従業員への対応
復職・休職を繰り返すケース
通算規定を設ける
企業は、休職期間を満了せずに復職し、すぐにまた休職に入る従業員の対応に苦慮しています。
休職期間を満了しなければ退職や解雇とならず、長期にわたって休職を続けることが可能なこともあり、人事は「意図的な復職」と解釈し、主治医の診断書に対する不信感も大きくなります。
休職制度をある意味で悪用するような行為に対しては、厳しく対応する方がよいでしょう。
復職することが目的ではなく、休職期間をリセットすることが目的の復職は認めない、という会社側の明確な意思表示が必要です。
具体的に、企業は、以下のような規定を設けて対応しています。
- 「1ヶ月に満たない出勤については復職とみなさない」
- 「2週間以内の再発は休職期間を通算する」
- 「復職後60日以上連続して出勤しない場合は休職期間を通算する」
- 「同一私傷病は休職期間を通算する」
主治医と産業医との判断の違い
本人が主治医の診断書に記載された「復職可能」「通常勤務可能」という意見を理由に、復職を主張するケースがあります。
企業を、これを参考に、産業医の意見を求めます。勤務可能かどうか、就業制限が必要かどうかは、産業医の意見が優先されます。
主治医としての復職の判断基準は「病態が安定している」という状態であり、産業医が行う復職可能の判断基準は「リハビリ勤務等を経れば、数ヶ月以内に1日8時間(または、所定労働時間)勤務できる」という状態を指します。
こうした立場の相違が診断結果に反映されることがあります。
会社側が主治医と接触するためには、本人の同意が必要です。
まずは本人から主治医に「会社の○○から、病状に関する問い合わせがあったら応じてほしい」旨、主治医に伝えておいてもらいます。
あるいは、本人の外来受診の際に、本人同席のもと、主治医より意見を聴くことになります。
なお、産業医は医師であるので、刑法134条により厳しい守秘義務が規定されています。
病識の希薄な従業員への対応
性急に事を運ばない
最初の対応方法の良し悪しが、最後まで尾を引きやすいので、拙速を避け、多方面から情報を収集して、関係者の役割分担を明確化させます。
先入観を捨ててキーパーソンを探す
職場において、「あの人の言うことならきく」というキーパーソンを見つけておきます。その際のキーパーソン候補については、「直属上司」などと限定せず、幅広く探すといいでしょう。
本人が傷つくような言葉は避ける
本人が受け入れやすい言葉を用いるのが鉄則で、「おまえ、様子がおかしいから精神科に行け」というような表現は最悪です。
「疲れているようだから、しばらく病院で静養したら」「眠れないのなら、病院で安定剤をもらったら」というような話し方がいいでしょう。
問題行動に対して過度に反応しない
問題行動の多くは周囲とのトラブルです。したがって、そうした部下をもって困惑している上司や、妄想対象となっている同僚社員など周囲の人を職場全体で支え、職場全体の動揺が最小限となるよう努めます。
家族や関係者の援助方針・援助体制を確立する
情報の共有化と役割分担を明確化させる必要があります。
職場全体での対応方針を明らかにする一方で、治療・対応の責任は本人・家族であって、職場は側面援助が基本原則であることを家族に伝えます。
ときに家族も問題意識が希薄であったり、逆に責任放棄の姿勢を見せることがあるためその対応に苦慮しますが、時間をかけて家族や親戚に接していくと頼れるキーパーソンが出てきたりするものです。
保健所の保健師、民生委員などを活用する
職場や家族だけでの対応には限界があり、地域での援助資源を視野に入れる必要もあります。
援助者自身が精神科医など専門家のコンサルテーションを受ける
問題対応に当たっている職場関係者が、嘱託精神科医などから精神医学的な把握と見通しについて説明を受けられれば大きな安心感につながります。これは、関係者自身の精神安定機能としても非常に大切です。