病気休職後の解雇

就労が継続できないときは、解雇も認められる

労働者が不治の病気や業務外の交通事故で再起不能となったり長期入院の止む無きに至ったりして、就労が長期にわたって困難ないし不可能となったようなときには、普通解雇が正当とされます。

一定の期間又は一定の事業の完了に必要な期間までを契約期間とする労働契約を締結していた労働者の労働契約は、他に契約期間満了後引続き雇用関係が更新されたと認められる事実がない限りその期間満了とともに終了する。

したがって、業務上負傷し又は疾病にかかり療養のため休業する期間中の者の労働契約もその期間満了とともに労働契約は終了するものであって、法第19条第1項の適用はない。

(昭和63.3.14 基発第150号)

横浜市学校保健会(歯科衛生士解雇)事件 東京高裁 平成17.1.19

小学校の歯科巡回指導を行う歯科衛生士として雇用された労働者が、頸椎症性脊髄症による長期間の休業の後、職務の遂行に支障があり又はこれに堪えないとしてされた解雇。

裁判所は、「心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合」に該当するとして、本件解雇を適法とした。また、わずかな工夫により歯科衛生士として就労することが可能であったとの主張も、斥けた。

独立行政法人N事件 東京地裁 平成16.3.26

神経症疾患の職員につき、復職を認めるべき健康状態にまで回復していないとしてなされた復職請求の拒否、および休職期間満了を理由とする解雇が有効とされた。

大建工業事件 大阪地裁 平成15.4.16

うつ状態で18ヶ月休職した労働者の休職期間満了を理由とする解雇は、同人の対応、会社のとった措置等からすれば、社会的相当性を欠くということはできず、有効である。

労働者が職務復帰を希望するに当たって、復職の要件である治癒、すなわち、従前の職務を通常の程度行える健康状態に復したかどうかを使用者が労働者に対して確認することは当然必要なことであり、しかも、労働者の休職前の勤務状態および満了日まで達している休職期間を考えると、使用者が労働者の病状について、その就労の可否の判断の一要素に医師の診断を要求することは、労使間における信義ないし公平の原則に照らし合理的かつ相当な措置であり、したがって、使用者は、労働者に対し、医師の診断あるいは医師の意見を聴取することを指示できるし、労働者はこれに応じる義務がある。

もっとも、労働者が医師の人選あるいは診断結果に不満がある場合は、これを争い得ることまで否定されるものではないが、医師の診断を受けるように指示することが、直ちにプライバシー侵害にあたるとはいえない。

豊田通商事件 名古屋地裁 平成9.7.16

精神疾患によって惹起された可能性の高い行為について、普通解雇が有効とされた。

精神疾患によって惹起された可能性のある行為であっても、事理弁識能力を有する者による行為である以上、懲戒処分について定めた就業規則の規定の適用を受けるというべきである・・・原告の行為が幻覚、幻想等に影響されて引き起こされたことを窺わせる証拠はなく、原告に対する病院での診断結果も、主に人格障害というもので、・・・本件行為について精神疾患によって惹起された可能性をもって直ちに懲戒解雇の規定の適用を否定することはできない。

無銭飲食、暴行、業務妨害、物品持出などの各行為は就業規則所定の解雇事由に該当する。

東京合同自動車事件 東京地裁 平成9.2.7

途中で通院を辞めたタクシー運転手の普通解雇が有効となった。

原告が躁状態等により平成6年11月12日から同年12月20日までと、同年12月22日から平成7年2月28日まで入院していること、退院時には就労可能な状態であったものの更に治療が必要な状態であったところ平成7年4月11日には通院をやめており、右段階で治療あるいは経過観察等が不要な状況になったとは認められないこと、勤務を再開した後の原告の一連の言動及びタクシーでの勤務状況並びに弁論の全趣旨を考慮すると、本件解雇時において原告が被告の就業規則に定める解雇事由「精神若しくは身体に障害があるか又は虚弱、老衰、疾病のために業務に堪えないと認めたとき」に該当する状況であったことは明かであり、他に解雇権濫用であることを認めるに足りる証拠もない。

東芝事件 東京地裁 昭和58.12.26

「神経症」、「神経衰弱状態」等との診断により欠勤し、短時間勤務の制限付きの出社後の奇行、非常識な言動等から、就業規則に定める解雇事由である「仕事の能力若しくは勤務成績が著しく劣り、又は職務に怠慢なとき」「会社の業務の運営を妨げ又は著しく協力しないとき」に該当するとして、普通解雇を有効とした。

マール社事件 東京地裁 昭和57.3.16

異常な行動をする従業員に対する休職発令後の休職期間満了に対する解雇について、

(1)従業員が医療機関の診断を全く受け付けていなかったこと、

(2)休職期間満了時において、従業員が元の業務に復職できるような状況になかったこと、

などから、休職期間満了とともになされた解雇が有効とされた。

アロマ・カラー地位保全(仮)事件 東京地裁 昭和54.3.27

(就業規則)によれば、第29条で「従業員がつぎの各号の一に該当するときは退職とする」と定められ、同条(四)で「休職期間を経過して復職をされないとき」と定められていることが認められるところ、右休職期間の満了後の復職しない場合はもとより、復職できないとき、すなわち従業員には復職の希望はあるが、休職期間満了時に傷病が治癒せず、復職を容認すべきでない事由がある場合も含まれると解すべきところ、申請人の退院後の症状は・・・完治しておらず、座姿勢による作業は可能であるとしても、軽作業、長時間の立作業の勤務には耐えられないものであり・・・、右期間満了当時申請人は復職可能な状態にあったとはいえず、右規定に該当する。

東京印刷紙器事件 東京地裁 昭和49.5.27

入社後重篤な病気となり予定した業務に従事できなくなり、軽作業ポストを用意しても早晩疾病の再発は必至であり、その定年までの23年間において発症、治療、軽快が循環するに伴いそのつど病気休業を繰り返し、しかも日常業務における健康管理上の措置が必要であるというケース。

会社は、雇傭関係を解消するか、あるいは軽作業のポストを用意してその雇傭関係を継続するかについていずれか選択しうる自由がある、と判示し、解雇を有効と認めた。


解雇前のチェックポイント

就業規則などの解雇事由に該当しているか否か。
雇用契約上、職種、業務が限定されているかどうかの確認
休職制度がある場合は、休職制度を適用したか否か
休職期間満了時に直ちに従前の通りの勤務ができないときは、
その後、比較的短期間で従前どおりの勤務ができる状況に回復する見込みがあるか否か
休職期間満了後、従前の通り勤務ができない場合でも、企業規模・職務内容などからみて、
他に従事することが可能な部署・職務への配転を検討・実施したか否か
休職期間満了後も雇用の維持が困難なほど長期にわたり、
労務不能の状況が継続すると見込まれるか否か
他の労働者と比較し不均衡な取り扱いをしていないか否か

解雇に際して休職を必ず前置きしなければならないとまではいえませんが、休職制度という解雇猶予措置が設けられていることに照らすと、休職を経ないで解雇することが有効とされるのは、原則として、将来にわたって回復の見込みがないと認められる場合に限られると解するべきでしょう。


簡単に解雇することはできない

医師の診断により労働者の状況(身体の障害の程度等)が、業務にたえられるかどうかを判断し、元の職場に復帰することや配置転換の可能性があるにもかかわらず、それを無視し解雇した場合は、その解雇は無効になります。

休職期間満了後の解雇も基本的には同様です。

提供可能な労務分野があり、配属部署でのやりくりができる場合は、信義誠実の原則(民法第1条2項)により、使用者は労働者の就労を認めなければらないとされています。(片山組事件 東京高裁 平成7.3.16、最高裁第一小法廷 平成10.4.9、差戻審 東京高裁 平成11.4.27、差戻審上告審 最高裁 平成12.6.27)

撤回を求める場合は、民事調停(簡易裁判所)と裁判(地方裁判所)の方法があります。

しかし、もともと特定の業務につくことを条件に採用された社員の場合、ほかの業務への転換は容易ではありませんから、解雇となる可能性が大きくなります。

解雇に際しては、休職を必ずしも前置すべきとまではいえないとされています。

逆に、休職満了直後には従前の業務に復帰できなくても、比較的短期間で従前の業務に就くことが可能である場合は、解雇が無効とされています。

マルナカ興業(本訴)事件 高知地裁 平成17.4.12

不安神経症で休職していた従業員が、復職を通知したところ、事業縮小のため解雇する旨、告げられた。また、解雇理由は「就業状況が著しく不良」とされた。

解雇手当が振り込まれたが、原告は賃金の一部として受領する旨の意思表示をした。

裁判所は、早退や休職によって事業運営と職場秩序に多大な影響を与えたとまではいえないとし、解雇事由の存在を否定した。

経営悪化とはいえ、役員報酬を増加させていた。

解雇者選定基準についても、本件解雇以前に懲戒処分を受けたことがなく、資格のない者にこれまで資格を取る機会を与えずに業務従事させてきたにもかかわらず、これを整理解雇基準とすることも疑問があるとされた。

全日本空輸(退職強要・上告)事件 最高裁 平成13.9.25

労災休業に引き続き長らく療養した後に、職場復帰した客室乗務員に対する退職勧奨が、その面談の長さ、上司の言動から、社会通念上許容しうる範囲を超え、違法な退職強要に当たるとして、慰謝料80万円の支払いを命じた。

守口市門真市消防組合事件
最高裁 平成1.5.15 大阪高裁 昭和63.9.29 大阪地裁 昭和62.3.16

分限免職事由としての「心身の故障のため、職務の執行に支障外あり、又はこれに耐えない場合」とは、・・・・・分限休職事由との対比上、将来回復の可能性のない、ないしは、分限休職期間中には回復の見込みの乏しい長期の療養を要する疾病のため、職務の遂行に支障があり、またはこれに耐えない場合を指すものと解すべきであるが、分限休職処分を必ず前置すべきものとまでは解し得ない。

相互製版事件 大阪地裁 平成2.6.15

ダンボール印刷の製版業務に就いていた透析患者(4時間を1週2回)が、心身の障害により業務に堪えられないことを理由に解雇されたケース。

透析をきちんと受ければ就労可能との医師の診断を受けており、途中からは夜間透析を受けているので週に2日残業ができなくなるほかは勤務に支障を及ぼすものではなく、解雇は無効とされた。


入社後、持病が発覚したとき

「持病があることだけ」を理由に解雇することは、正当な理由による解雇とは、一般には認められません。

持病による解雇については、その持病による労務の提供が不完全あるいは不能であること、業務の遂行により症状が憎悪する蓋然性が高いなどの事情がある場合に限り認められます。そのようは事情がない場合には、解雇権の濫用にあたり、無効とされます。

東京都HIV感染者解雇事件 東京地裁 平成7.3.30

警察官の採用時に警視庁が無断で行ったHIV検査で陽性とされた者に対し、辞職勧奨をした事件。

裁判所は、

(1)HIV感染者はその事実のみで警察官の職には不適であるとの認識のもとに警察官の職から解除する目的で検査を実施している

(2)警察官の職務が相対的にストレスが高いとしても、感染者にとって当然に不適ということはできない

という判断のもとに、HIV検査は客観的かつ合理的必要性もなく、辞職勧奨の措置も当然許されるものではない、とした。

同趣旨、千葉HIV感染者解雇事件(千葉地裁 平成12.6.12)、東京HIV感染者解雇事件(東京地裁 平成7.3.30)

三木市職員事件 神戸地裁 昭和62.10.29

外傷性てんかんを理由に、市が清掃職員を解雇した。

(1)症状が極めて軽度であること

(2)特に危険な作業を避ければてんかん発作が事故につながる可能性がほとんどない、ことから、

免職処分は違法であり無効であるとされた。


後遺症により職務遂行に耐えられないとき

脳血管疾患のような病気で倒れ、その後回復したものの、以前の職務で働くことができない、という例は少なからずあるでしょう。

通説では、使用者は労働者の健康状態に見合う業務に就労させる法的義務はない、とされています。

事業規模からみて本人を有効活用する場も見あたらないという場合、"法的には"解雇も可能と考えられます。

ただし、従業員の長年にわたる労苦に対する使用者としての道義的責任もあり、労務管理面からの配慮が必要なのはいうまでもありません。

解雇が有効となった判例

小樽双葉女子学園事件 札幌高裁 平成11.7.9 札幌地裁小樽支部 平成10.3.24

脳出血から回復した保健体育の教諭の例。後遺症が残ったが、業務に堪えられないとはいえないという判断から、一審(札幌地裁小樽支部 平成10.3.24)は解雇無効としたが、高裁は、右半身不随のため実技指導がほとんど不可能なことから、これを覆し解雇有効とした。

地裁の判断

授業中に脳出血で倒れ、右半身不随となったが、休職期間を経て、右上肢及び右下肢については、全般に筋力の著しい減弱ないし消失が認められるものの、歩行は若干速度は遅いながら可能であり、利き手を左手に変えて判読可能な文字を書くことができ、了解可能な程度に話をすることもできる状況にまで回復した保健体育の教師に対し、「身体の障害により業務に堪えられないと認めたとき」との就業規則の解雇事由に該当するとされたが、これを否定した。

高裁の判断

走ることができないこと、発語・書字力が実用的水準に達していないこと等を指摘し、保健体育教諭としての業務に堪えられないと認めざるを得ないと判断し、解雇を有効とした。

栄大事件 大阪地裁 平成4.6.1

業務災害で負傷(腰筋挫傷)して症状固定後障害者等級12級の後遺症(腰痛)が残った労働者に対し、仕事が靴の修理等で立ち仕事が多く、腰痛の持病では勤務に耐えられないとしてなされた解雇が、有効とされた。

大阪築港運輸事件 大阪地裁 平成2.8.31

業務中の事故に起因する外傷性頸部症候群等により労災認定を受けていたが、症状固定状態と認められる状態に至った後も、少なくとも沿岸荷役作業等の力仕事に従事する労働能力を喪失しており、辛うじて重機の運転業務に従事することができるだけの状況になったものについてなされた解雇案件。裁判所はこれを是認した。

申請人は本件事故により外傷性頸部症候群等の傷害を負い、第二次解雇の時点においても後遺障害を残し、沿岸荷役作業には従事できない状態であったことは前示のとおりであるが、このような労働能力の低下に伴う損害については労災保険の障害補償や民事法上の損害賠償等によって填補されるべき筋合いのものであり、現に後遺障害を有している労働災害の被害者に対する解雇が一切許されないものではない。

・・・本件についても、被申請人は、平成2年1月22日から同年3月30日までの間、申請人に通院治療のための欠勤を許し、申請人の療養の便宜をはかるなどそれなりの配慮をしていたこと、また、被申請人が現場従業員3名の零細な企業で経済的にも行き詰っており、申請人を重機の運転や軽作業にのみ専従させるなどそれ以上の便宜をはかることが困難な状況にあったこと、さらに、申請人の病状の特質、治療の経過及び復職後の就労状況等からして、申請人は、症状固定の状態に至った後においても安定した労務の提供をなし得る状況にはなかったものといえ、他の従業員との公平の見地からしても、申請人を解雇することにはやむを得ない面があった。

名古屋埠頭事件 名古屋地裁 平成2.4.27

業務災害による腰痛症で傷害が残ったクレーン運転手が「業務に堪えない」として解雇された。

裁判所は、この場合の業務とは、「雇用契約で従業員の職種が限定されている場合でも、その業務のみならず、使用者が契約上従業員に就労を命じることが可能な業務を含むと解すべきである」としたうえで、「従業員の疾病の内容・特質、罹患後の長さ、復職後の就労状況などに照らし、従業員が解雇当時、右就労可能な業務についたとしても、最終的に当初の限定された職種に復帰することが困難であることが、高度の蓋然性をもって予測できるときは、その解雇は合理的なものとして有効といわざるを得ない」とし、従前業務に戻ることは困難なので解雇は有効とした。

光洋運輸事件 名古屋地裁 平成1.7.28

被告は、原告が昭和53年9月21日本件労災事故に遭った以降、昭和59年4月16日の本件解雇に至るまでの約5年7ヶ月の間、労働基準法19条1項による解雇制限が外れた前記症状固定時である昭和56年10月12日以降でも約2年6ヶ月の間、本件傷害による療養、他の労災事故による傷害の療養及び私病の療養等による入・通院のために休業、早退等を反復継続した。

原告が本来の業務であるトラック運転業務に就いたのはごく僅かの期間にすぎないのにもかかわらず、原告の雇用を継続し、原告の希望を容れて原告の本来の業務ではない伝票作成補助等の軽作業に従事させ、治療、リハビリテーションのための欠勤、早退を許すなど、原告のためにそれなりの配慮を示してきたことが認められる。

・・・以上によれば、本件解雇が信義則違反ないし解雇権濫用により無効であると認めることはできない。

安威川生コンクリート工業事件 大阪地裁 昭和63.9.26

ミキサー車の運転手が身体の具合が悪いので妻に欠勤する旨連絡させただけで、会社からの再三にわたる診断書の提出指示にもかかわらず、これを提出せず、また、病気の内容も伝えず、治療見込みも連絡せず52日間休んだという事案について、妻が欠勤する旨を連絡しただけでは、無断欠勤と同視してもよい。

ニュートランスポート事件 静岡地裁富士支部 昭和62.12.9

大型トラックの長距離運転手の解雇が争われた事案。

日常生活動作にはまったく支障がない健康状態に回復し、事務職や単純労務であれば就労可能な状態になっていたが、原職務に復帰するまでには回復していなかった。

「休職になっていた労働者の提供し得る労務の種類、内容が休職当時のものと異なることになった場合において、道義的には別として、使用者において右労務を受領すべき法律上の義務や、受領のために労働者の健康状態に見合う職種、内容の業務を見つけて就かせなければならないとの法律上の義務があるものとはいえず・・・、他の職務ならば就労可能であるとしても、そのことから直ちに休職事由が消滅したものとはいえない。」として、解雇有効となった。

姫路赤十字病院事件 神戸地裁姫路支部 昭和57.2.15

ボイラー技士。右下肢大腿部を切断しながらもリハビリによって運動能力の面で相当な成果を挙げ、日常生活にはほとんど不便、苦痛を感じることはないところまで回復していた。

病院のボイラー技士は、かなり複雑な動きを要求される。一部には身体障害者にとってかなり危険といえる作業を含むものであり、長期間勤務する間には、危険の発生を招来するおそれなしとはいえない。

その性質上高度な安全確保の能力が要求され、日常生活にほとんど不便がないという程度ではその「職務に堪える」とはいえず、復職できない。

仮に債務者において多大な費用を投じて設備を改善したり、債権者のみ特別な勤務体制に組み込んで、同人の肉体的負担を減少させた場合は別異の結論に達することも考えられるが、右のような措置を、法律上、債務者に強制しうるものでない以上、前記判断を覆すことはないというべきである。

解雇無効となった判例

アジア航測事件 大阪地裁 平成13.11.9

女性社員が後輩の男性社員の暴行(顔面殴打)で負傷(顔面座礁と頸椎捻挫)し、その後遺症として頭痛、頸部痛、めまいなどの症状が出たため欠勤したところ、これを理由に解雇された。

裁判所は、加害者の原告に対する暴行は被告会社の業務の執行につき加えられたものとして使用者責任を認め、原告の欠勤は被告会社の従業員が行った暴行に起因するもので私傷病による欠勤ではなく、治療を待って復職させるのが原則であり、治療の見込みや可能性などを検討せず解雇することは解雇権濫用につき無効だとした。

東海旅客鉄道事件 大阪地裁 平成11.10.4

元に戻らない状態で症状固定しても、配置転換して雇用すべきとの判断がなされた。

北産機工事件 札幌地裁 平成11.9.21

休職満了時に未だ通院が必要であったが、仮に100%の稼働ができなくとも、職務に従事しながら、2、3ヶ月程度の期間を見ることによって完全に復職することが可能であると推認できるとして、退職扱いを無効とした。

全日空事件 大阪高裁 平成13.3.14

通勤災害による長期休職後職場復帰した客室乗務員に対する退職強要および解雇につき、復帰準備時間を提供するなどの企業の配慮義務を認め、短期間のうちに客室乗務員に復帰できるとし、解雇を無効とした。

千代田生命保険事件 東京地裁 平成9.10.28

会社側が原因の一つとなった疾病による解雇は、解雇権の濫用だと判断した案件。

生命保険会社における営業職員の成績不良の原因が、会社が命じた業務ではないものの、営業所長から依頼された公金横領者捜索への協力等によるストレスを一因とした糖尿病によるものであり、会社にもその責任がないとは言えないことなどを勘案して当該解雇解雇権を濫用したものであると判断した。

まこと交通事件 札幌地裁 平成2.8.31

心臓疾患のため胸部皮下にペースメーカーを装着したタクシー運転手を、就業規則の「身体の故障により業務に耐えられないとき」に当たるとして解雇。

裁判所は、「本件ペースメーカーの装着により、右機能障害による心臓機能の欠陥は健常者とほぼ異ならない程度に補われたものというべきである」と判断し、就業規則の当該状況は該当しないとした。

宮崎鉄工事件 大阪地裁 昭和62.12.10

脳出血の後遺症を有する休職者の作業能力は相当程度回復しており、発病前の職種以外の職種であれば十分復職可能であるにもかかわらず、復職を拒否してなした解雇は無効。

マルヤタクシー事件 仙台地裁 昭和61.10.17

被告による休職事由の消滅の有無に関する判断(就業可能か否かの判断)が、従業員の身分に決定的な影響を及ぼしうる結果となっていることに鑑みると、被告は、従業員が復職の際提出してきた専門医による診断書の内容を原則として十分尊重すべきであり、仮に治癒(復職可能)を証明する適正な診断書が提出されたにも拘わらず被告において従業員の復職を拒否する場合には、提出された診断書の内容とは異なる判断に至った合理的理由を従業員に明示すべき義務があり、右合理的な理由の明示を怠ったまま従業員の復職を一方的に拒否した場合には(自らは診断医もしくは病院の指定をしないまま、原告から提出された診断書の病名欄に病名が記載されていることのみを理由に、原告が全治したものではないとしてその復職を拒否したことが認められ)、従業員は復職の申し出をなした時点で当然復職したものと解するのが相当である。


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