心の病気と労働災害

精神障害者の労災補償状況

区分 件数 平成20 平成21 平成22 平成23 平成24 平成25 平成26
精神障害等 請求件数 927 1136 1181 1272 1257 1409 1456
認定件数 269 234 308 325 475 436 497
うち自殺
(未遂を
含む)
請求件数 148 157 171 202 169 177 213
認定件数 66 63 65 66 93 63 99

「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」(平成26年度 厚生労働省)

過労で心の病、最多269人 08年度の労災認定

過労が原因でうつ病などの心の病になり、2008年度に労災認定された人が前年度より1人多い269人に達し、3年連続で過去最多を更新したことが8日、厚生労働省のまとめで分かった。うち66人は過労自殺(未遂含む)と認定され、前年度より15人減ったが過去2番目の高水準。過労死も158人と過去2番目に多かった。

同省は「景気悪化の影響で競争が激化するなどしており、労働者の職場環境は依然として厳しい」と分析。「過労自殺、過労死は高止まりの状態が続いており、企業などへの指導を徹底したい」としている。

08年度の精神障害の労災申請は927人。認定された269人を年代別にみると、30代が74人と最多。20代70人、40代69人で働き盛り世代が目立った。業種別では製造業、卸売・小売業、医療・福祉などが多かった。

(NIKKEI NET 2008.6.8)

労災認定者の7割、自殺前に医者に行かず・・・厚労省報告

仕事による過労やストレスで自殺し、労災認定された人の約7割が、自殺前に精神疾患に関する医療機関で受診していなかったことが、厚生労働省の委託の研究報告で分かった。

自殺で労災認定された人はうつ病など何らかの精神障害を発症したとされるが、多くの人が適切な治療を受けることなく死を選んでいる実態が初めて裏付けられた。

研究は、黒木宣夫・東邦大佐倉病院助教授(精神神経医学)らが、99年度から2002年度までに自殺で労災認定された計104人のうち、約半数の51人について労災申請時の資料を分析した。

その結果、67%にあたる34人が、精神科や心療内科など精神疾患の専門科を受診していないことが判明。

一方、受診していた17人の相談内容は、「うつ病」や「うつ状態」が計10人。ほかに全身けん怠感や不眠症などがあった。

自殺の原因とみられる要因は、「ノルマの未達成」が圧倒的に多く、全体の61%にあたる31人を占めた。

黒木助教授は「心の病に対する理解が広がっているのに、労働現場では追いつめられながら『自分が病気だ』と気づいていない悲劇がある。SOSのサインをすくい上げる仕組みを作る必要がある」と指摘している。

(読売新聞 2005.7.2)


心の病気の内訳(入院)

血管性及び詳細不明の認知症 17,900人
アルコール使用<飲酒>による精神及び行動の障害 8,800人
その他の精神作用物質使用による精神及び行動の障害 700人
統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害 138,100人
気分[感情]障害(躁うつ病を含む) 18,400人
神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害 2,800人
知的障害<精神遅滞> 4,200人
その他の精神及び行動の障害 8,900人
総数 224,000人

(平成23年度 患者調査 厚生労働省)


職務との関連性を認めた判例

土浦労働基準監督署長事件(総合病院土浦協同病院)事件 水戸地裁 平成17.2.22

外科医として勤務した本件病院からの転勤後まもなく自殺した医師に遺族が、労災保険法に基づき、自殺は本件病院における業務に起因するうつ病によるとして、遺族補償年金を請求した。

労基署は、自殺は業務上の事由によるものではないとして、不支給を決定した。

裁判所は、本件病院における業務の上で感じていた心理的負荷は、社会通念上、うつ病を発症させる危険性を内在させているといえる程度に強いものである。同人の個体的要因にはうつ病発症と強い関連性を持つ要因は認められない。うつ病発症及びそれによる自殺は、同人の本件病院における業務に起因すると認めるのが相当であるとして、請求を認容した。

豊田労働基準監督署長(トヨタ自動車)事件 名古屋高裁 平成15.7.18

恒常的な時間外労働や過密労働により疲労が蓄積される中で、業務による強い心身的負荷を受け、うつ病を発症し、発作的に自殺したとして、業務とうつ病発症との間の相当因果関係が肯定された。

日赤益田赤十字病院事件 広島地裁 平成15.3.25

患者に行った検査が原因で当該患者に急性膵炎を発症させた医師が、責任を感じて思い悩み、患者の様態が悪化するにつれ自責の念を強め、身体的にも精神的にも疲労困ぱいして自殺に至った事案。

裁判所は、自殺は業務に起因し業務と自殺との間に因果関係があることは明らかであるとした。

なお、病院側の注意義務違反はないとして、損害賠償責任は否定された。

みくまの農協事件 和歌山地裁 平成14.2.19

給油所の所長が、台風により給油所が浸水し、4日間通常業務ができずに休業となったことから、うつ病に罹患し、自殺した事案について、「T(被災者)の精神状態が不安定になったのが、台風後であり、・・・他に自殺を考えるような原因が一切窺われないことからすると、・・・Tは思い悩む性格の持ち主であったと考えられ・・・台風に対する対処のまずさなどを思い悩んで精神疾患に罹患した末に自殺したものと認めるのが相当であって、Tの自殺と業務遂行の間には因果関係が認められる。

三洋電機サービス事件 浦和地裁 平成13.2.2

課長に昇進後、痴呆の父親の介護や、それにより妻に負担を掛けていることへの後ろめたさ、本人の完全主義的性格、課長の職責を的確に果たせていないこと、上司や妻に悩みを理解してもらえず、仕事に追いつめられていったことへの不満、精神的な支えとなっていた同僚の転院などから、精神的疾患に罹患し自殺した事案。

裁判所は、職務に対する労働がが過剰とはいえなくても、因果関係が認められるとしている。


職務との関連性を否定した判例

JR西日本尼崎電車区事件 大阪地裁 平成17.2.21

運転士の自殺は、会社の日勤教育を受けさせられたためにうつ状態に陥ったことによるものであって、上司らに過失があり、会社には雇用契約上の安全配慮義務違反があるとして、損害賠償が請求された。

裁判所は、日勤教育の指定ないし実施と自殺との間に法律上の因果関係があると言うためには、上司ならびに会社において、日勤教育によって自殺したという結果について、予見可能であったことを要するところ、予見可能であったとは認められないと判断した。

三田労働基準監督署長(ローレルバンクマシン)事件 東京地裁 平成15.2.12

現金両替機に保守部門の担当課長が、百貨店でのトラブル対応、銀行の両替機で発生した現金詐取事件の捜査協力でのストレス、および仕事上のミスに関して上司から叱責されるなどしたことにより、うつ病を発症し、自殺した事案。

裁判所は、「相当因果関係の判断は、・・・平均的労働者・・・を基準として、労働時間、仕事の質及び責任の程度等が過重であるために当該精神障害が発病させられ得る程度に強度の心理的負荷が加えられたと認められるかを判断、・・・そのうえで、本事案では、時間外労働は恒常化していたが、「十分な休日が保障されていたから、客観的にみて、平均的労働者にとって、特に強度の心理的負担を与える程度に至ってい たとはみとめられない。


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