管理職と労働時間

労働基準法41条でいう管理職の範囲は狭い

労働基準法第41条第2号(適用除外)により、「事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある者または機密の事務を取り扱う者」(管理監督者)について、労働基準法の法定労働時間、休憩、休日に関する規定の適用を除外するとしています。

現在の労働基準法の定める労働時間の規定については、原則として、使用者は、労働者に1日について8時間を超えて労働させてはならないし、同様に1週間について40時間を超えて労働させてはならないとしています。(労働基準法第32条

また毎週少なくとも1回の休日が必要です(労働基準法第35条)し、所定の休憩(労働基準法第34条)も必要です。これらを超えて労働させたときには時間外や休日の割増賃金が必要です。

このため管理監督者については、残業や休日出勤の割増賃金を支払う必要はありません。

ところが近年、企業において、管理監督者の範囲を広くとりすぎるといった不適切な取扱いにより、結果として支払うべき割増賃金を支払わず、また、過重な長時間労働を行わせている事例が少なからず認められます。


職制上の役付者がすべて管理職ではない

労基法に定める労働時間、休憩、休日の規定は最低基準を定めたもので、この枠を超えて労働させる場合に法定の割増賃金を支払うべきことは、すべての労働者に共通する基本原則です。

労働時間管理からはずされる管理監督者とは、職制上の役付者で重要な職務と責任を有し、労働時間の規制になじまない立場の者に限られます。

したがって、一般的には、部長・工場長など労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者が該当します。

職制上の役付者のうち、労働時間、休憩、休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請され、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間の規制になじまないような立場にある者に限り労働基準法の適用除外を認めるのが、労働基準法第41条の趣旨なので、その趣旨に基づいて管理監督者も限定されることになります。


深夜勤務・年次有給休暇は適用

ただ、管理職(管理監督者)が適用除外となるのは上記の規定だけです。

管理監督者に労働時間の制限が適用されないからといって、所定労働時間を定めなくてもいいということにはなりません。

むしろ、労働基準法第89条は、「始業及び終業の時刻、休憩時間、休日」を就業規則の絶対的必要記載事項としていますが、管理監督者についても、当然この規定は適用されます。

管理監督者でも、深夜業(午後10時から午前5時まで)については適用が除外されていませんので、割増賃金を支払わなければなりません。

たとえば、ある会社があって、そこは仕事内容の関係でどうしてもあるセクションの管理職は月に10日ほどは深夜0時まで働かないといけない、とします。

その場合には、午後10時から2時間分の割増賃金を実際の残業時間により具体的に計算して支払うのが原則です。

ただし、就業規則等でこれと見合う固定の手当(名目は任意で良いが、深夜割増分を含めていると明記する必要あり)が出されている場合は、深夜勤務の割増賃金を支払わなくても良いことになります。

要するに具体的な計算をしないですむだけで、深夜割増を支払わないでもよいということにはなりません(そもそも管理職の時間管理をするという前提がないため、このような代替措置がおかれています)。

また、年少者の深夜業禁止に関する労働基準法第61条、年次有給休暇に関する労働基準法第39条の規定は適用されます。

なお、労働基準法関係と労働組合法関係では「管理職」の考え方は若干異なります。

本条(41条→労働時間等の規定の適用除外)は、第4章、第6章および第6章の2で定める労働時間、休憩および休日の規定を提供除外しているものであり、深夜業の関係規定(→第37条の関係部分(深夜の割増規定)、第61条(深夜業の規制)および第64条の3(妊産婦の就業制限(管理職の妊産婦が対象でしょう))の規定が排除されるものではない。

したがって、本条により、労働時間の適用除外を受ける者であっても、第37条に定める時間帯に労働をさせる場合は、深夜業の割増賃金を支払わなければならない。

ただし、労働協約、就業規則その他によって深夜業の割増賃金を含めて所定賃金がさだめられていることが明らかな場合には別に深夜業の割増賃金を支払う必要はない。

(昭和63.3.14 基発150号)

関連事項:労働時間の適用除外


役付手当と時間外手当の区分

役付手当より時間外手当の方が高いという逆転現象が起こることも少なくありません。

役付手当を残業手当保障額として設定し、残業時間が長くなった場合には不足額を追加支給するという取扱いは労働基準法に触れるものではありません。

しかし、役付手当と称する以上、職務や責任に対して支払われると理解する方が自然ですから、残業手当と役付手当とは別々に取り扱う方がベターだといえます。

一般的に「管理職には残業は付かない」と考えられていますが、本当の意味での管理監督者に該当しない名目上の管理職には、法定労働時間、法定休日36協定労働時間の上限を規定した労働基準法が当然に適用されるといえます。

「管理職(役職手当受給)」に対し、時間外手当の請求権を認めた判例

橘屋割増賃金請求事件 大阪地裁 昭和40.5.22

一般従業員と同じ賃金体系・時間管理下におかれている名ばかりの「取締役工場長」(本社工場)に対する割増賃金支払義務の存否について争われた事案。

取締役に選任されてはいたが名ばかりのもので、役員会に招かれず、役員報酬なるものも受けていなかった。

また、出退社についても一般労働者と同じ制限を受けており、更に工場長といいながら何ら実質の伴わない形式上の名称に過ぎず、工場の監督管理権はなかったこと等監督若しくは管理の立場にある者には該当しないとするのが相当である。

静岡銀行割増賃金等請求事件 静岡地裁 昭和53.3.28

出退勤の自由がなく、部下の人事考課や機密事項に関与していない「銀行の支店長代理」についての時間外労働に対する割増賃金支払義務の存否について争われた事案。

欠勤・遅刻・早退についての制限を受け、通常の就業時間に拘束されて出退勤の自由がなく、自らの勤務時間について自由裁量権を全く有していなかった。

また、人事に関する事項及び機密事項に関与したことがなく、経営者と一体となって銀行経営を左右するような仕事には全く携わっていなかったことから、管理監督者に当たらないとことは明らかである。

仮に支店長代理以上の者が全て管理監督者に当たるとすれば、被告銀行の一般男子行員の40%の者が労違法の労働時間、休憩、休日に関する規定の保護を受けなくなってしまうという全く非常識な結論となる。

サンド事件 大阪地裁 昭和58.7.12

昇進前とほとんど変わらない職務内容・給料・勤務時間の「課長」職(生産工場)の時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金の支払義務の存否についての事案。

課長職にあって役職手当を支給されていたとはいえ、課長昇進前とほとんど変わらない職務内容であり、工場内の人事等に関与することはあっても独自の決定権はなく、勤務時間の拘束を受けていて、自己の勤務時間について自由裁量権を有していたものともいえない。

給料、勤務時間の取扱いに照らし、会社の利益を代表して工場の事務を処理するような職務内容、裁量権限、待遇を与えられていたとは到底いえず、会社と一体的な立場に立って勤務しとはいえないことから管理監督者に該当せず、したがって、割増賃金の支払義務があるとした。

国民金融公庫事件 東京地裁 平成7.9.25

本来の管理職の系列には属さない補佐的な役割を有するにとどまる、国民金融公庫における「業務役」(支店)の時間外労働に対する割増賃金支払義務の存否に関する事案。

国民金融公庫地方支店の総務課長に次ぐ地位にある業務役について、業務役の職務は本来の管理職の系列には属さない補佐的な役割を有するにとどまり、総務課長の権限の一部としての検印業務等を行い、契約係職員に対する超過勤務命令につき総務課長とともに支店長に対して具申する権限を有していたことは認めるものの、それ以上に被告の経営方針の決定や労務管理上の指揮権限につき経営者と一体的な立場にあったことを認めるに足りる事実は存在せず、出退勤の管理についても一般職員と同様であり、管理監督者に該当しないとした。

レストラン「ビュッフェ」事件 大阪地裁 昭和61.7.30

材料の仕入・売上金の管理等を任されているが、出退勤の自由はなく、仕事もウエイター、レジ係等全般に及んでいる「レストラン店長」の時間外労働に対する割増賃金の支払義務の存否について争われた事案。

レストランの店長について、コック、ウエイター等の従業員6、7名程度を統轄し、ウエイターの採用にも一部関連し、材料の仕入れ、売上金の管理等を任せられ、店長手当として月額2万円ないし3万円の支給は受けていたが、他方、営業時間である午前11時から午後10時までは完全に拘束されていて出退勤の自由はなく、むしろタイムレコーダーにより出退勤の時間を管理されており、仕事の内容も店長としての右のような職務のほか、コックはもとよりウエイター、レジ係、掃除等の全般に及んでおり、これら労働の実態を勘案すれば、本件店舗の経営者と一体的な立場にあるとはいえず、管理監督者に該当しないとした。

彌栄自動車事件 京都地裁 平成4.2.4

タクシー営業センターの係長及び係長補佐の時間外労働に対する割増賃金の存否について争われた事案。

係長級職員は1人当たり約40人の運転手の出金管理・配車管理等を行い、苦情・事務処理を行うが、自らの業務内容、出退社時刻・不就労等につき裁量権を有さず、会社の営業方針全般を決定する営業会議への出席を求められず、待遇も職務内容に十分見合っていないことから、管理監督者に該当しない。

ほるぷ事件 東京地裁 平成9.8.1

書籍等の訪問販売を業とする会社の「販売主任」(支社)の時間外労働に対する割増賃金支払義務の存否に関する事案。

営業所を経て支店の販売主任となったが、タイムカードにより厳格な勤怠管理を受けており、支店長会議に出席することもあるが、支店営業方針の決定権限はなく、支店販売課長に対する指揮命令権限も明らかでなかった。

したがって、会社の経営方針の決定に参画する立場になかったことは勿論、労務管理上の指揮命令権限を有する等経営者と一体的な立場にあってものとは認められない。

キャスコ事件 大阪地裁 平成12.4.28

賃金規程上、時間外手当支給の対象外とされている支店の「主任」についての時間外労働に対する割増賃金支払義務の存否に関する事案。

大阪管理室においては、室長、班長の指揮監督下にあり、一般職位の部下がいるわけでもなく、その出退勤は、出・退社記録(以前はタイムカード)によって管理されており、また、債務者の自宅を訪問し行う債権回収業務についても、室長、班長の指揮監督下に行っていたものと認められることから、監督若しくは管理の地位にある者に該当するとはいえない。

日本コンベンションサービス事件 大阪高裁 平成12.6.30

国際会議、学会、イベントの企画・運営を業とする会社の「マネージャー職(参事、係長、係長補佐)」(支店)についての時間外労働に関する割増賃金支払義務の存否に関する事案。

役職手当を受け、タイムカードによる打刻をしなくてもよくても、支店の業務量の増大に伴い残業を余儀なくされているため出退勤の自由もなかったのであるから、管理監督者には該当しない。

それぞれの課や支店において、責任者としての地位にあったことは認められるが、他の従業員と同様の業務に従事し、労務管理に関わっていたとしても、部下からの勤怠の届出に承認を与えたり、考課の際に意見の意見を述べる程度のものは、経営者と一体的立場にあるとまではいえない。

日本アイティーアイ事件 東京地裁 平成9.7.28

被告会社においては、役職手当、営業手当又は業務手当として相当の金額が支給されていることは前記認定のとおりであるところ、これらが営業職であり、管理職である原告らに時間外・休日勤務手当を支給しないことの代償措置の一面を有することが認められ、労基法37条は、毎月支給する給与の中に割増賃金に代えて一定額の手当を含めて支払うことまでを禁止する趣旨ではないと解せられることからすれば、原告らが行った超過勤務、休日勤務等について、毎月の基本給を基に労基法及び被告会社の就業規則に従って計算した割増賃金の額が右役職手当等の額を超える場合は、その超過する金額を請求することはできるけれども、超えない場合は改めて割増賃金の請求をすることはできないものというべきである。

三栄珈琲事件 大阪地裁 平成3.2.26

パートの採用権限およびこれに対する労務指揮権を有し、材料の仕入、メニューの決定について一部決定権限を有したものの、欠勤、早退、私用による外出に際しては経営者に必ず連絡し、無断で店を閉める権限がなく、営業時間についても独自に決定できる余地が些少であった喫茶店の店長は、管理監督者にあたらない。

マハラジャ事件 東京地裁 平成12.12.22

インドレストランのインド人店長について、管理監督者にあたらないとされた。

風月荘事件 大阪地裁 平成13.3.26

カラオケ店の店長が、管理監督者にあたらないとされた。

光安建設事件 大阪地裁 平成13.7.19

建設会社の現場監督が、管理監督者にあたらないとされた。

東建ジオテック事件 東京地裁 平成14.3.28

地質調査会社の「係長」、「課長補佐」、「課長」、「課長待遇調査役」、「次長」、「次長待遇調査役」が、管理監督者にあたらないとされた。

タイムカードの打刻が免除されていたが、就業規則上勤務時間の定めがあり、社内文書により遅刻、早退を慎むべき旨の示達がなされ、支店長らの視認による勤怠管理のもとに置かれている場合、勤務時間が自由裁量に委ねられていたとは、到底評価できない。

また、部下の考課をするとしても、その人事考課には上位者による考課がさらに予定され、最終的には支店長の考課が総合評価とされるようでは、経営者と一体的な立場にあるとはいえない。


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