病歴の秘匿

実際の業務に支障があるかどうかがポイント

採用にあたって、病歴に関する質問がなされず、また、採用後も特段不都合なく働いていれば、後日それを蒸し返して退職を強要することは、許されないと考えられています。

単に「持病がある」というだけで解雇を迫るのも、解雇権の濫用とされます。

東京都HIV感染者解雇事件 東京地裁 平成7.3.30

警察官の採用時に警視庁が無断で行ったHIV検査で陽性とされた者に対し、辞職勧奨をした事件。

裁判所は、

(1)HIV感染者はその事実のみで警察官の職には不適であるとの認識のもとに警察官の職から解除する目的で検査を実施している

(2)警察官の職務が相対的にストレスが高いとしても、感染者にとって当然に不適ということはできない、

という判断のもとに、HIV検査は客観的かつ合理的必要性もなく、辞職勧奨の措置も当然許されるものではない、とした。

同趣旨、千葉HIV感染者解雇事件(千葉地裁 平成12.6.12)、東京HIV感染者解雇事件(東京地裁 平成7.3.30)

三木市職員事件 神戸地裁 昭和62.10.29

外傷性てんかんを理由に市が清掃職員を解雇した事案。

症状が極めて軽度なこと、特に危険な作業をさければてんかん発作が事故につながる可能性がほとんどないことから、免職処分は裁量権を誤った違法な処分として無効とされた。

問題は、採用にあたって本人がその事実を秘匿し、しかもそれが合否に大きく影響する要素であり、また、実際に仕事に支障が生じている(あるいは生じる可能性が大きいと判断される)場合です。

こうした場合、広義の経歴詐称として、信義則違反を理由に懲戒処分あるいは解雇をもって望むこともできますし、現実に発生している業務上の支障を理由として普通解雇とすることも可能であると考えられます。

いずれにせよ、本人のプライバシーへの配慮と、就業規則の根拠が求められます。

解雇に先立って、本人からの依願退職などの方向を探ることが賢明だともいえるでしょう。


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