内定者側からの辞退
学生側の事由による内定取り消し
通常、次のような事由が考えられます。
- 単位不足等により学校を卒業出来なかった場合
- 所定の免許・資格が取得出来なかった場合
- 心身の病気その他の理由により勤務出来ないことが明らかな場合
- 採用に差し支える犯罪行為(破廉恥罪等)があった場合等
- 履歴書の記載内容や面接時の発言内容に虚偽があり、採用内定通知までにそのことを知ることができないことに理由があり,その内容が採否判断の重要な要素である場合
※ただし、その事実は単に虚偽記入であるということだけでは十分ではなく、その内容・程度が重大なもので、それによって従業員として不適格等が判明することが必要だとする下級審判決もあります。(日立製作所事件 横浜地裁 昭和49.6.19)
内定辞退
近年は複数の内定を取得する者が多くなっているためか、内定者からの辞退が増えてきました。
入社を辞退することは,法的には従業員(学生)側からの労働契約の解約になります。
期間の定めのない労働契約については、従業員(学生)は2週間の予告期間をもって解約することができるとされています。(民法第627条)
(入社直前の辞退等その時期や内容等によっては、信義則に反し解約権の濫用とみなされる場合もありますので留意する必要があります。)
内定辞退のリスク
このような内定者の辞退のリスクを常に労働者を雇用する際は起こりうるものであって、企業側が負担せざるを得ないことになります。
これに対して損害賠償請求をすることは、損害を立証することが困難であることや、コストの点でも法的措置は割にあわないことから、容易ではありませんが、たとえば、内定者の資格取得を援助するために研修等を行うような場合、実は他の競合他社からも「内定」をもらいつつ研修に参加しておき、その後で内定を辞退し、競合他社に入社した、などといった場合は、損害賠償の可能性があります。
採用延期の場合(自宅待機)
採用内定後、会社の都合により入社日は変更しないものの、自宅待機をさせるような場合は、「労働義務の免除」ないし「労務の受領拒否」ということになります。
「自宅待機してもらいたい」といわれ自宅待機に応じたときは、自宅待機期間の休業手当の支払いを請求できます。
自宅待機は、労働基準法第26条の休業に該当し、使用者はその期間中平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければならないということになります。
この場合の「使用者の責に帰すべき事由」とは、不可抗力によるものは含まれませんが、使用者の故意、過失又は信義則上これと同視すべきものよりは広いとされており、不況、資金難等の経営状の理由は、原則としてこれに該当すると解されています。
したがって、「業績がかんばしくない」という理由で自宅待機をさせる場合には、休業手当の支払いが必要になります。
ただし、民事上からいうと、60%を支払えばそれでよいということではありません。
入社予定者は、入社予定日以後、その企業の従業員としての地位を有しますので賃金全額の請求権を有しているというとになります。(民法第536条2項)
また、採用内定後、会社の都合により入社日を延期する場合には、原則として採用内定者の合意を得る必要があります。
争いとなった場合
採用内定者が解雇無効を主張して争い、裁判所が従業員としての地位を認めた場合、使用者は賃金を支払い続けなければなりません。
しかし、採用内定者が会社の説明を了承し、雇用の継続を求めない場合は、使用者が解雇補償を支払って解決することになります。
学生については、採用内定取消時期が早く、就職活動が可能な場合は、他社の採用内定により損害が少ないところから、補償額は少額の慰謝料程度で済む場合もあるでしょう。
日本においては、平成4年以降の不況の際、採用内定取り消しが数多く発生しましたが、実際には従業員としての地位確認の訴訟はほとんど提起されていないようです。
これは、入社の時から訴訟まで行って会社に入っても、その後の会社との関係が最悪のものであることは容易に予測でき、学生がそれを嫌うためと考えられています。