雇止め法理)が確立しています。今回の法改正は、雇止め法理の内容や適用範囲を変更することなく、労働契約法に条文化されたものです。

有期労働契約の雇止めに関して、以下のいずれかの条件に該当する場合は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めが認められません。そして、従前と同一の労働条件で有期労働契約が更新されることになります。

  • 有期労働契約の反復更新により、無期労働契約と実質的に異ならない状態で存続している場合
  • 有期労働契約の期間満了後も、契約が更新されるものと期待することに合理性があると認められる場合

上記の具体例として、下記に該当する場合には実質的に無期契約と異ならない、あるいは労働者の雇用継続への期待を持たせる合理性を肯定される可能性が高い(雇止めを行うことに合理性がない)とされます。

  • 過去の更新時の手続きがルーズ、あるいは形式的に行われてきたこと
  • 多数回の労働契約の反復更新を繰り返してきたこと
  • 長期間の雇用継続があること
  • 労働者に対する雇用継続の期待を抱かせるような言動・制度が存在すること
  • 正社員と同等の職務を担当していること
  • 過去に雇い止めの事例が存在しないこと など

その一方、下記の場合には、実質的に無期契約と異ならない、あるいは雇用継続への期待の合理性を否定される可能性がある(雇止めを行うことに合理性がある)とされます。

  • 臨時的業務での雇用を目的とした一時的雇用であること
  • 派遣元と派遣労働者との有期労働契約であること
  • 定年後の再雇用であること
  • 温情や縁故による一時的雇用であること
  • 学生向けであることが明確なアルバイト
  • 契約を更新しないことや更新の上限を当初から明示していたこと
  • 操業開始後間がないために必要人員の予測がつかないこと など

なお、このルールが適用されるためには、使用者からの雇止めの意思表示に対して、労働者からの有期労働契約の更新の申込みが必要となります。つまり、上記の事実をもって直ちに契約が更新されたとみなされることはなく、労働者からの申込みによって初めて適用されます。また、契約期間満了後でも遅滞なく申込みをすれば更新の対象となります。

更新の申込みについては、使用者による雇止めの意思表示に対して、「嫌だ、困る」と言う等、何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるもので構わないとされています。

「雇止め」に関する法的根拠ができたことにより、今後、紛争が増加することが考えられます。有期労働契約の労働者を雇用する企業においては、今後は正社員との職務の区分を明確にすること、使用者が労働者に対して日頃から雇用継続を期待させるような言動を行わないよう注意することなどが不可欠となります。


有期労働契約の雇止めに関する裁判例の傾向と判断要素

以下のような条件が、裁判所の結論を左右する判断材料となります。

業務の客観的内容

従事する仕事の種類・内容・勤務の形態(業務内容の恒常性・臨時性、業務内容についての正社員との同一性の有無等)

契約上の地位の性格

地位の基幹性・臨時性(嘱託・非常勤講師等)

労働条件についての正社員との同一性の有無

当事者の主観的態様

継続雇用を期待させる当事者の言動・認識の有無・程度等(採用に際しての雇用契約の期間や、更新なし継続雇用の見込み等についての雇主側からの説明等)

更新の手続・実態

契約更新の状況(反復更新の有無・回数、勤続年数等)

契約更新時における手続等の厳格性の程度(更新手続の有無、更新の可否の判断方法等)

他の労働者の更新状況

同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等

その他

有期労働契約を締結した経緯

勤続年数・年齢等の上限の設定等


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