兼務役員

兼務役員で指揮命令下にあれば労働者

もっとも、工場長や支店長あるいは部長などがこれらの役員を兼ねる場合(使用人兼務役員といわれたりします)のように役員でも代表取締役の指揮命令を受けて会社業務に従事している場合には、その範囲では労働者であり労働法の適用を受けます。

この場合、報酬は役員報酬と賃金とに分かれると考えられますし、役員を解任されたからといって当然に解雇されるというわけではありません。

わたしたちが、「管理職」という場合は、このような役員を筆頭に社内で人事や業務などで使用者の代理として管理・監督の職務を遂行する地位にある者を指していることが多いと考えられます。

そうであるとすると、「管理職」は労働者であるということができます。

法人の重役で業務執行権又は代表権を持たない者が、工場長、部長の職にあっって賃金を受ける場合は、その限りにおいて本条(労働基準法第9条)の労働者である。

(昭和23.3.17 基発第461号)


共同経営事業の出資者であっても当該組合又は法人との間に使用従属関係があり賃金を受けて働いている場合には本条(労働基準法第9条)の労働者である。

(昭和23.3.24 基発第498号)

「管理職」が労働法上の労働者であるとしても、「管理職」は、労働者や業務を管理・監督する職務を担っていることから、通常の労働者の場合とは別に取り扱われる場合があります。

一般に管理職を管理監督者として認識していることが多く見られますが、管理監督者についての行政解釈では、「名称にとらわれず、実態に即して判断すべきもの」としていて、具体的には、次の条件をすべて満たす者とされています。

(1) 労務管理方針の決定に参画し、あるいは労務管理上の指揮権限を有し、経営者と一体的な立場にあること
(2) 労働時間、休憩、休日などに関する規制の枠を越えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、自己の勤務について自由裁量の権限を持ち、出社退社について厳格な制限を加え難いような地位にあること
(3) 賃金などの待遇面で一般労働者に比べ優遇措置が講じられていること

(3)については、基本給や役付手当などで、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナスなどの支給率などで一般労働者に比べ優遇措置がなされているか否かなどから判断されることになります。

役職名が部長、支店長、店長などの場合でも上記の3つの条件に該当しなければ、管理監督者とは言えず、労働時間について、労働基準法の規制を受けなければならないことになります。

大阪中央労基署長(おかざき)事件 大阪地裁 平成15.10.29

会社専務が、営業車で北陸へ出張に出かけたところ、宿泊先のホテルにて急性循環不全で死亡。

家族は遺族補償を請求したが、労基署は労働者ではないとして、不支給決定した。

裁判所の判断

専務取締役であった被災者は「労働者」に該当する。

専務就任までの18年間は営業担当の労働者であったことが明かだが、就任後も業務内容に格別変化がない。小売業を回って注文を取る、商品の出荷作業に従事する、事務所等の清掃も行うことがあり、他の従業員同様に社長から叱責を受けることもあった。

これを否定し、労災保険法の適用がないことを理由とした本件遺族補償給付等の不支給処分は違法。

裁判所としては、業務起因性の有無について認定、判断を留保し、本件処分を違法として取り消す。

エス・エヌ・ケー厚生年金基金事件 大阪地裁 平成15.10.23

従業員兼役員は基金規約の「役員」に該当するとして、基金加入員資格を有しない。

テラ・マトリックス事件 東京地裁 平成15.10.20

原告らは、取締役就任後も従業員として勤務し、職務内容も従業員の時と、さほど変わりはない。

被告が支払うべき報酬を賃金として扱い、役員報酬を支給していなかったことからすれば、従業員としての地位を兼務していたと評価することができ、出張旅費等の立替金等請求は認容できる。

興栄社事件 最高裁 平成7.2.9

専務取締役の名称で会社代表者の業務を代行していた者について、会社代表者の指揮命令の下に労務を提供していたにとどまるものであり、支払いを受けていた「給料」はその対償として支払われたものであって、従業員の退職金規程が適用される。

ゾンネボード事件 東京地裁八王子支部 平成5.2.18

役職員に対する賃金支払請求事件。

職務内容、経営全般の意思決定への関与からみて名目的な取締役であり、得ていた報酬は労務提供に対する対償(賃金)であるとした。

ケー・アンド・エル事件 静岡地裁 昭和53.3.28 ほか

その判断の基準として労務管理方針の決定に参画し、あるいは労務管理上の指揮権限を有し、経営者と一体的な立場にあること、自己の勤務について自由裁量の権限を持ち出社退社について厳格な制限を加え難いような地位にあること、その地位に対して何らかの特別給与が支払われていること等を考慮して、具体的な勤務の実態に即して決すべきである。


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