内定取消の注意事項

内定取消にあたって経営者が留意すべきこと

内定取消時のチェックポイント

  • 採用内定の取り消しは、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できる事由がある場合に限られる。
  • 採用内定の取り消しに対しては、損害賠償請求と従業員たる地位の確認の請求訴訟ができる。
  • 経営上の理由で自宅待機をさせる場合には、休業手当の支払いが必要である。

採用内定の法律的性質(=解約権留保付の就労始期付労働契約)

判例・通説は、始期付解約権留保付労働契約成立説をとっています。

企業による労働者の募集は労働契約の申込みの誘因であり、これに対する求職者(学生)の応募または採用試験の受験は労働者による契約の申込みです。

そして、企業からの採用内定通知の発信が使用者による契約の承諾であり、これによって両者に解約権留保付き労働契約が成立します。

この契約は、始期付き(入社予定日を就労の始期とする)であり、かつ解約権留保付きです。

わかりやすくいえば、採用内定通知書または誓約書に記載されている採用内定取り消し事由が生じたときには解約できる旨の合意が含まれており、また卒業できなかった場合も当然に解約できるものということです。

一般的には、次のような場合、内定取消が正当化だとされています。

(1) 条件付き労働契約の場合の条件の成就または不成就
学校を卒業できなかった場合、入社の際に必要と認められた免許・資格が取得できなかった場合等
(2) 採用内定取消事由を約束している場合のその取消事由の発生
健康を著しく害した場合、履歴書や誓約書などに虚偽の記載がありその内容や程度が採否判断にとって重大なものである場合等
(3) その他の不適格事由の発生
犯罪行為を犯しての逮捕、起訴等

したがって、文書による採用内定通知を受け、入社同意書や誓約書等を提出した採用内定のような場合には、これを取消すことは労働契約の解約(留保された解約権の行使)すなわち解雇となります。

仮に解雇になると労働基準法第20条により30日前の(内定取消し)予告あるいは30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う義務が生じてくるとともに、内定者を不適格等とする客観的に合理的な理由がないと判断された場合、当該解雇は解雇権の濫用となり無効とされるばかりか、損害賠償の対象となります。

実務的にはこれに準ずる取り扱いをすることになると考えられます。

わいわいランド(解雇・控訴)事件 大阪高裁 平成13.3.6

託児施設運営の業務委託契約の成立を見込んで保母を勧誘、確保を図ったものの、業務が受託できなかったため勧誘した原告らに解約の解除を通告。

裁判所は、原告が会社を信頼したことによって発生する損害を抑止するために、雇用の実現、継続に関する客観的な事情を説明する義務があったと判断し、これを怠ったことによる損害賠償・慰謝料請求を容認した。

ただし、採用が決定したからといって、まだ、就労日が到来していない者は、労基法が適用される労働者とは見なされません。

電電公社近畿電通局事件 昭和48.10.29 大阪高裁

採用内定者である被控訴人は、いまだ具体的な終了義務を負うことなく、賃金も支払われていないのであるから、労働基準法の適用を受けない。

解雇予告が適用されないという考え方

労基法は「試の使用期間中の者」については、引き続き14日をこえて使用されるに至った場合に、初めて解雇予告の保護を受ける(法第21条)としています。

これに照らせば、採用内定の場合には、解雇予告の適用はないと考えられます。

また、留年や落第が判明した場合には取り消しの合理性が認められ、このような場合にも解雇予告が必要とする合理性はないと考えられます。

すなわち、労働基準法第20条は、現実の就労ないし労働契約上の権利義務の具体化する入社日以降についてのみ適用があると考えられます。


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