復職する場合

「治癒」か否かが問題になる

最終的に治癒しているか否かを判断するのは、原則として会社です。

判断にあたっては、医師の診断書が重要な意味をもちます。

治癒せずに休職期間が満了すれば、当事者は解雇もしくは失職となります。

健康状態が十分回復していない場合、会社としてはその健康状態に応じた業務を提供したり、あるいはその程度の不十分な労務の提供を受領しなければならない法律上の義務はありません。

したがって、このような場合は、従業員は復職を求めることが権利だと主張できることは困難です(その原因が、業務上だと、違いますが・・・)。

なお、その判断には「職種・職務限定業務」であるかどうかが、大きく影響します。雇用契約上で特定された労務提供がなし得ない以上、治癒も認定できないといえます。

昭和電工事件 千葉地裁 昭和60.5.31

従前の業務を通常通りなし得ることを「治癒」の判断基準とした。

(同旨:ニュートランスポート事件 静岡地裁富士支部 昭和62.12.9)

アロマカラー事件 東京地裁 昭和54.3.27

ほぼ平癒したが従前の職務を遂行する程度には回復していない場合には、復職は権利として認められない。

平仙レース事件 浦和地裁 昭和40.12.16

治癒とは、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したものをいう。

次のような判断もあります。

エール・フランス退職事件 東京地裁 昭和59.1.27

結核性髄膜炎が治療したとして復職を申し出た事案について、会社が原職に就労することは不可能であるという医師の判断のみを尊重し、後遺症の回復見通しについての調査や軽度の勤務から徐々に通常勤務に戻すという配慮をまったくしないで復職を拒否し退職扱いとしたことは無効であるとされた。


医師の診断書

休職事由が消滅したら、労働者は就業に差し支えないことを証明する医師の診断者を添えて復職を申し出なければなりませんが、確認のために会社指定医の検診を行うことも可能です。

復職の申出書に、医師の診断書を添えて会社に提出させます(就業規則等に様式があればそれに従ってください)。

医師の診断書は、復職の可否についての判断材料となりますが、必ずしも会社はそれに拘束されるものではありません。

労働者は医師選択の自由を持っていますが、治療でなく診断にすぎない場合は、会社が医師を指定したとしても、労働者の自由を侵害しているとまではいえない、と考えられています。

会社が当該診断書を提出した医師、会社の産業医等の意見を聴き、復職可能かどうかを客観的に判定します。

電電公社帯広局事件 最高裁 昭和61.3.13

就業規則等に労働者の受診義務を定める規定がある場合には、会社指定医の診断を受けさせることに合理的な理由がある限り、会社の従業員に対する受診命令は有効。


復職時の賃金

賃金は雇用契約に規定されるため、労働者の同意や特段の事業がない限り、一方的には減額できません。

デイエフアイ西友事件 東京地裁 平成9.1.24

書籍販売業務に従事していた者が体調を崩し療養していたため、暫定措置として、会社の書籍を取り扱う物流センターでの軽作業(倉庫管理業務)への配転命令を発し、同時に給料が減額された。

裁判所は、配転と賃金とは別個の問題であって、法的には相互に関連していないから、配転命令により、担当職務がかわったとしても、使用者及び労働者の双方は依然として従前の賃金に関する合意等により拘束されている。

配転命令があったことも、契約上の賃金を一方的に減額する根拠とはならない。

(同旨:西東社事件 東京地裁 平成14.6.21)

こうしたことから、復職時に軽減職務を命じることで、賃金を一方的に引き下げうるということにはなりません。


配転の撤回を求める場合

復職する場合は、元の職場に復帰させるのが通常ですが、労働者の意に反して配転(配置転換)をさせられる場合もあります。

本来、労働者は使用者との労働契約の範囲内で労務を提供するものですから、配転についても職種や勤務場所に関する合意の範囲内では応じる義務があるでしょう。

しかし、その合意の範囲を超えた場合は同意が必要となります。

この合意の範囲内かは、就業規則、労働協約、権利等から判断されることになりますので、注意が必要です。

撤回を求める場合は、民事調停(簡易裁判所)と裁判(地方裁判所)の方法があります。


他の業務ならできる場合

私傷病により後遺障害を負った社員が雇用を継続されるべきかどうかは、次の2点により判断されます。

  1. その社員を現実的に配置可能な業務があるか
  2. その社員の雇用について職種が限定されているか

労働者(職種限定でない)の健康状態が悪化し、現行業務はできないが他の業務をすることならでき、労働者が業務に就くことを申し出たところ、使用者がそれを拒否して就労させなかった場合について、以下の判決が出ています。

独立行政法人N事件 東京地裁 平成16.3.26

私傷病休職からの復職が認められるためには、休職の原因となった私傷病の治癒が必要であり、治癒とは、原則として従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したことを要するが、当該職員の従事する職種に限定がなく、他の軽易な職種であれば従事することができ、軽易な職務に配置換えすることが可能であるとか、当初は軽易な職務に就かせ、程なく従前の職務を通常行うことができると予測できる場合には、復職を認めることが相当である。

カントラ事件 大阪高裁 平成14.6.19

長距離運転手だが、就業規則上は他の職種への変更も予定されており、他の職種や近距離運転業務であれば就業可能である場合、「運転手としての業務を遂行できる」と判断される。

全日本空輸事件 大阪地裁 平成11.10.18

客室乗務員が労災事故による休職の後、復職したが、症状固定後に退職勧奨を受け、解雇された。

客室乗務員という職種限定はあったが、短期間で復帰可能だという理由で、雇用を継続すべきだと、裁判所は判断した。

労働者が休業又は休職の直後においては、従前の業務に復帰させることができないとしても、労働者に基本的な労働能力の低下がなく、復帰不能な事情が・・・一時的なもので、短期間に従前の業務に復職可能な状態になり得る場合には、労働者の債務の本旨に従った履行の提供ができないということはできず・・・使用者は、復職後の労働者に賃金を支払う以上、これに対応する労働の提供を要求できるものであるが・・・短期間の復職準備期間を提供したり、教育的措置をとるなどが信義則上求められる。

東海旅客鉄道事件 大阪地裁 平成11.10.4

従前の業務について、完全な労務提供ができなくとも、雇用契約における信義則からすれば、使用者はその企業の規模や社員の配置、異動の可能性、職務分担、変更の可能性から能力に応じた職務を分担させる工夫をすべきであり、現実に復職可能な勤務場所があり、本人が復職の医師を表明しているにもかかわらず、復職不可として判断は誤りである。

北産機工事件 札幌地裁 平成11.9.21

復職時において従前の業務を100パーセント行うことができなくても、職務に従事しながら、2、3ヶ月程度の期間を見ることによって完全に復職することが可能である場合は、復職を認めるべき。

片山組事件 最高裁 平成10.4.9 差戻審上告審 平成12.6.27

私傷病を理由に自宅治療命令を受けて欠勤扱いされてきた現場監督が賃金等を請求した事案。

労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。

最高裁は差戻審上告審でも、当該労働者は職種・業務内容を現場監督に特定されて雇用されていたのではなく、事務作業については労務の提供を申し出ており、会社は配置可能な事務作業が存したとして、請求を認容した。

労働者の申し出(他の業務の労務提供)が「債務の本旨に従った履行の提供」(民法第493条)といえる限り、使用者が提供された労務を受領せず労働者が現実に労働できなかったとしても、労働者は労働したものとして扱われ、これに対応する賃金を請求することができることになります(民法第492条)。


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