精神疾患の原因

精神疾患の判断は難しい

業務が原因となって精神性の病気を発症した場合は、使用者は民事損害賠償責任を負担することとなります。つまり、相当因果関係が必要です。

ただし、心の病の原因の探求は、身体医学のように機械を使ってというわけにはいきません。

基本は面接ですが、かなり難しいものです。


本人が混乱している

本人は、精神的にも混乱していることが多く、秩序だって説明したりすることが困難です。

話がまとまりに欠け、前後関係があやふやであったり、また、一方的な偏りがみられ、同じ話を何度も繰り返して肝心な話にいかないのは日常茶飯事です。


自分にとって触れられたくない部分は、見たくない

原因探求は、当人の影の部分、秘密の部分の探求になることが多く、それは当人にとって見られたくない、触れられたくない部分です。

精神的に落ち着いてきてゆとりが出てこないと、自分の影を見ることはできないし、また、相談相手に対する信頼感が出てこないと、言えないものです。

この影の部分こそが、重大な原因であることが多いのですが、無理に聞き出そうとすれば、人道的に問題だといえます。


職場に内緒にしたい

うつ病などで悩んでいても、近隣の専門医に受診すると見咎められるのではないかと危惧し、わざわざ遠くの病院を選んで通院する患者も少なくありません。それどころか、受診そのものすらできないという人もいます。

そのために病気が進行し、簡単には治らないところまで重傷化するケースも多数います。

しかし、会社としては、病気の種類にかかわらず病名を安易に職場に伝えるべきではありません。

心の病気については、いまだに差別的な扱いを受けることが少なくないのです。

まずは、周囲に対する秘密を保持した状態で、精神科や心療内科を受診するように勧めます。

こうした場合、ストレートに病状を指摘して専門医の受診を勧めたのでは、本人が抵抗することがあります。

そういうときは、突然休む、遅刻する、会議に欠席する、仕事を期限までに仕上げられないなどの現実的な問題を列挙したうえで、病気でないとすれば、人事労務管理上、厳しい対応も迫られることを明確に告げ、医師の受診を促します。


本人が思い出せない

原因を探ろうにも、本人が思い出せないことがあります。

特に急性の幻覚妄想状態の体験や、家庭内暴力や手首自傷など、境界例で頻繁に起こる行動化の体験などを完全に想起することは困難なことが多いのです。


強制的に受診させることはできない

強制的に医者に受診させることはできません。受診を勧奨し、本人の自主的判断を促します。当事者が受診勧奨に応じない場合は、産業医の面接を勧めます。

病識がない場合は、意図が伝わりませんから、病気のことに触れると非常に拒否的な反応を示す場合があります。このような場合は、病態には触れずに、現実的な問題を列挙し、この解決を求めるようにします。

遅刻や欠勤がある場合、病気が原因なら診断書を求めます。そうでないなら、懲戒を含めた対応が検討されることになります。そういう状況にあることを、明確に伝えることが必要です。

関連事項:受診の勧め方


本人が承諾しない

周りに迷惑をかけている場合は、就業禁止措置は可能です。

例えば、同僚や顧客先に迷惑をかけている、同僚が恐怖を感じている、その人のために従業員のモチベーションやモラールが極端に低下しているなど、放置しておけない場合もあります。

本人の病識がないが、周囲との人間関係や経済問題などが深刻となっている場合では、本人の承諾が得られないまま、強制措置として就業禁止や休職の手続をとる必要が生じます。

強制措置を行う場合、民間企業では、産業医の判断により就業禁止(休職)の意見書を作成し、その意見を元に、会社は就業禁止措置を講じます。

産業医は医学的見地から意見を述べますが、最終的判断は、会社側が下さなければなりません。

この場合、会社の就業規則に、病気の従業員に対する就業禁止条項があることが望まれます(労働安全衛生規則61条の「病者の就業禁止」の条項より、精神障害等が削除されたためです)。


やむを得ず異動させる場合

復職面接の際に、本人から異動の希望があっても、原則としては元の職場に戻すようにします。しかし、無理な受け入れをしてもらうことが得策ではないことも、しばしばあります。

そこで、本人の病態を悪化させないようにすることは避けたいが、職場の状況を考えるとこれ以上現状にとどめることができないとの判断に立ち、会社が異動命令を出すことになるでしょう。

本人がこれに不満で訴訟等を起こす可能性もありますから、会社はあらかじめ産業医の意見を聴き、会社の異動決定に同意する旨の「意見書」を残しておくことも必要です。第三者の意見を斟酌した上で、最終的に会社が判断した、という形になります。

もし異動するのであれば、いったん元の職場に復帰させ、一定期間の就業実績を作ったうえで、次の定期異動時に他の社員と一緒に異動することが望ましいといえます。その方が異動先の選択肢も広がります。


管理者の苦悩

直属の管理者は、職場復帰に当たっても重要なキーパーソンの役目を果たさなければなりません。

休職中は、元の職場の管理者がラインによるケアを継続し、特別な理由がなければ元の職場に戻すということを、事例発生後の職場関係者ミーティングやメンタルヘルス管理者教育などの機会で周知しておくことが必要です。

つまり、「元の職場の管理者が受け入れないのは原則として禁止」であるというルールを明確にしておくのです。

職場管理者は、本人への直接的な対応で業務負荷がかかるだけではなく、他の部下からも本人の担当業務を分担することへの不満が高まり、部下からのクレームで心理的にも追いつめられています。

メンタルヘルス不全者に厳しい対応をすれば必ず、「病気でないのに、単にサボっている人には何の対応もしないのか」という議論が出てきます。

したがって、こうしたプレッシャーを人事担当部門でも、幾分かは負担してあげようとする配慮が必要です。


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