試用期間と解雇
試用期間中の解雇の原則
(1) | 試用期間中の解雇は、試用期間を設定した趣旨に照らして相当である場合のみ、許される。従って、試用期間中であるからといって、解雇は自由にはできない。 |
(2) | 採用後14日を経過している場合は、法律で定められた解雇予告等の手続きが必要である。 |
(3) | 試用期間の延長は、契約の重要な要素の変更であって、原則として労働者の同意なしに一方的に行うことは許されない。 |
労働者を採用する場合、採用試験や面接だけでは労働者の職業能力、適性を把握しがたいために、一定期間を試用期間として現実に就労させたうえで本採用を行うことが多くの企業で行われています。
この取扱いは、「使用者と試用期間中の労働者との間の契約関係は労働契約関係そのものにほかならないが、本採用に適しないと判断された場合には解雇しうるように解雇権が留保された労働契約である」(三菱樹脂事件 最高裁 昭和48.12.12)とされます。
試用期間中の解雇権
試用期間中は、労働者の職業能力・適性の有無の判断により本採用するかしないかの自由が使用者に留保されています。
通説・判例では、留保解約権に基づく解雇は、通常の解雇よりも広い範囲において解雇の自由を認めています。
これは、労働者としての地位が不安定なまま雇用が継続することを意味し、試用期間の設定が解雇制限法理を回避ないし緩和する機能を持っていることを忘れてはならないでしょう。
ただし、試用期間中といえども、使用者との間に労働契約が成立している点においては、本採用の場合と変わりがありません。ただ解約権が留保されているにすぎません。
したがって、留保解約権の行使は、解約権行使の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認される場合にのみ許されます。
試用期間中の解雇も、試用期間の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由が必要とされるのです。
留保解約権の行使が許される場合
試用期間の法的な性格が解約権留保付労働契約となれば、試用期間中の解雇や本採用拒否は留保解約権の行使となり、留保解約権がどのような場合に行使できるのかが問題になります。
試用期間は原則的には、従業員としての適格性判断のための観察期間(および従業員としての能力ないし技能の養成期間)ですから、試用期間において留保される解約権は試用期間中における勤務態度や能力による従業員としての適格性判断に基づいて行使されることが必要となります。
使用者は、適格性判断の具体的な根拠(勤務成績・態度の不良)を示す必要があり、その判断の妥当性が問題となります。
換言すれば、企業者が採用決定後に調査した結果によって、または試用期間中の勤務状態等によって、当初知らなかった(または知ることが期待できなかった)ような事実が判明した場合で、そのような事実に照らしたならば、その者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、解約留保権の趣旨・目的に照らして相当であると認められる場合には、解約権を行使することができるといえるのです。
簡易な作業ミスにより解雇することは解雇権の濫用として認められるものではなく、解雇権を行使するためには、作業ミスの程度・回数及び作業ミスを少なくするための事業主としての指導や措置等を含め、客観的で合理的な理由が求められます。
もちろん「うちの会社に向いていない」といった漠然とした理由では解雇はできません。
レキオス航空事件 東京地裁 平成15.11.28
勤務態度等を理由とする試用期間中の解雇が、社員の伝聞に基づくもので、客観的証拠はないため、社会通念上相当として是認されず、権利濫用として無効とされた。
三菱樹脂事件 最高裁 昭和48.12.12
試用期間中の解雇について、試用期間中の解雇は、解約権を留保した趣旨から、採用時にはわからなかったが、試用期間中の勤務状態等から判断して、その者を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが、試用期間を設定した趣旨・目的に照らし、客観的に相当である場合にのみ許される。
判例のいう「解約権留保付労働契約」という意味は、試用期間中の労働者について、正社員としてやっていける見込みがないという場合には解約する権利を使用者に認めているものの、使用者との間に労働契約が成立している点では、本採用後の労働者と変わりがないということです。
本採用拒否にどのような理由が求められるか
一般的事由
一般的な採用拒否理由として掲げられた「能力不足・健康不良・経歴偽証」等が当たります。
勤務成績不良
出勤状況等については、一般の従業員より厳格に適用していいとされています。
関連事項:職務遂行能力の欠如の解雇→
業務適正不良
勤務態度や接客態度が悪く、上司からの注意を受けても改めようとしなかったなどが該当します。
業務不適格等を理由に、解雇を有効とした判例もありますが、一方では、「試用期間中の者に、若干責められるべき事実があったとしても、会社には、教育的見地から合理的範囲内で、その矯正・教育に尽くすべき義務がある」としたものもあり、事案によって判断が分かれています。
試用期間を一種の「教育期間」だと想定するならば、その期間内にいかなる指導育成がなされたかが、結果としての「解雇」の正当性を判断する材料になるとも考えられます。
問題はあったものの、誰も一度も注意しないまま突然解雇するというのでは、解雇自体の適切さが疑われます。
関連事項:職務の専門性と解雇→
協調性の有無
試用期間中は、特に協調性の有無が重要なポイントとなります。
関連事項:協調性と解雇→
就業規則による明示
試用期間を設けるかどうかは企業の自由ですが、試用期間を設けるときは、試用期間の長さを明示するとともに、「試用期間中または試用期間満了時に、社員として不適格と認めた場合は、解雇する」旨、明記しておくことが必要です。
試用期間は身元調査の補充期間ではない
試用期間は、試みに試用してその間の観察により従業員としての職業能力・適性を判定する実験・観察の期間および従業員としての能力ないし技能の養成の期間であって、適性に関する身元調査の補充期間ではないと考えられます。
身元調査は採用内定過程で済まされるべきであり、それを試用期間にまで持ち込むことは労働者の地位を不安定にし、また採用内定と試用との実質的な違い(辞令の交付、労働関係の開始)を無視するものだからです。
試用期間の別の考え方
試用期間とはいえ簡単に解雇は許されないという考え方は、終身雇用が前提とされていた日本社会で「本採用拒否」を大義名分とする解雇が横行していたという背景をもとにして出てきた考え方です。
しかし、現在は雇用の流動性が高くなっていますので、試用期間は本契約を結ぶに先立っての、労働者の職業上の能力や適性を判断するために、正社員の労働契約とは別に設けられた、いわば予備的な契約であるという考え方もあります。
もちろん、この場合も、当初の労働契約に試用期間の性格が明記されていなければなりません。
関連事項:試用期間としての有期契約→