便宜供与

経費援助

組織運営のため使用者から経費援助を受ける労働組合は、労組法上の労働組合としては認められないことになります。

労働組合の運営のための経費とは、組合専従者の給料(安田生命保険事件 東京地裁 平成4.5.29)、組合大会等の諸経費・旅費・その他労働組合の諸活動に必要なあらゆる経費をいいます。

ただし、次の項目については経費援助とはされません。

経費援助とされない場合

(1) 労働時間内の有給での協議・交渉
(2) 厚生資金または福利基金に関する寄付
(3) 最小限の広さの事務所の供与

この経費援助の範囲については、組合の自主性を損なわないかどうかを基準に判断されるのが適当で、組合事務所の光熱費や有給の組合休暇などは労組法が禁止する経費援助には当たらないとする説が有力です。

ただし、使用者側が組合に対して便宜供与を与える義務はなく、労使間の合意の上に成立するものとされています。

和歌山県教職員組合事件 最高裁 昭和40.7.14、
三菱重工業事件 最高裁 昭和48.11.8

組合専従は、憲法28条の保障する勤労者の団結権等に内在しあるいはそれから当然に派生する労働組合の権利ではなく、使用者が従業員の在籍専従を認めるか否かはその自由である。

日産自動車事件 最高裁 昭和62.5.8

(組合事務所の貸与について)労働組合による企業の物的施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきであり、使用者は労働組合に対して、当然に企業施設の一部を組合事務所等として貸与する義務を負うものではなく、貸与するか否かは原則として使用者の自由である。

太陽自動車・北海道交通(便宜供与廃止等)事件 東京地裁 平成17.8.29

各種便宜供与(会社会議室使用、チェックオフ、組合掲示板等の貸与、組合事務所の賃料肩代わり、在籍専従者の社会保険料負担)の中止・廃止措置が、不法行為に該当するとされ、200万円の支払が命じられた。

裁判所は、便宜供与が慣行として定着している場合においては、会社に便宜供与の廃止を必要とする合理的な理由が存在し、かつ、廃止に当たっては、労働組合の了解を得るとか、了解が無理な場合には労働組合側に不測の混乱を生じさせないよう準備のための適当な猶予期間を与えるなど相当な配慮をする必要があり、このような配慮をすることなく、組合活動に対する報復目的、対抗手段としてされた便宜供与廃止措置は違法と解するのが相当である、とした。


組合事務所と施設管理権

労働組合法第7条は、「最小限の広さの事務所の供与」は不当労働行為にならないとしています。

ただし、供与は労使の合意に基づくものなので、供与しないこと自体は不当労働行為とは解されません。

使用者がその施設を組合に貸与した場合、組合事務所の占有権は組合にあり、使用者は組合の承諾なしに組合事務所内に立ち入ることができません。

ただし、施設管理上緊急やむを得ない場合には組合の承諾を得ることなく立ち入ることができるとした判例もあります。(新潟放送事件 新潟地裁 昭和53.5.12)

なお、労働組合が分裂して組合員数がきわめて少数となった場合には、当該組合の法律的同一性が失われ、組合事務所の使用関係が消滅するとした裁判例があります。(興国人絹パルプ事件 福岡高裁 昭和41.12.23)

日本アイ・ビー・エム事件 東京都労働委員会 平成13.3.27

労働組合が労働委員会に申し立てをしたが、以下の点からその資格が問題とされた。

(1)中央執行委員15名中5名の組合活動による不就労時間は1年間で1330時間、賃金換算で410万円

(2)組合事務所は会社が借り上げ、保証金1300万円のほか、賃料・光熱費で年間840万円を会社が負担。

会社は、こうした事情から、労働委員会の手続きに参与する資格を有しないと主張。

これに対し、委員会は「会社が、自らの判断で支部と合意し、支部組合員の就業時間内の組合活動について賃金を控除しないこと及び組合事務所を貸与することを認めておきながら、後日にいたってそれが不適当、違法な行為であり、労働組合として自主性が失われるから、申立て資格がないと主張するのは、許されないばかりでなく、本件支部の申立て資格については、申立人も主張するとおり、既に当委員会平成3年(不)第59号事件において、これを認めているところであって、その判断を変更すべき特段の事情があるとは認められない本件においては会社の主張を採用することはできない」とした。

なお、組合と会社が確認書により取り決めた範囲外の組合員に対するチェックオフの拒否については、会社側の支配介入には当たらないとされた。


掲示板の貸与

労使間の合意に基づいて掲示板が貸与されることがあります。

掲示された文書が会社の信用や名誉を毀損する内容であったり、虚偽の内容のものであれば、使用者は組合に対し、その撤去を要求することが可能です 。(日本チバガイギー事件 最高裁 平成1.1.19)

組合がこれを放置していた場合で、緊急性が認められるなら、当該文書は使用者自らが撤去できるとされています。


労働協約の例 (施設利用)


第○条(会社施設の利用)

組合が、組合活動のため会社の土地、社屋、その他のものを使用するときは、あらかじめ会社の承認を得るものとする。

2 前項によって、会社が特に出費を要したときは組合はその費用を負担する。


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