労働災害の認定基準

出張中の事故

出張期間中は会社の用務を遂行していることになりますから、ホテルに宿泊することも、バスに乗ることも、会社の用務遂行の一部です。

したがって、原則、出張中の全期間が会社の支配下にあると考えてもよいことになります。

出張先のホテルの食事で食中毒になったり、階段で転落して負傷したり、ホテルが火災になって焼死したりした場合には、いずれにも出張に伴う危険が現実化したものとして、相当因果関係が認められ、業務災害になります。

ただし、出張中であっても、業務遂行性・業務起因性が認められない場合は、業務災害となりません。

出張期間中に余裕をつくり仕事とは関係のない観光地に寄ったり、通常の出張経路を変えて名勝見物したりすれば、その間は出張の中断と考えられ、ここで起こった災害は業務災害には該当しません。

松本労基署長(セイコーエプソン)事件 東京高裁 平成20.5.22

海外出張から帰国後、東京都内に出張した際、宿泊先のホテルでくも膜下出血を発症し死亡。

一審は、業務に起因するものに該当しないとして労災保険法に基づく保険給付を不支給としていた。

裁判所の判断

二審では、発症前1ヶ月ないし6ヶ月間にわたっての1ヶ月当たりの時間外労働時間数はいずれも30時間未満であり、その他の労働環境や生活環境などの点をみても、心身に特に大きな負荷があったとはうかがわれないが、通算10回、出張機関が合計183日になる海外出張での業務は、精神的、肉体的に疲労を蓄積させるものであるとした。

本人の基礎的な血管病態が、くも膜下出血が発症する状態まで増悪していたとみるのは困難であり、業務が過重な精神的、身体的負荷を与え、くも膜下出血が発症したもので、その発祥と業務との間に相当因果関係があるとされた。

よって、一審の不支給とした処分は違法として取り消されるべきとした。


出張先での行動

出張の際に現地での慰労・懇親の意味を含めて飲食行為を行うことがありますが、これらの行為も、一般的には業務に通常伴うものと考えられています。

したがって、それと連動して事故が起こったものであれば、労災が認められる可能性があります。

もちろん、著しく業務から逸脱した行為や、業務と全く関連のない私的行為の場合は、労災が認定されないことになります。

大分労基署長(大分放送)事件 福岡高裁 平成5.4.28

出張先で業務終了後、同行者と飲酒を伴う夕食をとった後、宿泊施設内で転倒し、4週間後に急性硬膜外血腫で死亡した。

遺族は労災を申請したが、労基署はこれを認めず、審査請求・再審査請求も棄却。

一審の判断

飲酒による酩酊が原因であるとして、業務起因性を否定した。

二審の判断

福岡高裁は、「業務とまったく関連のない私的行為や恣意的行為ないし業務遂行から逸脱した行為によって自ら招来した事故」ではないので、業務起因性は否定できないと判断し、労災法上の業務上の死亡であるとしている。

社内バレーボール大会で社員がケガをした場合(運動競技等への参加)

下記、6項目のすべてが満たされていれば、業務上災害です。

  1. 事業主が主催していること
  2. 定期的に実施されるものであること
  3. 労働者を出席させることが、労働管理のために効果があると認められること
  4. 「業務命令」による全員参加が建前であること
  5. 出場については通常どおりの出席と同様に扱われ、出場しないものには、何らかの措置がとられること
  6. 当日の賃金が支払われること

地公災基金岡山県支部長(倉敷市職員)事件
最高裁 平成6.5.16 広島高裁岡山支部 平成2.10.16 岡山地裁 昭和63.12.21

市主催のソフトボール大会(公務)に参加した市職員(35歳)が、試合終了直後に急性心筋梗塞を発症して死亡した事案。

一審の判断

ソフトボールの負担が、心筋梗塞を生じさせたと認めるには至らない。

二審の判断

日頃スポーツに親しんでいなかった当人が、準備運動もすることなく参加し、ベース上を走ったことは、肉体的に相当の負担であり、心筋梗塞発症の要因となりうるものであった。

定期健診の結果で動脈硬化の疑いがあったが軽度であり、心筋梗塞による死亡とソフトボール参加との間には蓋然性がある。

したがって、ソフトボール参加が死亡原因の一つとして認めるのが相当である。

最高裁の判断

当該市職員の急性心筋梗塞について、最初の発症の時刻と当人が短時間内に走行して心臓に多量の酸素を必要とする行為をした時刻との時間的間隔からすると、本件試合における上記行為が当人の急性心筋梗塞の発症の原因となったことは否定できず、他に有力な原因がないことからして、急性心筋梗塞による死亡と本件試合への参加行為との間に相当因果関係を肯定することができ、当該市職員の死亡は地方公務員災害補償法にいう公務上の死亡に当たる 。

地公災基金愛知県支部長(瑞鳳小学校)事件(差戻後上告審)
最高裁 平成12.4.21 名古屋高裁 平成10.3.31

教師が、小学校の課外活動のポートボールの練習試合の審判中に脳内出血で倒れ、入院後死亡。

二審は、因果関係を認めた一審判決を否定し、本人の死亡と公務とは無関係であるとした。

最高裁も、この二審の判断を支持し、不支給処分は違法ではないと判断した。

小樽(旧倶知安)労基署長(喜茂別生コン)事件
最高裁 昭和61.10.2 札幌高裁 昭和59.2.22 札幌地裁 昭和56.11.27

生コン会社に雇用される従業員が、会社主催の社員親睦ソフトボール大会の参加中、衝突・転倒したりした。その後、脳出血で死亡。

一審の判断

業務起因性を否定。

ソフトボールと脳出血との相当因果関係を認められない。

二審判断

業務起因性を否定

最高裁の判断

原判決を支持

大会への出場が事業主の「積極的特命」によるかどうかが、業務上かどうかを判断するキーポイントです。

行政解釈は、下表の通りです。

(1) 運動競技会に労働者を出場させることが、事業の運営に社会通念上必要と認められること(たとえば、企業主主催のもとに定例的に実施され、労務管理上の効果が一般的に認められる)
(2) 出場が事業主の積極的特命に基づくものであること(出張命令が出され、旅費が支払われる。通常の出勤として扱われる)といった要件が判断の基準とされています。

明確な業務命令がない場合でも、労働者側では強い拘束感をもって参加することが多いので、こういったことも考慮する必要があるといえます。


「土帰月来」の別居者に対する、現場手配のレンタカー利用中の災害

ただし、「車による事故」のため、第三者が介入していれば全員が、また、自損事故であれば運転手を除いて、それぞれ自賠責保険の対象になります。

  1. 運転手で賃金が支払われている・・・業務上災害
  2. その他・・・通勤災害あるいは私傷病の扱い(ただし、道交法優先)

工事反対の地域住民から暴行を受けた場合

  1. 無抵抗である場合・・・業務上災害
  2. 口論の末ケンカ・・・私傷病

接待中の事故

接待行為に業務遂行性が認められるかがポイントですが、単に付き合い程度の場合は、認められません。

労災に認定されるためには、次の基準から「業務遂行性がある」と判断されることが必要です。

  1. 会社と取引先の取引の状況
  2. これまでの接待の慣行
  3. 事業主の命令の態様
  4. 経費の負担などを考慮し、接待の必要性や接待をする格別の理由が存在するかどうか

質問:

ある建設会社が支店を作り、支店に関係者を呼びパーティをしました。

その「二次会」としてスナックへ行き、接待。

その際、建設会社の社員Hさんがスナックの階段から転倒して入院という羽目になりました。

Hさんに労災は適用されますか?

回答:

会社主催のパーティと違って、「二次会」への参加が業務遂行性(事業主の支配下にあるかどうか)があるとして認められる可能性はかなり少ないといわざるを得ません。

ただし、業務命令で接待することになっていれば、仕事の延長として見なされることもあるでしょう。

もっともHさんが、相当量の飲酒のせいで酩酊状態であったとすれば労災は難しいでしょう。


他人の暴力により負傷

業務に関連し、あるいは業務にまつわる私怨等による、各々の相互間に、暴力による災害が生じ、また、外部の第三者から業務に関連して暴力を加えられたときなど、いずれの場合も、直接の原因は「他人の故意」にあるので、一般的には業務起因性はありません。

ただし、災害の原因が業務にあって、その災害との間に相当因果関係が認められる場合は「多難の故意」が競合していても業務起因性があることになります。

新潟労基署長(中野建設工業)事件 新潟地裁 平成15.7.25

建設会社の出張所課長が、作業現場で部下の作業態度が悪かったことから、予定にない砕石の敷きならし作業を命じたところ、これに不満な部下が反抗し、言い合いの中、部下から背中を蹴られて約1か月の加療を要する傷害を受けた。労災申請をしたが労基署は認めなかった。

裁判所の判断

業務起因性がある。

本件暴行は原告の仕事上の指示、注意という業務に関連し、時間的・場所的に極めて近接したところで行われていることから、その業務に内在または随伴する危険が現実化して発生したものと認められ、業務起因性がある。

川義事件
最高裁 昭和59.4.10 名古屋高裁 昭和57.10.27 名古屋地裁 昭和56.9.28

繊維製品の卸売り会社の新入社員が夜間の宿直中、反物を窃取する目的で社屋を訪れた元従業員によって殺害された。

一審の判断

損害賠償請求を肯定した。ただし、過失相殺3.5割を認めた。

二審の判断

一審を支持。過失割合は1対3として、総額1,637万円(慰謝料375万円)を認容。

最高裁の判断

二審の判断を支持。

安全配慮義務が会社側にあることを認め、使用者には「宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかも知れない危害を免れることができるような物的施設(※のぞき窓、インターホン、防犯チェーン等)を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなど」の配慮をする義務がある、とした。

この不履行があったので事故が発生したということができ、会社は、損害賠償を負う義務がある。


作業員が作業中にぎっくり腰になった場合

次の場合は、業務上災害と認められます。

(1) 負傷または通常の動作と異なった突発的な出来事が、発症の原因として明らかであること
(2) 局所(疾病の発症部)に作用した力が、発症の原因として医学常識上認められること
(3) 「重量物を取り扱う業務」「腰部に過度の負担を与える不自然な作業姿勢により行う業務」「その他腰部に過度の負担がかかる業務」による腰痛

※ぎっくり腰が発症したときは、当該作業の内容・従事期間や発症したときの状態など具体的な判断を労基署で仰いだ方がよいでしょう。


ガードマンの材料検収中のケガ

次の場合は、業務上災害と認められます。

(1) 本来の自分の業務でないものについても、事業主の特別な業務命令があった場合
(2) 労働者の本来の業務でもなく、また特別の命令もない場合であっても、
(1)警備会社との契約中に「材料検収」がある場合、
(2)警備会社との契約中に「材料検収」がない場合でも、現場サイドの指示があった場合

ただし、たまたま関係者と懇意にしていて、手伝ったというような場合は、認められません。


入社前研修中の内定者のケガ

研修中の内定者といえど、労働契約関係にあったと見なされます。ケガの危険が予見される実習などの場合、当然、安全配慮義務があり、会社は責任を負うことになります。

ただし、本人の過失相殺や労災保険給付の控除もありえます。

NTT東日本北海道支店事件 札幌地裁 平成17.3.9

定期健康診断で異常を指摘され心臓の手術を受けた従業員が、宿泊を伴う研修に参加させられ。終了後、急性心不全で死亡。

妻らが、会社の安全配慮義務違反を指摘して、総額7174万余円の損害賠償を請求。

裁判所は、総額6628万余円(逸失利益3086万余円、慰謝料2800万円、葬儀費用141万円、弁護士費用600万円)の賠償責任を認めた。


脳血管疾患等

厚生労働省から「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準について」(平成13.12.12 基発第1063号)という通達が出ています。

ここでは、次の場合には業務災害と判断するという基準が示されました。

(1) 発症直前から前日までの間に業務に関して異常な出来事があった場合
(2) 発症前おおむね1週間以内に特に過重な業務に従事した場合
(3) 長期間の過重労働により疲労が蓄積した場合(この場合の評価期間は発症前の6か月以内とされています)

また、「発症前概ね6か月より前の業務については、疲労の蓄積に係る業務の過重性を評価するに当たり、付加的要因として考慮すること」と示されています。

関連事項:過労死

水戸労基署長(茨城新聞社)事件 東京高裁 平成13.1.23 水戸地裁 平成11.3.24

新聞社の編集者。退社後自宅で高血圧性脳出血で死亡。

発症前の数か月間、時間外労働が100時間を超えることが多く、特に62年10月以降は83日間無休で出勤した。高血圧症であることは認識していたが、入院治療せず、降圧剤も十分服用しなかった。

一審の判断

業務と発症との間の相当因果関係を認めた。

本件発症は、業務によってもたらされた肉体的・精神的疲労の蓄積に基づく血圧の上昇によって生じたものであると認められ、本件発症と業務との条件関係を肯定することができる。

仕事に優先して治療・服薬が不十分であったことは、出版センターの業務全般に支障が生じる可能性があったことに鑑みると、業務自体に起因したというべきである。

二審判断

処分の取消を認めた。

本件発症は、過重労働が高血圧と並んで、基礎疾患を自然の経過を超えて増悪させた結果、生じたとみることができる。高血圧が継続したのも、業務のために治療の機会を失ったことに起因するものである。

よって、労働基準法施行規則35条、別表第1の2第9号にいう「その他業務に起因することの明かな疾病」にあたる。

西宮労基署長(大阪淡路交通)事件
最高裁 平成12.7.17 大阪高裁 平成9.12.25 神戸地裁 平成8.9.27

スキーバス運転手(51歳)が、運転中に左手のしびれを発症し、高血圧性脳出血と診断され、左半身麻痺となった。

一審の判断

長時間寒冷に曝露されたことなど、業務の過重付加があり、それによって過激な血圧上昇が繰り返され、基礎疾患である高血圧症が自然的経過を超えて増悪し発症に至った。業務と本件疾病との間には相当因果関係があるとして、療養保障の不支給処分を取り消した。

二審の判断

一審の判断を維持。

本件発症時、自動車運転業務中に同業務によりたまたま生じた一過性の血圧上昇を原因(引き金)として、それまでに形成されていた脳内小動脈瘤が破裂して発症に至ったものと認められるとした。

上告審

原審を支持。業務との相当因果関係を是認。

昭和郵便局事件
最高裁 平成8.1.23 名古屋高裁 平成4.3.17 名古屋地裁 平成1.10.6

郵便局副所長の職にあった者(50歳)が、夜勤従事中の夕食外出時に脳出血で倒れ、翌朝死亡した。当事者は高血圧症を有していた。職場な業務機械化と局間集中化の進行中であった。

一審の判断

公務起因性を認めた。

職務による負担で疲労が蓄積し、ストレスが頂点に達したが、疲労回復の機会を失ったまま従前の職務を継続していた。

職務と身体的要素が共同原因となって、脳出血を起こした。

最高裁・二審の判断

公務起因性を否定した。

肉体的、精神的に過重労働はなかった。血圧のコントロール不良による高血圧症の増悪に起因するものである。


呼吸器系疾患と業務との関係

佐伯労基署長(アーク溶接)事件
最高裁 平成11.10.12 福岡高裁 平成6.11.30 大分地裁 平成3.3.19

アーク溶接従事者が、じん肺検査を受けていたところ、肺ガンにより死亡した。業務起因性が考えられるとして遺族が提訴。

一審の判断

業務上の疾病であるとした。

肺ガンがじん肺と関連性を有しないとする特別の事情が認められない限り、その肺ガンはじん肺に起因して発生したと肯定できる。

二審の判断

一審判決を取消

じん肺と肺ガンとの関連については、未だ両者の因果関係を肯定する医学的状況にはない。業務起因性は認められない。

最高裁の判断

二審の判決を維持


自宅での仕事

実際に業務量などを算出し証明するのは簡単ではありませんが、事実を立証できれば労災認定されます。

質問:

仕事量が多くノルマが果たせないため、自宅に持ち帰り毎晩遅くまで作業していたJさんは、偏頭痛、手のしびれ、眼精疲労に悩まされています。

「本人の勝手な判断で持ち帰り残業をしていたのであって、やれと言ったのではない」と会社は主張しています。

回答:

持ち帰り残業を会社が支持したか否かで、労災の是非が決まるわけではありません。あくまで、Jさん自身がどれだけ業務を行ったかという実態が判断材料になります。

自宅での作業時間や業務内容、業務量等を労基署に報告しましょう。


会社には電車通勤といいながら、バイク通勤していて事故に遭った

会社側がオートバイ通勤を黙認しており、かつ通勤手段として合理的であれば請求できます。

通勤災害で申請するか、自賠責で進めるかは自由です。自賠責を優先させる場合も、労基署には第三者行為災害届を提出します。自賠責では、特別支給金(給付日額の20%)は調整されません。


その他、「業務上」とされたケース

  • 負傷した同僚労働者の付添いとして、自動車で病院に行く途中の交通事故
  • 作業中にトイレに行く途中の事故
  • 風で飛ばされた帽子を拾おうとして、反射的に飛び出し、自動車にはねられた交通事故
  • 断崖絶壁の石切現場で、水汲みに行って転落したことによる負傷
  • 事業場の給食による食中毒
  • 暴風雨により労働者宿舎が流出したことによる負傷
  • 自宅から自動車で出張先へ行く途中の事故
  • 突発事故のため、使用者の呼び出しを受けて休日出勤する途中の事故

大館労基署長(四戸電気工事店)事件
最高裁 平成9.4.25 秋田高裁秋田支部 平成6.6.27 秋田地裁 平成3.2.1

配電工として電柱の建替工事、電線の架線工事に従事していた39歳の労働者。事故で古電柱(約150kg)が自分の近くに落下し、顔に軽度の負傷をした。

その2日後、非外傷性の脳血管疾患を発症し、翌日に死亡。

一審の判断

本件発症は、作業中の受傷により基礎疾病が増悪して発症した蓋然性が高いとした。

二審の判断

高血圧の基礎疾患を持っていた可能性が高く、死亡は業務によるものとはいえないと判断した。

最高裁の判断

事故の態様から「相当に強い恐怖、驚がくをもたらす突発的で異常な事態」であり、また、当該労働者は事故後も、厳冬期に地上約10mの電柱上で電気供給工事作業に従事していたことから、「死亡原因となった非外傷性の脳血管疾患は、他に確たる発症因子のあったことがうかがわれない以上、同人の有していた基礎疾患等が業務上遭遇した本件事故及びその後の業務の遂行によってその自然の経過を超えて急激に悪化したことによって発症したとみるのが相当であり、その間に相当因果関係の存在を肯定することができる」として、業務起因性を肯定した。


その他、「業務上ではない」、とされたケース

  • 泥酔して、トラックから転落した運転手の事故
  • 顔見知りの他人に自動車を運転させて生じた事故
  • 顔見知りの労働者の作業を手伝って生じた事故
  • 夕食のため外出し、工事現場に戻る途中に生じた事故

レンゴー事件 最高裁 平成13.2.22

勤務中クモ膜下出血により従業員が死亡した。

この業務起因性が認められ、不支給処分が取り消されると、労働保険料が増額されるおそれがあるため、第三者として会社が補助参加(民事訴訟法43条)を申し出た。

最高裁は、労基署長の敗訴を防ぐために、取消訴訟に補助参加することが許されるとして、原審を破棄し、差し戻した。


石綿健康被害の労災認定1,002件 平成26年度

厚生労働省は、平成26年度の「アスベスト(石綿)による健康被害(中皮腫・肺がん)」の労災保険請求件数は1,095件(前年度比1.8%減)、そのうち認定された件数は1,002件(前年度比0.5%減)にのぼると発表した。

また、石綿救済法に基づく特別遺族給付金の請求件数は36件(同10.0%減)、支給決定件数は20件(同16.7%減)となっている。

(平成27.6.19速報値)

厚生労働省、過労死の認定基準を発表

勤務:発症前の半年で判断
残業:月平均80時間が目安

厚生労働省は、長時間労働などが引き起こす過労死の労災認定基準を発表した。

勤務状態との因果関係を判断する期間を「発症前6カ月」まで拡大させ、疲労の蓄積の要因となる残業時間の目安として「発症前1カ月間に100時間以上、あるいは月平均80時間以上」としている。

長期間の過重労働やストレスに伴う慢性的な疲労が誘因となる過労死について、「長期間にわたる疲労の蓄積が血管病変などを著しく悪化させ、脳・心臓疾患を発病させる」と因果関係を認め、「発症前6か月間の就労状態を具体的かつ客観的に考察するのが妥当」と結論づけた。

具体的には、疲労の蓄積で最も重要な要因として労働時間に着目。発症前1か月間に100時間以上の残業をした場合のほか、発症前2か月から6か月間の期間のいずれかで1か月当たり平均80時間以上の残業が認められれば、「業務との関連性は強い」と判断される。

「心の病」労災自殺、最多の99人 (2014年度)

職場でのストレスが原因でうつ病などの精神疾患になったとして、2014年度に労災認定を受けた人が497人(前年度比61人増)に上ることが、厚生労働省のまとめで分かった。

このうち、過労自殺(未遂も含む)は99人。1983年度の調査開始以降、最多となった。同省では、「精神疾患での労災に対する社会的関心が高まり、認定基準も明確化されたことが影響したのでは」と分析している。

労災認定者を業種別にみると、トラック運転手などの「道路貨物運送業」が最多の41人で、「社会保険・社会福祉・介護事業」が32人、「医療業」が27人と続いた。

自殺・自殺未遂者の内訳は、男性97人、女性2人。原因とみられる出来事は、「仕事の内容や量に変化があった」(20人)、「1ヶ月に80時間以上の時間外労働を行った」(13人)のほか、「会社の経営に影響するなどの重大なミスをした」(9人)、「顧客や取引先からのクレーム」(6人)などもあった。

一方、過重労働が原因で脳や心臓の病気にかかり、労災認定された人は277人。このうち過労死は121人で、13年連続で100人を超えた。志望者は40歳代が最も多く42人。ついで50歳代も40人で、中高年が目立った。

(Yomiuri on line 2015.6.26)

「パワハラ」で労災認定、上司しっ責で自殺の営業所長

東証1部上場の道路工事会社「前田道路」(本社・東京)の愛媛県内の営業所長だった男性(当時43歳)が昨年9月に自殺したのは、上司からしっ責され続け、心理的な圧迫を受けたことが原因などとして、新居浜労働基準監督署は労災と認定し、27日、妻の岩崎洋子さん(43)(松山市)に通知した。

弁護団は「パワーハラスメント(職権による人権侵害)が原因と認められた異例のケース」としている。

弁護団によると、男性は2003年4月に営業所長になったが、昨年7月ごろから、契約料を発注元から減額されるなどして売り上げ目標が達成できず、四国支店(高松市)に呼び出され上司に厳しくしっ責された。

昨年8月には、下請け工事代金が滞ったため、家の預金から150万円を引き出して業者に支払った。

しかし、営業成績は不振が続き、上司から「所長として能力がない」と約2時間責められるなどしたため、うつ病になったという。

同年9月になってもしっ責は続き、休日明けの13日に、「怒られるのも言い訳するのもつかれました」などとの遺書を残し、営業所敷地内で首をつり自殺した。

(Yomiuri on line 2005.10.27)

医師の自殺、労災と認定 「過重な勤務と心労が原因」

勤務医だった息子(当時29)が自殺したのは病院での過重な勤務と心労が原因だったとして、父親(75)=東京都江戸川区=が、茨城県の土浦労働基準監督署長を相手取り、遺族補償給付の不支給処分取り消しを求めた訴訟の判決が22日、水戸地裁であった。

松本光一郎裁判長は原告側の主張を認め、労基署長に処分の取り消しを命じた。原告側代理人によると、医師の自殺が裁判で労災認定されるのは初めて。

訴えによると、医師は89年10月から外科医として土浦市内の病院に勤務。92年4月に都内の病院に転勤した直後、薬物自殺した。土浦時代は、週2回の外来診療や平日平均1人の外科手術を担当。当直や日直もし、急患の診療も担っていた。転勤までの30か月間の平均休日は月1日。毎月の時間外労働時間が100時間を超えたという。

裁判で原告側は、遺書に「毎日の生活に心や体も疲れ、精神的にまいってしまい、休息したい」と書き残されていたことなどを指摘し「激務による心身への負担が睡眠障害となり、不眠による精神疾患が原因で自殺した」と主張。

被告側は「業務は通常の精神的負担」とし、自殺との因果関係を否定していた。

(asahi.com 2005.2.22)

過労死遺族と合意

ファミリーレストラン大手「すかいらーく」は13日、契約店長だった埼玉県加須市の前沢隆之さん(当時32歳)が2007年10月に過労死した問題を受け、契約店長55人に計1746万7126円の未払い残業代を支払うことで前沢さんの遺族と合意した。

合意書などによると、支払われるのは過去2年分の未払い残業代。これとは別に、前沢さんの分は06年3月~07年9月で122万3788円に上る。遺族が「会社に申告していない長時間残業が過労死の原因だった」として、契約店長全員の適正な労働時間管理と未払い残業代の支払いを求め、同社と交渉していた。

合意書ではまた、同社が過労死の責任を認め、遺族に謝罪。前沢さんは1年契約の契約店長だったが、正社員並みの損害賠償金を支払うとしている。

母親の笑美子さん(60)は「過労死という言葉がなくなるよう再発防止を徹底してほしい」と訴えた。同社は「契約店長の勤怠を把握していなかったのは遺憾だが事実。さらなる労務管理に努めたい」とコメントした。

前沢さんは契約店長になった06年3月以降に残業が増え、07年10月に脳出血で死亡。埼玉・春日部労働基準監督署が08年6月、長時間労働による過労が原因として労災認定した。

(Yomiuri on line 2009.5.14)

立川労基署長(東京湾運送)事件 東京高裁 平成16.12.16

運送業等を営む会社の運転手が、業務に起因して積荷の荷下ろし業務従事中に急性心不全を発症して死亡した。

遺族らは、遺族補償年金及び葬祭料の支給を請求したところ、不支給処分を受けた。

裁判所は、死亡当日の業務は過重な負荷を与えるものであって、その結果、基礎疾患である冠動脈硬化の自然の経過を超えて急性心筋梗塞又は心筋虚血に伴う致死性不整脈を発症させ死亡に至らしめたとみるのが相当であるとして、本件発症は、業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとみることができるから、業務起因性がある、とした。

岡山労基署長(東和タクシー)事件 広島高裁岡山支部 平成16.12.9

タクシー運転手がタクシー車内で虚血性心疾患に罹患して死亡したのは業務に起因するものであるとして、遺族が申し立てた遺族補償年金及び葬祭料の支給の不支給処分に対し、処分の取消を請求した。

裁判所は、運転手には喫煙の習慣、高血圧、高脂血症という3大因子を含めて虚血性心疾患を発症させる因子が複数存在している。

相当長時間の業務に従事していた中で、死亡前の13営業日のうち、11日間は1日あたりの拘束時間が当時労働省が定めていた自動車運転者の労働条件の最低基準を上回る時間であり、1か月の合計でも同最低基準を20時間以上超える拘束時間がある中で業務を行っていたこと、そもそも所定時間が長時間で夜間や深夜に及ぶ上に、事故を起こさないようになど、常に緊張を強いられていたものであったことを総合すると、死亡前の業務は身体的精神的に過重なものであったと認められ、この過重な労働による疲労及び厳冬期の厳しい寒さによって基礎疾患が自然的経過を超えて急激に悪化し心筋梗塞を発症させて死に至らしめたとした。

新宿労基署長(映画撮影技師)事件 東京高裁 平成14.7.11 東京地裁 平成13.1.25

カメラマンが撮影先の旅館で脳梗塞により死亡。家族が遺族補償を求めたが、労基署は労働者でないという理由で不支給処分とした。

一審の判断

労働者性を否定。

仕事の諾否の制約、時間的・場所的拘束などがあるが、これは仕事の性質・特殊性に伴う当然のものであり、撮影業務遂行上に相当程度の裁量があり、使用者による指揮監督があったとは認めがたい。

二審の判断

労働者だと認めた。業務起因性については、判断を留保した。

専属性は低く、就業規則の適用もなく、報酬も事業所得として申告されているが、監督の指揮監督の下に業務が行われ、報酬も労務提供機関を基準にして算定して支払われる。個々の仕事の諾否の自由が制限され、時間的・場所的拘束性も高い。機材もプロダクションのものを使用している。

フリー映画カメラマンの労災認定 東京高裁が逆転判決

労災認定をめぐり、ロケ中に死亡したフリーの映画カメラマンが労働基準法上の「労働者」にあたるかどうかが争われた訴訟の控訴審判決が11日あった。

東京高裁の石垣君雄裁判長は「制作者側と使用従属関係があり、労災保険の支給を受けられる労働者にあたる」と判断。

遺族の請求を退けた一審・東京地裁判決を取り消し、不支給とした新宿労基署長の決定を取り消した。

遺族側代理人の弁護士は「フリー契約が多い芸能分野で正社員でない人を労働者と認めた初判決で、意義は大きい」と話している。

訴えていたのは、故勅使河原宏監督の「砂の女」(64年)の撮影などで知られる瀬川浩さん(当時59)の遺族。

瀬川さんは86年2月、秋田県でドキュメンタリー映画のロケ中、脳梗塞(こうそく)のため死亡した。

今回の判決が確定すると、労基署は改めて業務が死亡原因だったかどうかの判断を迫られる。

判決は、(1)映画制作は監督の指揮・監督の下で行われた(2)時間、場所の拘束性が強く、撮影機材もほとんど制作者側のものだった――などと指摘し、労働者としての性格を認めた。

一審判決は、カメラマンに職務遂行上の裁量があり、使用従属関係はないと判断していた。

(asahi.com 2002.7.12)

質問:

10数年前からてんかんの既往があり通院しているLさんが、工務店で勤務中発作を起こし、立てかけてあった角材に顔面をぶつけて左目を失明してしまいました。

Lさんは労災の適用となりますか?

回答:

Lさんが適切な治療を行っていても発作を完全に防げるわけではありません。

まず、発作以前のLさんの就労状況を確認しましょう。

「仕事が繁忙で疲労が蓄積していた」など、発作を誘引する原因の有無を検証してください。

また、工務店の被災現場の検証も大切です。

「資材や工具が常時積み置かれている」など、職場に危険要因が潜在していれば、業務起因性が認められやすくなります。

質問:

2001年12月針刺し事故を起こした看護婦のKさんは、2003年4月検診でB型肝炎に感染していることがわかりました。

Kさんは事故に時点で労災申請すべきだったのでしょうか?

回答:

まず事故が起きたときには、医療機関にそのことをすぐ報告し、肝炎発症を防ぐガンマグロブリンの注射を打ってもらった上で迅速に労災申請を行うことになります。

その後は定期的に経過観察(ex.事故後3か月までは2週間ごと、その後は1か月ごとに1年程度)を受け、発症の早期発見に努めてください。

妻、夫の無念訴え続け10年 救助中死亡の運転手に労災認定

岐阜県大垣市の国道で平成10年3月、トレーラー運転中に交通事故現場に遭遇、救命作業中に後続の車に追突され死亡した同県各務原市の男性=当時(33)=に労災が適用されないのは不当として、妻(44)が遺族補償年金などの不支給処分の取り消しを国に求めた訴訟の判決で、名古屋地裁(遠藤俊郎裁判官)は16日、労災と認定して不支給処分を取り消した。

妻は、「助けを求めている人がいるのに見て見ぬふりをして通過しろと言うのか。世の中の常識から懸け離れている」として、昨年提訴に踏み切った。遠藤裁判官は判決理由で「事故車の同乗者からの要請を受けての救助行為は、長時間の自動車運転を行う労働者が業務上当然なすことが予想される行為」と指摘。「業務遂行中の災害と認めるのが相当」と述べた。

(asahi.com 2008.9.16)

大阪中央労基署長(おかざき)事件 大阪地裁 平成15.10.29

会社専務が、営業車で北陸へ出張に出かけたところ、宿泊先のホテルで急性循環不全で死亡。

家族は遺族補償を請求したが、労基署は労働者ではないとして、不支給決定した。

裁判所の判断

専務取締役であった被災者は「労働者」に該当する。

専務就任までの18年間は営業担当の労働者であったことが明らかだが、就任後も業務内容に格別変化がない。

小売業を回って注文を取る、商品の出荷作業に従事する、事務所等の清掃も行うことがあり、他の従業員同様に社長から叱責を受けることもあった。

これを否定し、労災保険法の適用がないことを理由とした本件遺族補償給付等の不支給処分は違法。

裁判所としては、業務起因性の有無について認定、判断を留保し、本件処分を違法として取り消す。


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