従業員の足止め策としての研修

労働契約不履行に対する違約金の定めは違法

労働基準法第16条は、「使用者は、労働契約の不履行について、違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない」としています。

ちなみに労基法第16条違反は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金です。(労働基準法第119条

労基法第16条が使用者に対して労働契約について違約金を定め、又は損害賠償を予定する契約を行うことを禁止している趣旨は、このような契約を許せば、労働者は違約金又は損害賠償予定額を支払わされることをおそれ、自由意思に反して労働関係を強制されることになりかねないので、このような契約を禁止し、そうした事態が生ずることをあらかじめ防止することにあります。

かつては芸娼妓契約、徒弟契約等の身分拘束を伴う雇用制度があり、問題となっていました。

今日では、かつての前近代的な違約金契約は影を潜めていますが、新しい形態の微妙な契約の効力が賠償予定の禁止に照らして問題になっています。

研修費用の労働者負担

その一つが、従業員の足止め策として行われる研修終了後一定期間就労を義務づけ、その期間内に退職した場合には研修費用を返還するという誓約書を取るもので、この誓約書の提出が退職の自由を不当に奪うものではないかが問題となります。

専門的な技術や能力を有する人材を採用するのではなく、採用後に研修によって技術や能力を育成していく日本的雇用慣行の下では、研修期間は長く費用もかかります。

手間隙をかけて育成した人材が簡単に転職したり引き抜かれては、会社としてたまったものではないからです。

労働契約の不履行 契約の定めを満たさない契約の不履行・履行遅滞
違約金 労働契約に基づく労働義務を労働者が履行しない場合に労働者本人若しくは親権者又は身元保証人の義務として課せられるもので、労働義務不履行があれば、それによる損害発生の有無にかかわらず、使用者が約定の違約金を取り立てることができる旨を定めたもの
賠償額を予定する契約 まだ損害を与える事実が発生していないにもかかわらず、そのような場合を想定して「100万円」「200万円」などといった賠償金額をあらかじめ取り決めること

留学費用等の援助が純然たる金銭貸借契約として定められた場合、すなわち、その返還が労働契約の履行・不履行と無関係に定められ、帰国後自社で労働した場合(勤務継続したとき)は返還義務を免除するということが定められているにすぎないと認められる場合は、労基法第16条には抵触しないと解されています。


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