通勤災害のケーススタディ

通勤途上における災害

次の場合は、業務上災害と認められています。

(1) 事業主が提供しているマイクロバスの利用による場合
(2) 会社所有の乗用車の場合・・・いわゆる「送り迎え」
(3) 事業主が人員輸送用にチャーターしたバス等による場合
(4) 休日に休んでいるときに、突発的な事故のために緊急に呼び出された場合で、家を出てから事業場に到着するまで
(5) 事業場敷地内に入ってから自分の職場に到着するまで、職場から事業場敷地を出るまで
(6) 通勤途上における業務遂行で、出勤途上では用務を始めたときから、退勤途上では用務を終了するまで
(7) 業務命令による用務遂行のため、出勤時あるいは退勤時に、通常の順路を通らず、方向の異なる道を通らなければならないときは、「出張」となり、自宅~会社間、会社~自宅間全体
(8) 自宅を出てから複数の用務先を回り、自宅へ帰る場合で、最初の用務先から最後の用務先を回っているとき
(9) 宿泊を必要とする場合は、全行程
(10) 同一敷地内にある宿舎から職場までの間・・・事業主の施設管理下にあるため

これに対し、次の場合は通勤災害と認められます(ただし、災害発生地点が、自宅と事業場の間の通勤途上にあるものに限る)。

通勤途上の災害については、労働基準法第19条(解雇制限)は適用にはなりません。

(1) 上司や同僚などのマイカーに乗せてもらったとき
現場に行く下請けのトラックやライトバンに便乗したとき
(2) 事業主から、自転車・オートバイ・スクーター等を貸与されている場合
(3) 早出出勤、残業等の帰宅、休日における通勤途上
(4) 自宅を出てから複数の用務先を回り、自宅へ帰る場合で、自宅から最初の用務先へ到着するまで
最後の用務先を出て、自宅へ到着するまで
(5) A町の宿舎からB町の現場への往復

例外的に通勤として認められる場合

  1. 日用品の購入その他これに準ずる行為
  2. 職業訓練、学校における教育等を受ける行為(定時制高校等)
  3. 選挙権の行使その他これに準ずる行為
  4. 病院または診療所で診療や治療を受けること及びこれに準ずる行為
  5. 要介護状態にある配偶者、子、父母、配収者の父母並びに同居し、かつ、扶養している孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)

住居との関連

住居の空間的な範囲は、通勤労働者の支配力の及ぶ空間とされます。

労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところをいいます。

したがって、就業の必要上、労働者が家族も住む場所とは別に就業の場所の近くにアパートを借り通勤している場合には、そこが住居となります。

また、通常は家族のいるところから通勤しており、天災や交通ストライキ等の事情のため、やむを得ず会社近くのホテル等に泊まる場合などは、当該ホテルが住居となります。

通勤労働者が、自宅の玄関先の石段を上がるときに、石段が凍っていたため、足をすべらせて転倒した負傷した。

→通勤災害とはならない。

住居内において発生した災害であるので、住居と就業の場所との間の災害には該当しない。

(昭和49.7.15 基収2110号)

アパートの共用階段で靴のかかとが階段にひっかかったため前のめりに転落して負傷した。

→通勤災害となる。

労働者が居住するアパートと外戸が住居と通勤経路との境界であるので、当該アパートの階段は、通勤の経路と認められる。

(昭和49.4.9 基収314号)


職場に居残っていた場合

何らかの理由で職場に居残り、その後の帰宅途上で災害にあった場合は、事業所内の滞留時間とその内容が判断基準となります。

業務の終了後、事業場施設内で、囲碁、麻雀、サークル活動、労働組合の会合に出席した後に帰宅するような場合には、社会通念上就業と帰宅との直接的関係を失わせると認められるほど長時間となるような場合を除き、就業との関連性が認められることになる。

(昭和48.11.22 基発644号)

この例で労基署は、1時間40分の労働組合活動後の帰宅途上での通勤災害を認めたケースがあります(昭和51.3.30 基発2606号)。

就業時間終了後サークル活動として茶のけいこをした後、2時間50分経ってから退社し、帰宅途上で暴漢に襲われ死亡した。

→通勤災害とならない。

社会通念上就業と帰宅との直接の関連がない。

(昭和49.9.26 基収2023号)


業務後に労働組合活動をした後の帰宅

長時間(2時間が目安)にわたらなければ、保護対象になります。

業務の終了後、事業場施設内で、囲碁、麻雀、サークル活動、労働組合の会合に出席した後に帰宅するような場合には、社会通念上就業と帰宅との直接的関係を失わせると認められるほど長時間となるような場合を除き、就業との関連性を認めてもさしつかえない。

(昭和48.11.22 基発644号)

業務終了後に自分の机で労働組合の会計の仕事を1時間20分行ってからの帰途上で、通勤用バイクが野犬と接触転倒して受傷。

→通勤災害となる。

本件の組合用務業務に要した時間は、就業との関連性を失わせると認められるほど長時間とはいえない。

(昭和49.3.4 基収317号)

業務終了後に自分の机で労働組合成年婦人部の決算報告資料の作成を2時間5分行ってから徒歩で帰宅途中、対向車に接触負傷した。

→通勤災害となる。

本件の被災労働者が業務終了後、当該事業場施設内に滞留した時間(2時間5分)から判断した場合、一般的には、その後の帰宅行為には就業関連性が失われたものといえる。

本件のように就業との関連性が失われたといえる時間を超えている時間が極めてわずかであり、かつ、滞留事由に、拘束性・緊急性および必要性があり、また、事業主が事業場施設内において組合用務を行うことを許可している等の要件を充足していれば、当該被災労働者の帰宅行為に就業関連性を認めるのが妥当である。

(昭和49.11.15 基収1881号)

業務終了後、労働組合主催の旗びらき等のため約1時間40分参加し、帰宅途中に対向車に接触して負傷した。

→通勤災害となる。

当該被災労働者が業務を終了した後、帰途につくため、就業の場所を出るまでの間、当該就業の場所内で費やした時間(1時間40分)も社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失うと認められるほど長時間であるとも認められない。

(昭和51.3.30 基収2606号)


第三者の犯罪に巻き込まれた場合

通勤災害は、「通勤による」災害に限られます。

具体的には、通勤の途中で自動車にはねられたり、駅の階段でつまずいて転落したり、有毒ガスを積んだタンクローリー車が横転し、そこから流出した有毒ガスのため急性中毒にかかったような場合が、通勤災害だといえるわけです。

原因が犯罪などにあっても、それが「通勤」そのものに内在していた原因が表面化した、と認められれば、通勤災害となります。

女性が帰宅途中にひったくりにあった事件。勤務先を退社し、自宅の最寄りの駅から400m程の道路上でハンドバッグと革袋をひったくられ、その際に転倒負傷した。

→通勤災害となる。

当該被災労働者が女性であって、大都市周辺の寂しいところに住居を有し、かつ、午後8時30分頃という時間に退勤するような場合に、その途上において「ひったくり」に出会うということは、一般に発生し得る危険であること。

また、そのような「ひったくり」の場合、本件の如く、自動車による接触事故、その他により転倒負傷することも一般にあり得ることで、異例な事象とはいえないことなどから、通勤に通常伴う危険が具体化したものと認められる。

(昭和49.3.4 基収69号)

キャバレーの勤務者が、午後11時40分頃、帰宅途中に地下街入口の階段付近の暗い所で、突然暴漢におそわれ受傷した。

→通勤災害となる。

いわゆる粗暴犯の発生が多いため、警察の該当活動強化地区として指定されている場所で災害が発生しており、かかる地域を深夜退勤する途上において「強盗」や「恐喝」等に出会い、その結果負傷することも通常考え得ることである。しかも、当該災害が被災労働者の挑発行為等、恣意的行為により生じたものではなく、また、当事者間に怨恨関係があるとする特別の事情なども見いだせないことから、通勤に通常伴う危険が具体化したものと認められる。

(昭和49.6.19 基収1276号)

逆に、同じ通勤経路で被った災害であっても、その原因が通勤とは別のところにあるもの、は通勤災害とはなりません。

もちろん、自殺や怨恨をもってケンカをしかけて負傷した場合のように、被災者本人の故意による災害などは、通勤による災害として認められません。

また、犯罪にあったのがたまたま通勤途上だったということだけならば、認められないことになります。

大阪南労基署長(オウム通勤災害)事件
最高裁 平成12.12.22 大阪高裁 平成12.6.28 大阪地裁 平成11.10.4

第三者による計画的犯罪によって起こされた災害。

宗教団体によって警察のスパイだと誤信され信者の計画的襲撃に遭い、通勤途上VX溶液をかけられ、死亡した。

一審・二審とも通勤がその犯罪にとって単なる機会を提供したに過ぎないことから、業務起因性が否定された。

最高裁はさらなる上告を受理しなかった。

通勤そのものは、犯罪に単なる機会を提供したものにすぎず、通勤に内在する危険が災害に結びついたものではない、との考え方による。

さもないと、通勤途上の犯罪行為のほとんどが通勤災害となる。通勤災害は、「通勤」に内在する危険の現実化であるという趣旨にそぐわない。


得意先の接待に行く途中の事故

「通勤」の往復行為とは、業務に就くため、あるいは業務を終えたことにより行われるものです。

得意先の接待であっても、事業主の命令を受けて行くのであれば、業務となります。

したがって、接待の場所へ行く途中の事故は、通勤災害と認められています。(昭和48.11.22 基発第644号)


マイカー通勤の場合

会社が認めていれば、当然、合理的な通勤方法といえます。

会社が、マイカー通勤を禁止している場合に、マイカー出勤途上で災害にあった場合は、「禁止」そのものだけで「合理的な方法ではない」と判断できるものではありません。

最終的に通勤途上の事故が通勤災害にあたるかどうかを判断するのは、会社ではなく労働基準監督署ですから、詳細については労働基準監督署に相談してください。

仮に会社がマイカー通勤を禁止していたとしても、その経路・方法が合理的であれば、通勤災害として認定されます。

いずれにせよ、個々のケースによって、詳細な検討が必要とされます。

他に子供を監護する者がいない共稼労働者が託児所、親せき等にあずけるためにとる経路などは、そのような立場にある労働者であれば、当然、就業のためにとらざるを得ない経路であるので、合理的な経路となると認められる。

(昭和48.11.22 基発644号)

マイカー通勤の共稼ぎの労働者で、妻の通勤先が同一の方向であって、さほど離れていなければ、2人の通勤をマイカーの相乗りで行い、妻の勤務先を経由することは、通常行われることであり、このような場合は、合理的な経路として取扱うのが妥当である。

(昭和49.3.4 基収289号)

ただし、就業規則上の服務規律違反の問題は生じます。

会社が自家用車での通勤を明確に禁止していたり、会社へ「電車通勤」と届け出て定期券の支給を受けていたりした場合は、社内規程により、何らかの処罰を受けることが考えられます。

通勤災害に認定されたからといって、会社の規律違反が消えるわけではありません。

通勤途上の病気による死亡

通勤災害として認められるかは、微妙です。

いつもの起床時刻より遅れたため、朝食も取らず通常よりも5分遅れで住居を出て、急いで自転車で約500m先の駅に向かった。

その後、被災労働者が、その駅の階段で倒れているのが発見され、急性心不全で死亡した。

→通勤災害とならない。

本件は、特に発病の原因となるような通勤による負傷又は通勤に関する突発的な出来事が具体化したものとは認められない。

(昭和50.6.9 基収4039号)


昼休みの帰宅から戻る途中の事故

通勤は1日に1回のみしか認められない、というものではなありません。

昼休み等、就業の時間の間に相当の間隔があって帰宅するような場合には、午前中の業務を終了して帰り、午後の業務に就くために出勤するものと考えられます。

このため、その往復の途上で起きた事故は通勤災害といえます(昭和48.11.22 基発第644号)。


残業用のアパートからの出勤途上の事故

通勤とは、住居と就業場所の往復のことであって、「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、就業のための拠点を指します。

早出・残業に備えて別の場所にアパートを借りている場合は、自宅とアパート双方が「住居」となります。

したがって、長時間残業したときにアパートに泊まって、翌朝そのアパートから出勤する途中事故に遭った場合は、通勤災害だといえます。(昭和48.11.22 基発第644号)


妻の勤務先経由による通勤途上の事故

マイカー通勤の共稼ぎ労働者が妻の勤務先を経由して出勤するときは、その距離によって「合理的な経路」かどうかを判断します。

一方向で400~500m程度の先であれば著しく遠回りをしたとはいえませんが、1.5km先であれば著しく遠回りをしたものといえるので、「合理的な経路」とは認められなくなります。(昭和49.8.28 基収第2169号)


帰宅途中に映画を見ての帰りの事故

帰宅の途中で映画館に寄って映画を見ることは、逸脱・中断となります。

したがって、通勤災害となりません。(昭和48.11.22 基発第644号)


業務後のサークル活動後の帰宅

終業後、事業場施設内で、囲碁・麻雀・サークル活動を行ったり、労働組合の会合に出席した後に帰宅するような場合についても、就業との関連性を認めても差し支えないとされています。

ただし、それらが社会通念上「就業」「帰宅」ともに直接的な関連を失わせると認められるほど長時間に渡る場合は除かれます。


クリーニング店に立ち寄って帰る途中の事故

「日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合」は、その後、合理的な経路に戻った場合に限って、例外的に通勤と認めることとされています。

したがって、クリーニング店に立ち寄り、その後、通常の通勤経路に戻った場合において事故に遭ったときは、通勤災害として取り扱います。(昭和48.11.22 基発第644号)

ただし、通勤災害となるのは、通勤途上だけですから、中断中の事故(この例では、クリーニング店内での事故)は通勤災害として認められないので、注意してください。


理髪店に立ち寄って帰る途中の事故

「日常生活上必要な行為」に該当するとされているので、通勤災害として取り扱われます。(昭和58.8.2 基発第420号)


喫茶店でコーヒーを飲み、40分程過ごして帰る場合の事故

「日常生活上必要な行為」に該当するとは認められないので、通勤災害となりません。(昭和49.11.15 基収第1867号)


飲酒後の事故

自動車、自転車等を泥酔して運転する場合には、合理的な方法と認められないことになり、通勤災害とされません。(昭和48.11.22 基発644号)

ただし、軽い飲酒運転の場合・・・必ずしも、合理性を欠くものとして取り扱う必要はない(同通達)ともされています。

もっとも、こうした事案に対する解釈は、厳しくなりつつありますから、認められない可能性は大きくなっていると思われます。

また、「重大な過失」として、労災保険法12条の2の2により、保険給付の一部が減額されることもあり得ます。


単身赴任者の自宅往復行為

高山労基署長(通勤災害)事件 岐阜地裁 平成17.4.21

自家用車で家族の住む帰省先住宅から単身赴任先住居に向かう途中、事故によって死亡。平日は営業所に居住し、週末は自宅に帰宅するという生活だった。

災害は通勤によるものであるとして、遺族が遺族給付及び葬祭給付の請求をしたところ、本件死亡は、通勤によるものではないとして、いずれも支給しない旨の処分をしたことから、遺族がこれらの処分の取消を求めた事案。

裁判所は、本件事故は、被災者が就業に関して週末帰宅型通勤を行っていた途上に発生したものというべきであり、通勤災害に該当するから、これを通勤災害に該当しないと判断した本件処分は違法であるとし、請求を認容した。

能代労基署長(日動建設)事件 秋田地裁 平成12.11.10

単身赴任者の週末帰宅型通勤の事案。

単身赴任者の就業場所と家族の住む自宅との間の往復行為に反復・継続性が認められれば、自宅を「住居」として取り扱うという通達(平成7.2.1 基発39号)を前提に、通勤災害と認定した。

単身赴任先に移動中の事故も労災 通勤時の補償拡大

厚生労働省は14日、労災保険による通勤災害への補償範囲を見直し、複数の勤務先を持つ場合の事業所間と、単身赴任先の住居と家族の住む留守宅との移動を対象に加える方針を固めた。

秋からの労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の審議を経て、来年の通常国会に労災保険法改正案を提出する。

移動中に交通事故に遭った場合などに労災保険で補償される通勤災害の範囲は現在、自宅と勤務先との往復に限られている。

主たる勤務先と副業先との間の移動や、単身赴任先の住居と留守宅の移動は補償の対象外だ。

企業の副業解禁や短時間雇用の増加により、本業と副業の「二重就職者」は87年の55万人から02年には81万5,000人に増えている(総務省調べ)。

また、2つの事業所間の移動について、二重就職者の30%が「毎回直行」、16%が「直行することの方が多い」と答えている(01年、三和総研調べ)。

単身赴任者についても87年の41万9,000人から02年には71万5,000人と増加傾向にある(総務省調べ、男性のみ)。

単身赴任者の帰省は「ほぼ毎週」「月2、3回」「月1回」がほぼ3割ずつだった(01年、産労総合研究所調べ)。

これらを踏まえ、厚労省の「労災保険制度の在り方に関する研究会」(座長・島田陽一早稲田大教授)は、いずれも勤務のために必要な移動であり、反復継続性があって移動の認定が比較的容易なことなどから、通勤災害の対象に加えることで合意した。

今後、一方の勤務先の終業後から他方の勤務先の始業までの「時間つぶし」や、仕事以外の用事のために単身赴任先に早く戻った場合などについて、一般の通勤の場合の通勤の「逸脱・中断」の見直しと並行して検討を進める。

(asahi.com 2004.6.15)


ページの先頭へ